第32話 いつもと違う門衛
朱雀門を通って城の中に入ったとき、碁盤目状の路のいたる所で普段見かけない武者が歩いているのを見てすぐ理解した。
今日この街で大規模な鬼の捜索が行われる。
城に常勤していない武者が城の中に呼ばれた理由は他にあるまい。しかし、城下に出た鬼は本当にそこまで危険なのか。夜叉が消えた今、わざわざ集結させる意図がわたしには読めない。
考え事をしながら本丸門の方へ歩いている途中、東端と西端に位置する左右近衛府の近辺で、それぞれ、武者が大勢集まってたまっているのが見えた。
さっさと本丸に入ろう。討伐隊の連中が右近衛府に集まってくる以上、ニノ区画にいるのは危険だ。
少し小走りで本丸門の前にやってきて、いつものように開いた門から中に入ろうとすると、急に門衛がわたしの前に出てきて道を塞いでくる。
意味がわからず、通してくださいと門衛にいうと、聞き慣れない声で、
「ここは、あなたの入れる場所ではありません」
と言い返してくる。
「どうして」と聞き返した直後、門衛がいつもの人ではないと気がついた。
「あなた、身分は」
門衛はわたしの着物を見ている。
「この着物は、先程城下に行ったから着ているだけで」
「そうですか。それで、身分は?」
わたしの顔を見ても揺らがないなんて、いつもの門衛より優秀じゃないか。
「前の門衛の人に聞けば、わたしが本丸に入っていいと分かるはず」
「あいにく、今はいませんねえ。」
何だコイツ。少しは融通というものをだなあ。
「だれか身元を保証してくれる人は?」
「姫君がわたしの身元を保証してくれるはずです。」
「そんな訳無いでしょう。」
「なんで!」
「だってねえ。そんな小汚い壺を抱えている女がかの姫君の従者なはず」
「なんだとっ」
「どうした」
この伸びやかな声。
「そ、その、そこのお嬢さんが姫君の従者だって言い張っておりまして」
「ほう……」
まずい――――この声は…
「君は――――」
右肩に置かれた手を払って走り出したが、わたしが向かおうとした方向にすでに男の身体があった。
立ち止まってはいけない。そう思って、思い切りその身体へぶつかっていこうと力を入れた瞬間、その男の手が、脇差しに行くのが見えて、思わず止まってしまった。
驚いて顔を上げ、清正と互いに顔を合わせたとき、わたしが停止してから一瞬止まっていた奴の右手が、瞬く間に脇差しを引き抜き、そして直後、その刃先をわたしに向けたまま大声で叫ぶ。
「鬼を見つけたぞッッ!」
その声があたりに波及し広がっていくと、城中から数秒で大勢の武者が集まって来て、どこにも逃げられなくなる。
だが、集まってきた武者の半分は、わたしに刀が向けられている事態を読み込めず戸惑っている。まだ勝機は消えていないと信じ一歩、そちらの方へ身体を寄せたが、群れの中から討伐隊の連中が表に出てきて、すぐにわたしを捕まえに近寄ってきた。
逃げ場を完全にたたれた末、乱暴に腕を掴まれ、首に刃を向けられ、捕まってしまった。
わたしが抵抗をやめると、ぐいぐいと背中を押されて歩かされる。周りが背の大きな男共に囲われているせいでどこへ向かっているのかよく分からない。しばらく乱暴に引っ張られていると、突然、前を塞いでいた武者がどき、どこに連れてこられたのか明らかになる。
わたしが連れてこられたのは刑部省だった。
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