第14話 城下到着(1/2)

 城下町に着いてから宿を探して歩いているのだが、すれ違うたびにボロボロの着物をジロジロと見られて少し恥ずかしい。ボロ布の破れた所の隙間から見える素肌を隠していると、びゅうと夜風が吹いてくしゃみが出た。ずっと世話になっていた呉服屋があるからまずはそこに寄ろう。


 呉服屋に暖簾は掛かっていないが、戸は開いていて中から灯りが漏れている。開いた戸から店の中に入ると、畳の上で店の奉公人が反物を運んだりしている姿が建物の柱の陰に時々見え隠れしている。店に上がろうと土間を奥に進んでいくと、先程まで柱の陰になっていて見えなかった店の中央で、青い着物姿の老婆が机に向かって金勘定をしているのを見つけた。


音をたてずに入ってきたせいで俺に気付いていないので、「御ばば、新しい着物を見繕ってくれないか。」と声を掛けた。すると俺の声に反応して顔を上げ、俺のボロボロの着物を見て驚いた後、俺の顔を見て目を丸くしたまま「あっ」と言った。


 記入していた帳簿を閉じると、持っていた筆を放り出して立ち上がり

「あんた、誰だいっ?」と言いつつこちらに寄ってきた。それから俺の着物をじっと見たままの状態で静止した。


「俺だ。雲雀だよ」

「どうして、お前さんがそいつを着ているんだい。死んだあの子の着物をくすねたのかい」

「御ババ、雲雀は死んでいない。俺だ。俺が雲雀だ。」

「お前さん、何を言ってるんだい。どう見ても違うじゃないの。」

「本当なんだって」

「何ふざけたこと抜かしてるんだ。馬鹿にしてんじゃ無いよっ!」


「確かこの着物を6回直してくれたな。御ババは幼いとき俺をチビと呼んだっけか。仕事を覚えないって姉貴をよく叱ったついでに、店に来た俺にまで八つ当たりする事が良くあったな」

「あんた、なんだい。恨み言をあの子の代わりに言いに来たのかい。嫌な子だね」

「違う。御ババに着物を見繕って貰うために来たんだ。それと何度も言うように俺が雲雀だ。そろそろ信じてもいいだろう。何度も同じ事を聞くと、ボケてるように思われるぞ。」

「ボケたこと言ってるのはあんただろうっ。」


とにかく入りなと腰に手を当てて俺の前を先導するので、促されるままにその背中に付いていく。そんな俺の事を不思議そうに見る奉公人たちに、御ババがさっさと仕事を終えて出て行くように合図する。御ババは店の右奥にある小さな部屋に障子を開けて俺を入れた後で閉め切ると、懐から巻尺を出して、

「そのボロいのを脱ぎな。」と命じてきたので、言われるままに服を脱いだ。


全身の痣や巻かれた包帯が露出すると、「その怪我はどうしたんだい。」と聞かれたので、気にしなくていいと返した。


「夜叉の首を獲った。」

「そうかい……」

「首を獲った次の朝、俺の姿が変わっていた。」

「驚いたろうねえ……」

「それから色々あって、ここに来た。」

「よく頑張ったじゃないのさ」


 俺の身体を割れ物のように扱うので、巻尺やら指やらが触れるのがくすぐったい。くすぐったさを我慢して、身体の寸法を全て測り終えるのを待っていると、しばらくしてようやく服を着なと指示が出た。ボロい着物を拾い上げていると、目を細めて「みっともないねえ」とぼやくので、「どうしろというんだ」と聞き返した。すると御ババは「貸してやるよ」と言ってこの小部屋から出て行って、数分して女物の桜柄の着物を持ってきた。


 女物の着物を着ることに少し躊躇していると、「何をしてるんだい」と呆れたように言われたので、反射的に指示に従って長襦袢ながじゅばんを着てしまった。長襦袢ながじゅばんの上から着物を着ようとしたとき、もう少し葛藤を覚えるべきだったと気づいて手を止めると、御ババはのろのろしていることに苛立って、俺に後ろから着物を被せてくる。その後しぶしぶ御ババの指示された通りに動いていると、着付けが終わって、俺は綺麗になった。

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