第24話 夏休み
もうすぐ夏休みだ。
高校に入ったらバイトを始めるつもりだったのだが、思いのほか友達ができたのが嬉しくて、すっかり忘れていた。
夏休みになったら、バイトを始めよう。毎日働けば、慣れるのも早いだろう。
「8月2日、花火大会行かない?」
バイト情報アプリを見ていた僕に、ありすが聞いてくる。
「行く!!」
花火大会?!
浴衣着て、お面付けて、りんご飴食べるやつ? あれ? それじゃ夏祭りか。
なんでもいい! ありすが、夏の催しに僕を誘ってくれたなんて!!
「天も行くってー」
「じゃ、集合場所決めようぜー」
え?……あ、みんなで、か。
いやあ、こういう早とちりも青春のスパイスさ。ガッカリなんか、しないさ……。
夏休みに入り、僕は毎日コツコツと宿題に取り組んだ。高校って、宿題多いんだなあ……。
そうして、待ちに待った、8月2日がやってきた。
集合時間は、午後6時。
僕の門限の時間だが、今日だけは門限が10時に変更された。
花火大会は7時半から20分ほどらしいから、その後みんなで晩ごはんを食べに行っても、十分間に合う計算だ。
浴衣を買おうか迷ったけれど、男性の浴衣の画像を見ていたら、この貧弱な体でメガネじゃ落語家にしか見えないな、と思い、やめておいた。
いつも通り、Tシャツにハーフパンツに靴下まで履いてスニーカーだ。
あ、前の方を浴衣の女の人が歩いている。
渡さんか? 渡さんっぽいな。
浴衣の男が2人、渡さんに何か言いながら近付いて来た。
また絡まれてるのか。海や祭りや花火大会には、ナンパ目的の男も多いんだろうなあ。
お、さらに前方から浴衣姿の男が猛ダッシュしてきた。小田くんだろうな。
やっぱり、小田くんだ。
小田くんが男達を蹴散らす。小田くんが渡さんを抱きしめている。
「何やってんの、道路の真ん中で」
知らん顔でスルーしとくか、とも思ったが、苦言を呈しておいた。
「あ、天。久しぶり!」
夏休みに入ってから会ってないから、みんなと会うのも久しぶりだ。
小田くんの腕の中から、黒地に濃淡様々な紫の花柄の浴衣を着て、髪にピンクっぽい紫の大きな花を付けた渡さんが姿を現した。
「おぅっ……」
大人っぽい浴衣がよく似合う。めちゃくちゃ綺麗だ……。
「ひ、久しぶり」
よくナンパなんかできたな。こんなん、声掛けられんわ。顔面を直視することすらできんわ。
「愛堂くん! 美菜子、めっちゃ綺麗じゃね?! なあ、俺の彼女! なあ! 俺の彼女!なあ!」
めっちゃ綺麗だけど、なんかめっちゃウザい。
「あんた、なにその格好! だっさ」
ああ、口を開くとこれだよ。緊張がスン、と解ける。
いっそ、黙ってくれていればいいのか?
でも、中身こんななのに見てくれが綺麗だからってムダに緊張させられるのも癇に障る。
うん、渡さんは口が悪いくらいが僕も自然体でいられてちょうどいい。
渡さんの頭の花、造花かなあ? よくできてるなあ。
「あ! 茶髪になってる!」
夏休み前と変わらない長さのボブの渡さんの髪が、黒から明るい茶色に変化している。
「似合うでしょー」
「まあ、似合うけど」
こうして見たら、渡さんと小田くんって制服着てないと高校生カップルには見えないな。
2人とも背が高いし、茶髪で顔濃いめで大人のギャルとギャル男って感じがする。
「ありすとゆかりんも浴衣よ。3人で買いに行ったの」
「え! ありすも?」
ありすが浴衣かー。想像が膨らむ。
ありすに似合うのはやっぱり、ピンクとか白とかかな。かわいいだろうなあ。楽しみだなあ。渡さんと並ぶと、姉妹に見えそうだなあ。あはは。
「ニヤニヤしすぎでしょー。キッモ」
……やっぱり、渡さんには黙ってていただきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます