第25話 花火大会
集合場所は、ありすの家の近くの公園だ。規模は小さいらしいが、ありすの地元では人気の花火大会だそうだ。
ちらほらと浴衣姿の人も目立ってきた。
あ、あの茶色い浴衣、近藤くんじゃないだろうか。
「近藤くん! 久しぶり!」
「あ、久しぶりー……」
近藤くんが、渡さんに目を奪われている。
元から渡さんの方が近藤くんよりも背が高いが、渡さんが厚底の高下駄を履いているのでもう見上げるくらいの身長差がある。
今近藤くん、すごい圧かかってんだろうなあ。でも、そんなに見てると発動するぞ。
「なあ! 美菜子めっちゃ綺麗じゃね?! なあ! 俺の彼女! なあ!」
案の定、小田くんが発動した。
「あ! ゆかりーん!」
お、橘さんも浴衣だと言ってたな。
長い黒髪で大和なでしこな雰囲気の橘さんに浴衣はよく似合いそうだ。
「あー久しぶりー!」
現れたのは、金髪を盛モリにして大きな赤い花を付け、白地に藍色の花柄の浴衣に赤い帯、派手なメイクの顔。カラフルだな。
「え?! 誰?!」
「ゆかりん」
「ゆかりん、こんなだっけ?!」
釣られてゆかりんって言っちゃったよ。近藤くんなんて、口開いちゃってポカーンだよ。
「イメチェン大成功〜!」
いえーい、と渡さんと橘さんがハイタッチしている。
「ゆかりん、金髪似合うじゃーん!」
小田くんもハイタッチに参加する。順応早!!
てか似合うも何もメイクが強すぎて、どんな顔だか原型留めてないんだけど。
「めっちゃ目デカくなってるじゃーん!」
「アーイープーチ〜!」
「かーわーいーいー」
「いえーい、やった〜」
こんなにも、短期間で人って変わるのか……。
あ! まさか、ありすもギャルに?!
足早に集合場所の公園に向かう。
まさか、まさか、ありす……!
「ねえ、ありすもギャルってんの?」
と聞こうかとも思ったが、
「もち!」
とでも言われようものなら、もう……。
この目で、確かめるんだ! 可憐なありすよ! どうか、そのまま……!
どうか、いつものありすであってくれ!
「あー、久しぶりー。みんな揃って来たんだー」
ありすは、黒髪を結って大きなピンクの花を付けている。
紺地で薄い黄緑の葉や茎が流れるように描かれた模様に、淡いピンクの小さな花がたくさん描かれた浴衣を着ている。
ありすらしい、白やピンクのかわいい浴衣姿を想像していたのだが、違った。
想像より、ずっと大人っぽい浴衣だった。いつものありすとは、まるで違う。
上品で、美しい……。
「ありす、かわいいでしょ。こういう小柄で童顔の子は、紺色とか落ち着いた色の浴衣の方がいいんだってー。ピンクとか着ちゃうと、小学生みたいになっちゃうんだってー」
「……うん、かわいい……」
「あ、ありがとう……」
「ねえ、聞いてる?!」
なんて美しいんだ。
小学生みたいになっちゃったありすを期待していたが、ベクトルは真逆でも期待値を大幅に上回っている!!
お祭りの会場に着いた。たしかに規模は小さいし人もまばらだが、ちらほらと出店もある。たこ焼きを食べたり、金魚すくいをしたり、夏祭りを満喫だ!
浴衣の女子達とお祭りだなんて、漫画でも多くはないシチュエーションじゃないか?
僕の青春は、すごいレベルまできている!
「花火、そろそろだよね!」
「けっこう、パンパン打ち上がる感じ?」
「うん! 流行った曲に合わせて打ち上がったりもするよ。すーぐ終わっちゃうけどね」
僕は、花火大会に来たのは初めてだ。打ち上げ花火を見るのも、たぶん初めてだ。
空に花火かあ。テレビで見たことはあるけど、どんな感じなんだろう。
「へぇー、今年は何の曲だろうね」
「絶対あれだよ! こないだカラオケでありすが歌ってたやつ!」
「あーありそう!」
と、突然 パン!! と音がした。
なんだ? ピストルの音?
「始まる!!」
「え?」
パーン!
と、空に巨大な花火が現れた。
同時に、ちびっ子向けアニメのオープニングの曲が始まった。
すごい! 手持ち花火とは、迫力が違う!!
ちびっ子アニメの曲が終わると、花火もやみ、煙が漂う。
うわあ、火薬の匂いがする! すごい!
ふふふふっと、堪えきれないと言うような小さな笑い声が聞こえた。
僕の半歩ほど前の左側に立っていたありすが、こちらを向いて笑っている。
「え、どうかした?」
「パーン! って打ち上がる度にわー!! って叫んでるのが聞こえてたから、子供かなーと思って振り返ったら天だったんだもん」
「え?! うるさかった? ごめん!」
「ううん、かわいかった」
「へ?」
かわいかった……? 僕が?
小さめの花火が連発して上がる。曲が流れてくる。
「あ! これ」
「お! きたー!」
ありすがカラオケで歌ってたアニメソングだ。
ありすが嬉しそうに空を見上げている。
かわいいのは、やっぱりそちらだよ。
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