第23話 隣のクラスの笹竹くん
昨日は、意外と楽しかったな。ちょっと、デート気分を味わえたし……いい子だったなあ。
人気者は人格者でもあるんだな。
妬みそねみがないから、あんな爽やかな人物に育つんだろうか。
「おはよう!」
あ、噂をすれば、旗中さんだ。朝から明るく爽やかだなあ。
「おはよう」
「弟、すっごく喜んでたよ! お兄ちゃんにありがとうって言っといてって」
「それは良かった。サイズ、大丈夫だった?」
「うん! バッチリ! 少しだけ大きめだから、来年も着れそうだよ」
部室に寄るから、と、旗中さんは慌ただしく去って行った。
そうか、喜んでもらえて、良かった良かった。
「おはよう、愛堂くん」
「あ、おはよう、近藤くん」
近藤くんは、旗中さんと対照的に暗いなあ。
「愛堂くんは、宇崎さん渡さんと仲がいい上に、旗中さんとまで仲がいいんだね……モテてんじゃねえぞ、こら」
最後、小さい声だがかろうじて聞こえたよ。暗いし、誤解だ。
「1ミリも誰からもモテてなんかないよ。悲しいほどに。旗中さんだって、同じ中学だったから、なんとなくしゃべってるだけだよ」
「へえ。愛堂くんは同じ中学だったら弟にプレゼントあげるんだ?」
「聞いてたのか……いや、たまたま、そういう流れがあっただけだよ」
「どんな流れがあったら旗中さんにプレゼント渡せるんだよ。かわいい子なら誰でもいいんじゃないのか、実は」
旗中さんにプレゼントを渡したいのだろうか。かわいい子なら誰でもいいのは、もしかすると近藤くんの方じゃなかろうか。
「だいたい、愛堂くんは僕のようにチビデブメガネじゃないじゃないか。シュッとしてるくせに何僕達同じカテゴリーみたいな空気出してるんだよ」
「ヒョロガリメガネなんだが、同じカテゴリーに入れてもらえないものなのか」
どう育ったら、こんな妬みそねみだらけになるんだ。普段は温厚で穏やかな近藤くんだが、どうも最近女の子が絡むと攻撃的だなあ。
教室に入り、窓際の僕の席へと向かう。
「あ、今来たのが愛堂くんだよ」
と、男子の声がした気がする。
「彼か。ありがとう」
また違う男子の声がした気がする。
え? 何? 男子に絡まれるの? なんで?
あ、昨日旗中さんとショッピングしてたのを誰かに見られていて、
「なんでお前みたいなヤツが旗中さんと休日過ごしてんだよ!」
って、因縁つけられる?!
足音が近付いてくる。
僕は席に着き、カバンから丁寧に筆箱を取り出し、机に置いた。
1時間目は何だったかな。生徒手帳を取り出し、時間割を確認する。
足音が、僕の席の前で止まった……。
「オー! これは、綺麗な男の
至近距離で生徒手帳を見ている僕を覗き込む外国人が、目の前に現れた。
……どちらさん……?
「はじめまして、隣のクラスの
生徒手帳を持つ僕の手を取り、甲に分厚い唇を押し付けてくる。
……柔らかい。そして、温かい。
「1組に綺麗な男の娘がいるって聞いてね。見に来たんだ。オーウ、綺麗だね!」
男の子の言い方がなんか引っかかるんだが、僕は女子のセーラー服を間違えて着てたり、しないよな?
うん、ちゃんと男子の制服を着ている。
「誰? その外人」
渡さんと小田くんが登校してきた。
「お! 外人だ! ハロオー!」
いきなりハイタッチで打ち解ける。いや、早すぎるだろ。
「1年2組の
「その顔で誠とか、ウケる」
いや、珍しく渡さんと同意見だが、失礼じゃないか。
「あー! 2組にハーフがいるって聞いたわ!」
ハーフ? 100%に見えるが。
「はい、俺だね! トルコとネパールのハーフだよ」
なるほど! やはり日本はゼロだ。
太い眉毛、大きな目、ガッシリ生えたまつ毛、大きな鼻に大きな口、どこをとっても日本人離れしている。
体格もドッシリとしていて、まるで僕と真逆だ。
「髪も綺麗だ〜。綺麗な肌だね〜。ほっぺが真っ白だよ、美しいね〜」
髪やら顔やら、遠慮なく触ってくる。僕のほっぺたにまで、笹竹くんはその分厚い唇を押し付けてきた。
「うっわ、キモ」
渡さんは、外人さん相手でも容赦ない。
キッと、鋭い目付きになった笹竹くんが渡さんを見る。
「何もキモくない!」
「いや、キモいって。男同志で何やってんだって話よ。そいつ、女みたいな顔してるけど男だからね」
僕のほっぺたにチューをするためにしゃがみこんでいた笹竹くんが、立ち上がった。デカイな。
「男も女も関係ない! 綺麗な人は男でも綺麗。綺麗な肌は、男の肌でも綺麗!」
「じゃあ、綺麗な女にもチューするの?」
「しない!」
男も女も関係あるじゃないか。
笹竹くんはまた座り込み、僕の顔を覗き込む。
「放課後、俺の家においでよ。一緒に新しい扉を開こうよ!」
「僕、昨日新しいゲームダウンロードしたから、早く家に帰ってゲームしたいんだ」
扉なんて開けてる暇は、今日の僕にはないのだ。
ダウンロードして、設定を終えて、12時間後から5時間だけ入手できるレアアイテムがあるんだ。17時までに、レアアイテムを入手しなくては!
「え? 何? どうしたの?」
橘さんが心配そうにやってきて、渡さんに尋ねている。
「天が外人のホモのゲイに家に誘われてるの」
「はい?!」
「適当な事を言うのは、やめなさい!」
全く、渡さんは……。
僕も英語は嫌いじゃないし、異文化コミュニケーションに興味はあるけど、今日はゲームが最優先だ。
「両親とも外人なのに日本語上手だね」
小田くんは、笹竹くんに興味があるようだ。
「俺も両親も、日本生まれ日本育ちだからね。むしろ、外国には1度も行ったことがないよ」
「なんだ、顔以外は日本人じゃん」
渡さんが意味不明にガッカリしている。
ていうか、日本文化の中で育ってるんじゃないか。
「じゃあ、さっきの過剰なスキンシップは何だったんだ……」
「あれは、君へのほとばしる愛がさせたことなんだよ!」
「へえ、ほとばしる、とか日常会話で使えるんだね。日本育ちだって聞いてても、その顔で言われると感心しちゃうなあ」
「声もいいね。見た目によらず低い声でカッコいいよ! その声で、俺への愛をささやいてもらいたいものだよ」
「笹竹くんは見た目通りのゴリラボイスだね。笹竹くんの声もワイルドでカッコいいよ」
「本当に綺麗な髪だなあ。俺はその髪になりたい」
「笹竹くんの髪はすごいボリュームだよね。いいなあ、ハゲる心配皆無だね」
おもしろいなあ、日本語が完璧な外人さんって、テレビでは見るけど目の前にいるとすごい違和感だ。
「あれだな。笹竹くんは、天と言う難攻不落の城に攻め入っちゃってるな、これ」
「愛堂くん、スーパーピュアボーイだとは思ってたけど、これだけオールスルーするとは、驚きを隠せないわ」
「早々に撤退して正解だったね、ゆかりん」
「うん、勇気ある撤退だったと、今確信を持ったわ」
「なんだろ、心のシャッター的なものを締め切ってるのかしら」
「なんかもう、わざわざ締め切ってるわけでもなくて、標準装備で閉まってるって感じ」
渡さんと橘さん師弟が小声でごちゃごちゃ言ってるのがおぼろげに聞こえてくる。
戸締まりがなんだってんだ、朝っぱらから。
業を煮やしたのか、渡さんが大きな声で言う。
「笹竹くん、ムダだと思うよー。そいつ、女好きだよー」
「誰が女好きだ!」
僕はありすだけを好きなだけだ!!
「じゃあ、男が好きなの?」
「そんなわけないだろ! 女が好きだ!」
「え……天って、女好きだったんだ」
「ありす?!」
なんてタイミングで登校してしまったんだ、ありす!
「男も女も関係ない! 大事なのは、そこに愛があるかどうかだ! ほとばしるモノがあるかどうかだ!」
「え……誰?」
笹竹くん、いいことを言う!
そうだ、僕にはほとばしるありすへの愛がある!!
それは、ありすへの愛だ。男だ女だじゃない、ありす個人への!!
「そうだよね、笹竹くん! 大事なものは、ほとばしるんだ!!」
チャイムが鳴った。
笹竹くんは
「また会いに来るよ〜」
と、去って行った。
結局、彼は何だったんだ。わけがわからない。
「結局、一目惚れだったのかしら」
「なにが? 何の話だよ」
「笹竹くんが、天に一目惚れだったのかしら、って話よ」
「は?! 笹竹くんは、男らしい男だよ?」
「いや、だからさ、笹竹くん何回も言ってたじゃん、男も女も関係ないって。天のこと綺麗だ綺麗だって、言ってたじゃん」
……え……ええ?! 衝撃が強すぎて……。
「え、僕、笹竹くんに一目で惚れられてたの?」
「えーマジでー。そっからなのー。どんくさすぎるでしょー」
……え……あ! じゃあ僕、笹竹くんにモテてたの?!
モテ期、来た!
「天、違うと思うよ」
「え? 何が?」
「いや、なんか、モテ期来たーって顔したように見えたから」
「勝手に僕の心を読まないでくれる? 気持ち悪い」
「モテ期来たと思ったの?! 気持ち悪い!」
……あ、僕がモテただなんて、近藤くんが怒り狂っているかもしれない……。
近藤くんの席を見る。近藤くんは、静かに本を読んでいる。
男相手だと、完全無関心?!
え?! 登校してきたクラスメイトもれなくこちらに注目してた勢いだし、なんなら廊下から他のクラスの生徒達すら僕らの方を見てるのに?!
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