第21話 2位
翌日から、早速テストが返されていく。
個人成績票も渡された。
ほう。学年内2位か、まあ上等だが、僕の上をいく人間が誰なのか、気にならないと言ったら嘘にな……おや。
僕は学年内2位だが、クラス内も2位だ。
このクラスに、僕を上回る点数を取った人間がいる!!
誰だ?!
僕の席は左端の最前列なので、振り返れば全員の顔色が見える。
だが、1人を除いてみんな僕よりも成績が悪かった。
この、成績票をみんなが受け取ったタイミングで1位探しをしようものなら、
「お前、成績良かったからって調子乗ってんじゃねーよ!!」
と、キレられるのは必至!
あーでも、気になるなあ……。
やっぱりメガネか? メガネを掛けた人物が1位か?
筆頭候補は、やはり橘さんだろう。いかにも頭が良さそうな上に、コツコツと努力を続けそうだ。
神山手高校を狙っていた僕を上回るには、日々の勤勉さは必須だろう。
これは、橘さんで決まりか?
いや、恋のライバル近藤くんも怪しい。
近藤くんはカラオケでも何を歌っていたのか1曲も覚えていないくらい影が薄い。
授業中にいくつも秀才さが見えるミラクルプレイをしていたとしても、見逃していた可能性がある。
いや待て、もしかすると、天才がいるのか?!
勉強よりも遊んでいそうな小田くんがダークホースか?!
いくら毎日真面目に勉強してたって、僕だって真面目にやっていた。
その僕よりも点数を取れたのは、勉強なんて特にやらなくても授業を聞いていればすべて頭に入る、ノートすら取る必要のない天才なのでは?!
「すごい! 学年1位だって!!」
渡さんの声がする。
いや、渡さんじゃないのは絶対だ。
いつの間にかチャイムが鳴って、休み時間になっていたらしい。
僕の後ろの席、愛しいありすの机の上に渡さんが座っている。
「ありす、超あったまいいー!!」
「えへ、そんなことないよ、たまたまだよ」
ありすか?!
かわいい上に、僕よりも頭がいいって言うのか?!
軽くショックだ。メガネ、してないじゃん……。
「いいなー、私なんてベベツーだよ。最下位じゃなかっただけマシだけどさー」
渡さんよりも点の取れない人間なんているのか。かわいそうに。
「橘さんが学年2位だったりするんじゃないのー? 頭良さそうだもん」
橘さんの手から、勝手に個人成績票を奪う。
「こら! それは個人情報だよ!勝手に見ないで返しなさい! 渡さん!」
「いいじゃん、橘さん絶対成績いいんだ……し……あ、ごめん」
渡さんが、珍しく大人しく成績票を返した。
え……まさか?
まさか、橘さんが……?
辺りがまさかの空気に包まれる。
いや、ナイナイ。橘さんが、渡さんよりも点取ってないだなんて。
「私、模試でも聖天坂高校、D判定までしか取ったことないんだ」
橘さんが、静かに語りだした。
「私立に受かって、お母さんがテンション上がっちゃって。元々、偏差値10くらい下の高校が第1志望だったのに、聖天坂高校ならわりと近いし、名前カッコイイし、志望校変更しちゃいなよーって、進路相談で言い出しちゃって」
おお、僕と逆パターンか……。
「担任の先生も、上を目指すのはいいことだーとか、賛成しだして。なんか、いけそうな気になって志望校変えて、受験したらなぜか受かって。でもやっぱり、授業聞いててもよく分からなくて……今に至る」
至っちゃったよ……。
「いや、でも、俺もそんな感じよー? よく受かったなお前ーとか、言われたよー」
「うんうん、私なんか、ドーピングして受かったようなもんだしー」
小田くんと渡さんがフォローする側に回るとは、珍しい。だが、成績の良かった僕達よりよほど適任である。
「……でも、2人とも私より成績良かったんだよね……」
「……えーと……順位はアレだけど、得点は私と変わんないと思うよー。何点か違ったって、そんなん誤差の範囲だからー……えー!総合得点50点以上違うよ! うっそーこれヤバくない?! これもう、ほとんど点なんてないよ。超ウケるー! あ。……あー、ごめん、悪気はなかったんだけど、なんだろ、びっくりしちゃったって言うか……ね?」
「も、もー! 渡さん、1人で何をしゃべり続けてんのー? もう、何言ってんのか分からなかったよー」
やっぱり、渡さんにフォロー役なんて無理だったんだ!
「あ! ねえ! 次のテスト前はみんなで勉強しようよ!」
さすがありす!
素晴らしい提案だ。ありすと一緒に勉強できるなんて、ナイスだ!
「それ、いいね! 私も勉強しないと、抜かされたら私が最下位になるもん。最下位とか絶対いやだしー。1年の最下位ってさ、たぶん1年生が1番モノ知らないんだから学校の最下位よ? うわ、やっばい、あと1人で私キングオブバカイン聖天坂高校になるとこ……ろ……ってあの、違うのよ、悪気はないのよ、ただね、橘さんが最下位だったのついうっかり忘れちゃって」
「渡さん! もーほんと、黙ってなさい!」
「美菜子、お口チャック!」
「もう俺がその口塞いでやる! 俺の唇で。ちゅっ」
「お前彼女いるからって調子乗んなよ! 恥を知れえ!」
おお、大人しい近藤くんがキレた!
てかほんと、何をしてるんだよ、小田くんは。
「みんなありがとう。でも、いいの。私、勉強はできなくても、将来の展望はあるの」
「えー何なに?」
良かった、一気に空気が明るくなった。
そうだよ、勉強なんてできなくたって夢があればいいじゃないか!
「私、高校卒業したらすぐ結婚する。そのために、1日でも早く彼氏がほしいの。渡さん!」
「へ? はい?」
「私を、弟子にして下さい!」
「は?」
いやいやいやいや、その門は叩いてはいけない門だ!
「私、渡さんみたいになりたいの! 彼氏のいる渡さんのような女になりたい! 友達の前で、チューされるような女になりたいの!」
「僕はラブラブカッポーに見せつけられ役なんて、お断りだからな!」
近藤くんは、ラブラブカッポーが嫌いなようだ。
「やめた方がいいって! そっち行っちゃダメだよ!」
「そうだよ! 帰っておいで、橘さん!」
あ、僕だけじゃなくて、みんなも同じ気持ちなんだな。
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