第20話 デュエット

 僕が2曲目に選んだ曲は、イントロが始まってもみんな何コレ? な感じだった。


 お母さんがGUTSファンだと言う渡さんは、


「あ、車のCMのやつ?」


 と聞いてきたが。


 CMで流れていたサビになると、口々にあー聞いたことある〜と言っていた。良かった、みんな聞いたことくらいはあったんだ。


 なにアイツ、わけわかんねー古い歌入れやがって、空気読めねー陰キャだな、とは思われてなさそうだ。


 ああ、良かった。GUTS愛を貫きつつ、みんなに引かれることは避けられたであろう。


「意外とハードロックも歌えるんだー」


 そう、僕はハードロックとは真逆のひ弱な色白メガネだけど、GUTSは大好きなんだ!


「なんか、さっきのバラードよりこっちのがより声そっくりだね」


「マジでCMで流れてたまんまで、ビビったわー」


「え、そ、そう?」


 似てるって言われるのも、なんか嬉しいなあ。


「何ニヤニヤしてんのよ、天。キモ」


 せっかく人が喜んでるのに……渡さんは本当に……


「僕、なんかわかるよー。好きなアーティストに似てるって言われると、嬉しいよね」


「近藤くん……そうなんだ、嬉しかったんだよ」


「近藤くん歌ってたの、ぜんっぜん似てなかったけどね」


 ……ごめん、近藤くん。流れ弾に被弾させる結果になってしまって……。


 さて、3周目だ……いよいよ、困ったなあ。みんな、GUTSに好意的であるように感じる。


 だが、ここで攻めすぎて


「GUTSファン、ウザ」


 と思われてしまっては、帰宅後検索してはもらえないだろう。


 だが、僕はGUTS以外で歌える曲のバリエーションなんて、ほとんどない。


 かと言って、知ってるからってだけで特に歌いたくもない歌を歌うのも、なんか嫌だ。


 やはり、自分が好きな曲、感銘を受けた歌を歌いたい。一か八か……行こう!


 画面に映し出される、


「どんぐりころころ」

(童謡)


 に、みんな衝撃が走ったようだ。


「ハードロックから童謡?!」


「振り幅キツすぎない?!」


「いや、これが奥が深いんだよ、どんぐりころころって……あ、始まるから、ちょっと待って」


 ♪どんぐりころころ ドンブリコ♪


 歌詞が映し出される。


「ドンブリコなの? どんぐりこだと思ってたー」


 そうなんだよ!


 誤解の多い歌詞なのだ。しっかり2番まで歌う。


「凄いんだよ、どんぐりころころ。Wikipediaで見たんだけど、時代によって歌詞が変わってたり、漢字がひらがなになったり変化してるんだよ」


「どんぐりころころを、わざわざ検索するの?!」


「うん。なんか、検索した」


 そういえば、なんで検索したんだろう? でも、その結果がすごくおもしろかったんだ。古い童謡って、時代と共に変化してるんだよ!


 近藤くんが歌い始めて、ありすがトイレに行って、小田くんと渡さんがなんか暴れて、橘さんと隣り合わせになった。


 橘さんは、リモコンに向かって検索しながら、んー、んー、と悩んでる様子だ。


「どうしたの?」


 と、聞いてみた。


「愛堂くん……あの、何入れたらいいかなあってゆうか……」


 橘さんも、なんとなく、僕と同じく流行りの曲は知らなさそうかも?


「童謡でもいいんだよ。ちょうちょうも、すごくおもしろいよ。元はドイツの童謡らしくて」


「え、ちょうちょう? えーと……覚えてないかも……何年も歌ってないし」


「そう? 歌い出したら思い出すかもしれないけど。ちょうちょーちょうちょーってやつ」


「あ! 愛堂くんが一緒に歌ってくれたら、思い出すかもしれない」


「え?」


「デュエットしよう? ……いい?」


「うん。まあ、いいよ。たぶん覚えてる」


「ありがとう!」


 そして必然的に画面に映し出される、


「ちょうちょう」

(童謡)


「今度はちょうちょう?!」


「あ、マイクもうひとつ、取って」


「え?」


「あ! 私と! 愛堂くんと、デュエットするの!」


「デュエット?! ちょうちょうをデュエットするの?!」


 僕と橘さんは、2人でちょうちょうを歌った。なんだ、橘さん、ちょうちょうを完全に覚えてるじゃないか。


 無事2時間のカラオケタイムを和やかな空気で終えることができた。


 部屋を出る時まで、


「フロントに何返すの、この店?」


「あ! 誰かスマホ忘れてるよー!」


 と、なんだか賑やかで楽しかった!


 ああ、青春を謳歌しているなあ。その上、部屋代80%off! ほぼジュース代で2時間も楽しめた。


「じゃあ、テストお疲れ様でしたー!!」


 あ、そうだ、テストが終わったからの打ち上げだった。


「お疲れ様ー」


「またねー」


 と、それぞれ帰って行く。


 僕と、橘さん、渡さん、小田くんが同じ方向へ歩き出す。


「ありす歌ってたやつ、私も流行りに乗っかろうかなあ。全然話知らないんだよね」


 ああ、アニメの話かな。


「俺、漫画全巻持ってるよ。貸そっか?」


「マジでー貸して貸して!」


「じゃあ、うちあっちだよ」


 小田くんは渡さんを送るためにこちらに来ていたようだ。じゃあねーと、来た道を引き返して行った。


 橘さんと2人、歩く。


「楽しかったなあ。僕、友達とカラオケなんて初めてだったよ」


「私も。でも……私はなんか、友達いなかったって自白するみたいで、なんか、楽しかったとか素直に言えないんだよね」


「そう? 橘さんは素直だと思うよ」


 自分の欲望にのみ素直な渡さんを見慣れてしまってからというもの、他の人の素直さ優しさが身に染みる。


「愛堂くんのサラッとそういうこと言えるところ、好きです」


 立ち止まり、僕の顔を見て橘さんが言う。


「ありがとう。でも僕、特に素直でもないよー」


 橘さんは難しく考えすぎる傾向があるのかもしれないなあ。


「あーもう、いいや。あきらめた! 今からでも高校デビューしようかな」


 お? なんだ? 急に。


「あきらめた? 何を?」


 八の字眉毛じゃない、さっぱりした笑顔で橘さんが言う。


「私は今すぐにでも彼氏がほしいから愛堂くんの心が空くまで待たないけど、でも、友達ではいてね」


「ああ、まだそんなことで悩んでいたのか」


「え?」


「橘さん、僕はとーっくに橘さんは友達だと思っているよ!」


「え?」


「みんなだってきっとそうだよ! みんな、橘さんのことを友達だと思ってるよ!」


 分かるよ、橘さん。僕だってそうだ。


 いきなりたくさん友達ができて、え? これは夢かしら? ってなるよね。でも大丈夫、これは現実だ。


「何もあきらめることなんてないよ。一緒に高校生活を楽しもうよ!」


「あはは! うん!! 楽しむ! でも私、友達がほしいわけじゃないって初めてしゃべった時から言ってるんだけどね」


 あれ? そうだっけ?

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