第16話 夕焼け

 かわいいポニョやジジやラピュタやシータやサツキやクラリスやチヒロやナウシカやセツコ達と遊んでいたら、5時半を過ぎてしまった。


「そろそろ帰らないと。門限6時なんだ」


「高校生にもなって、門限って! しかも、6時って!」


 渡さんがケラケラ笑う。


 まあ、お母さんは仕事で家に帰っても誰もいないのだが。


「また遊びに来てね!」


「うん! ぜひ!」


 名残惜しく、ジジを見る。


 微動だにせず、ジジは凛と座っている。


 本当にぬいぐるみなんじゃないのか。


「あ、じゃあ、私もそろそろ……」


 橘さんも立ち上がった。


「私もうちょいセツコと遊ぼー」


 渡さんは帰らないようだ。


「じゃあ、2人で先に失礼しようか、橘さん」


「は、はい!!」


 橘さんもこんな大きな声出るんだなあ。


 あ、もしかして、帰り道が分からなくて不安だったんだろうか。


 渡さんを残して部屋を出ながら、


「学校まで一緒に行こうか? 学校からは道分かるよね」


 と橘さんに声を掛けた。


「あ! 道! 覚えてないわ。私も帰るー」


 渡さんが慌てて立ち上がる。


 また、橘さんの顔にちびまる子ちゃんのような縦線がいくつも走ったようだ。


 ありすに見送られ、渡さんと橘さんは自転車を押しながら歩く。


「うわー! 夕焼けすごいねえ!」


 渡さんが大声を上げる。


「すごい……」


 空が、一面真っ赤だ。


 僕は授業が終わるとすぐに家に帰っていて門限なんて気にしたこともなかったくらいだから、こんな時間に外にいたことがなかった。


 夕焼けって、こんなに赤いんだ……。


 夕焼け空の中、制服姿で同級生と歩くなんて、完全に青春映画のワンシーンだ!


 これが、川沿いならもっと良かったけど、残念ながらこの辺りに川はない。


「犬も猫も、かわいかったよねえ」


「渡さんはかなりセツコがお気に入りみたいだね」


 あの、ありすそっくりのパグを渡さんはずっと独り占めしていた。


 僕だって、たくさん抱っこしたかったのに!


「かわいいんだもん。ああいう愛嬌のある顔、好きなの」


 それで、珍しくありすのことを気に入ったんだろうか?


 中学の時は、特に仲のいい友達なんて作ろうともしてないようだったのに。


 それにしても……なんて綺麗な空なんだ。


 素晴らしい高校生活のスタートを祝ってくれているようだ。


 いつの間にか、3人とも歩くことをやめていた。


 空を見ていると、刻一刻と色が移り、変わっていく。


 夜が押し寄せてきているんだなあ。


 夜の訪れすら、ドラマの中にいるような幻想的な感じがする。


 ろくに友達なんてできなかった僕が、高校入学2日目で友達に囲まれ、自宅に遊びにまで行かせてもらって、こうして今、友達と一緒に夕焼けの中にいる。


 なんて青春真っ只中なんだろう。


 僕に、こんな高校生活が待っていたなんて。


「この空きっと、一生忘れないなあ……」


 思わず、呟いた。


 ふと、視線を感じて無意識に横を向くと、橘さんが僕を見ていた。


「私も。絶対、一生忘れない」

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