第14話 食堂

 高校に入学して、初めてのお昼休みだ。


 友達ができたら一緒に食べられるように、と、お母さんがお弁当を持たせてくれている。


 そして、友達が購買でパンでも買おーぜ、と誘ってきた場合に備えて、お金ももらっている。


 そして僕は今、食堂でお弁当を広げている。


 ありすと橘さんは、お弁当ではないので買いに行っている。


 僕と渡さんはお弁当があるので、文字通りお弁当を広げて、4人分の席を確保しているのだ。


 うわあ、食堂だ。中学時代は結局1度も食堂でお昼ごはんを食べなかった。


 たくさんの生徒がいる中に、僕もいる。


 ああ、なんか、青春って感じだなあ。


 食堂っていいなあ。


 そこかしこで生徒達の笑顔があり、カップルでお弁当を開いている人達もいる。


 うわあ、ドラマの中に入ったようだ。


 先月まで、薄暗い屋上扉前でいくら注意してもスマホを見続ける渡さんに


「肘を付かない! すぐに肘を付くのは腹筋が衰えているサインだよ、腹筋を鍛えた方がいいよ」


 だの、


「膝は立てない! 行儀悪いし、パンツ見えてるよ! 恥じらいを持ちなさい」


 だの、根気よく食事のマナーを教えていたのが嘘のようだ。


 保育園でバイトしているかのような気持ちになったものだが、今はどうだ。


 青春真っ只中! 食堂だ。


 しかし、また渡さんと一緒にお昼ごはんを食べるはめになったか……。


 彼女は、自分が食べたいものを食べるのだ。


 それが、人のお弁当のおかずだろうと。


「やっぱり! また初日は豪華弁当だと思ってた! いただきまーす」


 場所を取るために広げているお弁当から、おかずがみるみる減っていく。


 買いに行っている人達を待とうと言う気持ちはないのか、この人は。


 ありすと橘さんが戻って来た。


「もうそんなに食べたの? 天って見た目によらず早食いなのね」


 早食いなのは渡さんだ。


 きつねうどんをトレーに載せて、ありすが僕の斜め前、渡さんの隣に座る。


 僕の隣には、橘さんがかけうどんを置いて、座った。


「温かいうどんもいいね。僕も明日はうどんにしようかな」


「まだちょっと寒いしね。ありす寒がりだから、あったかいのがいいんだー」


 そうなんだ。


 寒がりってなんか、女の子って感じがするなあ。


 なんて、かわいいんだろう!


 あったかいのだけならラーメンもメニューにあるけど、ありすはうどんが好きなのかな?


「愛堂くんは、な、なんかペット飼ってるの?」


 橘さんが聞いてくる。


「僕は飼ってないよ。猫動画を楽しんでるくらいだね」


「あ、うちの猫見る?」


 ありすがスマホを出してくる。


 え、でも……


「見たいけど、うどん食べた方がいいんじゃない? 伸びちゃうよ?」


「あ、そうね。んと……これ、見てて!」


 と僕にスマホを渡し、ありすはうどんを食べだした。


 なんて、無防備なんだ! 自分のスマホを人に預けるなんて!


人のスマホを手にしたことなどない。ちょっとドキドキしながら、スマホの画面を見る。


 子猫の三毛猫を、パグ犬が不思議そうに前足でチョンチョンとつついている。


 と、黒猫が颯爽と現れて、パグを威嚇し、パグが去っていく。


 しばらく子猫を守るように構っていた黒猫だが、子猫の親だろうか? 大人の三毛猫が子猫に近付いてくると、後は任せた、とばかりにひょうひょうと子猫から離れた。


「かっこいい……!」


 なんて素敵な黒猫なんだ。


 きっとこの子猫がかわいくて仕方ないんだろうに、親が現れたら譲ったように見えた。


 素晴らしい。


 僕も、この黒猫のような男になりたいものだ。

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