第12話 入学式
当然、僕は
今日は入学式だ。
お母さんが一緒に来ようとしたが、マザコンだのなんだの言ってくる子供じみた同級生がいるかもしれないから断った。お母さんはお母さんで来てくれ。僕は僕で、ひとり行く。
いきなり、いじめの種まきをしたくはない。
「ごめんね、お母さん」
「いいよ、
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
家を出て、中学時代と変わらぬ通学路を歩く。
ああ……
おや。今日も間違って中学校に入ろうとしている生徒がいる。入試の時にも来ただろうに、うっかりさんだなあ。
「あの! そっちは中学校ですよ!」
と声を掛けると、ハッと立ち止まり、こちらへ会釈して高校へ向かった。みんな、似たようなリアクションをするものだな。
聖天坂高校にたどり着き校門をくぐると、先生方が案内役としてあちこちに立って僕達新入生を誘導してくれる。
クラス分けが貼られているのを確認する。まずは、自分のクラスの教室に行くそうだ。
ほう、僕は1年1組の1番だ。
僕の名前は
いやあ、これは縁起がいい。ついに、僕が1番をゲットしたんだ。
そういえば、第三中からは何人が聖天坂高に来たんだろう?知っている名前はあるだろうか。と言っても、僕は第三中に転校して半年ほどで卒業したので、同じクラスだった人しか分からないが。
……ええ?
1年1組の1番下に、
とある。
もちろん、僕はこの名前は知っている。だが、あの渡さんがこの聖天坂高校に合格できるはずがない。
同姓同名だろうか。かわいそうに、あんな人と同姓同名だなんて。でも、同じ学校でなくてまだ良かったね。
1年1組の教室に入る。
何人か、友人同士で同じクラスになれた様子の生徒達もいるようだが、多くの生徒が1人で席に座っている。おお、同志よ。
見覚えのある顔はいないだろうか。名前は覚えていなくても、顔なら覚えていることがあるかもしれない。
だが、出席番号1番の僕の席は、1番左の窓際の席の1番前だ。教室を見回すには、後ろを振り向く形になる。
「何見てんだよ?!」
と、いきなり絡まれるかもしれない。まあいい。今確認しなくとも、いずれ分かることだ。
集合時間の、午前9時半が来た。チャイムが鳴り響く。
その中で、走り込んできた生徒がいたようだ。入学式から遅刻スレスレとは、なんて強心臓な生徒なんだろうか。
チャイムが鳴り終わると、男性の先生が2人、教室に入って来た。どちらかが担任だろうか。先生は特に名乗ることもなく、全員いることを確認すると、これからのスケジュールの確認と入学式の段取りの説明をし、講堂へと僕達を促した。
朝10時。
入学式が、始まる。
緊張するなあ……。いや、胸を張ろう。僕は、1年1組1番、愛堂 天夜だ! 僕が生徒達の先頭なのだから!
講堂の扉が開き、
「新入生、入場」
の声で、先生に続き講堂に入る。割れんばかりの拍手。僕は堂々と、胸を張り太ももを高く上げて歩く。お母さん、見てるかな。
入学式が終わると、正門前でクラス写真の撮影だ。
ああ、桜が満開だ。今日は天気もいい。青い空、白い雲、白っぽい桜。白が被ってるな。桜って、イメージではもっとピンクだけど、こう見るとほぼ白い。日光が強いせいもあるんだろうか。
「1番! 1組の1番!」
ハッと気付くと、1組はもう写真を撮るべく並んでいる。僕は他のクラスの生徒達に紛れてしまっていたようだ。
「あ、ごめんなさい、僕です……」
急いで空いている場所に座る。
「ぷっ。だっさ」
と、聞き覚えのある声が背後から聞こえた気がした。
写真撮影が終わると、また教室に行く。たくさんの書類、プリント、紅白まんじゅうなどをもらった。まんじゅう、お母さんに1個あげよう。僕は赤い方を食べたいから、お母さんは白だな。
書類等のそれぞれの説明を受け、今日は解散だそうだ。ああ、僕の高校デビューはあっという間に終わりだ。
「
帰ろうと廊下に出たら、聞き慣れた声に呼び止められた。
「渡さん!」
第三中学校で同じクラスだった、あの自己中モンスター渡 美菜子さんだ。
「え? なんで渡さんが聖天坂高に入れるの?」
「失礼ね!」
あからさまにムッとしている。
「あ、ごめん」
「私には天才の幼なじみがいるからね。聖天坂の入試専用の学習アプリ作ってもらったから楽勝よ! 聖天坂以外の入試はまるで解けないけどね!」
なんだと? ズルいじゃないか。僕なんて、真面目に勉強を続けたと言うのに。
「また同じクラスね! 第三中出身の3人が3人とも同じクラスなんて、忖度でもあったのかしらね」
「渡さん、忖度なんて言葉知ってるんだね」
「馬鹿にすんのもたいがいにしろよ? 一時期流行ったでしょうよ、忖度」
「流行り廃りのものじゃないけどね」
3人? もう1人、第三中出身の生徒が同じクラスにいたのか。僕としたことが、気付かなかった。
「あ、あの……」
後ろから声がした。
振り向くと、長い髪をおさげに二つくくりにした、見るからに大人しそうなメガネをかけた女生徒がいた。
「あの、朝は、ありがとう……」
「へ? 朝?」
「あ、と、隣の中学校に入りそうになってたら、そっちは中学校ですよ、って……」
ああ、今朝声を掛けた人か。全然顔見てなかった。
「いえ、お気になさらず」
「あ、あの……同じクラスになれて、嬉しいです」
ああ、誰も知らないクラスだと、不安だものな。ちょっと言葉を交わしただけだとしても、安心したのだろう。
「こっちの子も同じクラスだよ。渡さん。いやあ、いきなり2人も知り合いになれて、良かったね」
「ふ……2人もって言うか……あなたと、同じクラスになれたから、嬉しいです」
女生徒は、うつむいてモジモジしている。
「僕も、初日から知り合いができて嬉しいよ」
「あ、あの……名前、聞いてもいいですか?」
「あ、僕は愛堂 天夜です。こちらは、渡 美菜子さん」
「あ、ありがとうございます。わ、私、
「橘さんだね。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
僕と渡さんに、ペコペコと頭を下げる。こういう大人しそうな子は、話しやすいな。
「同じ中学校から来た友達、いないの?」
渡さんが尋ねている。
「え? ……友達? い、いないです」
「まあ、私も友達って言うとコイツくらいだけどね」
「あ、愛堂くんと、友達なんですね……い、いいな……」
やはり、友達がいなくて不安なんだな。人に話しかけるのが得意そうには見えない。
僕も得意ではないが、僕はまだ渡さんと言う友達がいるし、こんな不安げな子を見過ごせないな。
「心配なら、僕達に任せればいい。僕達が女子達に君を紹介してあげようか」
「……え、ううん、私、友達がほしいわけじゃ……」
「天、たぶん話かみ合ってないよ」
「え? そうかい?」
「……天? え……愛堂くんと、渡さんって、そんなに仲良いの?」
仲良い?
「いや、そんなに仲良いってこともないけど」
僕が言うと、渡さんも
「中学の時は、お弁当2人で食べてたくらいだね」
と、被せた。
「2人で?!」
何のことはない。奏も女子4人で教室でお弁当を食べていたし、他に一緒に食べようと誘ってくれる人が現れなかっただけだ。お互いに。
なんとなく、渡さん、橘さんと3人で廊下を進む。1年1組の教室は、2階にある。階段を降りきったところで、
「愛堂くん!」
と、呼び止められた。
声の方を見ると、長い髪を高い位置でポニーテールにした、入学式早々からスカートの短い正統派美少女が走ってくる。
この子は……見覚えがある。
「や、やあ、君は見覚えがあるね」
こういう、ハツラツとしたいかにもヒロイン属性な子は、少し苦手だ。
「でしょうね! 第三中で同じクラスだったからね」
「
渡さんは、名前も覚えているようだな。
「旗中さんか。テニス部の人だよね。朝礼で表彰されてたよね」
「お! 覚えてくれてたんだー。
「ありがとう、僕は、愛堂 天夜だ」
「うん、私は愛堂くんの名前覚えてたけどね。同じクラスになれて良かったー! 知らない人ばっかりだからさ、心細くって」
ああ、彼女は僕が転校してきた時のことを覚えているのだろう。転校してわずか1日で、何人もの生徒が僕に「愛堂くん、バイバイ」と声をかけてくれたものだ。
僕のコミュニケーション能力が強く印象に残っているのだな。
「心配することはない、大丈夫だよ! 君も、臆することなく大きな声で自己紹介したりすれば、きっとすぐに友達ができるさ!」
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