第8話 転校初日ー感電

 転校初日の放課後だ。


 お昼は危うくぼっち飯になるところだったが、帰りがけは何人かのクラスメイトが


「また明日なー」


 とか、


「愛堂くんバイバイー」


 とか、声を掛けてくれた。クラスメイトの方から声を掛けてくれるなんて!


 僕はきっと、今日この一日を生涯忘れない。素晴らしい一日だったなあ。


 感慨にふけり、ふと見渡すと、教室に誰もいない。このクラスの人たちは行動が早いなあ。僕も帰ろう。


 教室を出て、廊下を歩き、トイレの手前の階段を降りる。校舎を出ると、木と塀しかない場所に出た。おや? 校門が現れるはずだったのだが。とても狭く、ここから校門に繋がっているとは考え辛い。


 校舎に戻り、中庭を抜け、正面の校舎に入る。きっと校門はこちらの校舎を抜けると現れるのだろう。


 グラウンドが現れた。


 あれ? 僕は朝、職員室にまず案内されたから、校門から入って、この校舎に来たはずなのに。朝は緊張していたせいか、どのようにこの校舎に入ったのか、まるで思い出せない。


 グラウンドでは、部活の準備が始まっている。3年生はもう引退しているから僕を知る生徒はいないだろうが、制服姿で突っ立っていては悪目立ちしそうだ。


 とりあえず、中庭に戻る。どうしようか。一旦職員室に行ってみたら、朝こっちから来たな、と思い出すだろうか。


「愛堂くん、何してんの?」


 隣の席の人だ。


「いや、校門が出てこなくて……」


 と、両校舎を交互に指差した。


「ああ、校門はあっちよ」


 校舎を抜けず、中庭をまっすぐ進むのが正解だったらしい。


「あ、ありがとう」


「じゃあね」


 隣の人は、手を振って、校舎の方を向く。


「あ、か、帰らないの?」


「私部活だから」


「い、引退じゃないの?」


「書道部だから、文化祭が終わってから引退なのよ」


 へー書道部……運動できそうなのに、意外だな。


「へえ、書道部なんだ」


「意外だと思っただろ!」


「そ、そんなこと、ないよ!」


 思ったけど、いい意味で意外だっただけだ! 男の子みたいにがさつそうなのにおしとやかなイメージの書道部だから意外だったわけではない!


「いいよ、んな慌てなくても」


 怒られるかと思ったが、意外にも笑った。


「じゃあね、また明日!」


 向けられた笑顔を、真正面から受け取った、その瞬間―――身体中に、激しく電撃が流れた。なんだ、この頭のてっぺんからつま先に至るまで全身が痺れるような感覚は……!


 彼女が小走りに歩み出す。


「ま、また明日!」


 ビリビリしながら、なんとかそう言って、手を振った。彼女が、振り返って笑顔で手を振りながら校舎内に入って行く。


 ああ! また大きな大きな電撃が……! なんて……なんて、大きな電撃波を放つんだ、書道部の人。


 僕の、隣の席の人。


 そうか! 僕が消しゴムを落とすべき相手は、渡さんなんかじゃなかった。あんな自己中モンスターであるはずなかったんだ。たった1日とは言え、渡さんなんかに好意を持つなんて、僕は何という黒歴史を刻んでしまったんだ。


僕が消しゴムを落とすべきは……時に厳しくも友達思いで、転校初日の僕にも分け隔てなく優しい、彼女だったんだ!

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