第2話 転校初日ー迷子
僕は、迷った。
転校初日だ。そりゃ理科室の場所なんて、分からない。
なぜか限界までトイレを我慢してしまったので、2時間目の授業が終わってすぐ、もちろんトイレに向かった。
ちゃんとトイレの場所は、職員室から教室に行った際に確認済だ。だが、理科室は恐らく通っていない。
トイレから教室に戻ると、もう誰もいなかった。
それくらいでは、僕は慌てない。きっと体育だろう。体育大会が近いだろうし。冷静に、壁に貼られている時間割表を確認する。
理科だ。
理科で、教室がもぬけの殻と言うことは、おそらく理科室で実験か何かがあるのだろう。理科室を探して廊下に出てみた。
階段が現れた。登ろう。
3階に出た。2年3組、2年2組、の札が見える。この廊下を進んでも、2年1組の札が見えるだけだろう。僕の目的地は理科室だ。ここを進むのは、無駄骨に終わる可能性が高い。
ならば、さらに上に登るべきだろうか?
でもこの学校は、新校舎と旧校舎がある。理科室がどちらにあるのかも分からないが、自分が今、どちらにいるのかも分からない。古そうだが……前の学校の方が古びていた気もする。
あ、そうだ。
ひらめいた。僕は転校初日の転校生だ。理科室に現れなければ、理科室の場所が分からないのだ、と、どんな凡人にも分かるだろう。
教室に戻ろう。まだチャイムは鳴っていない。もしかしたら、3時間目が始まる前にクラスメイトが僕のいないことに気付いて、探しに来てくれるかもしれない。そうすれば、授業開始に間に合うかも。
あ! でも! もし、授業が始まってから、僕がいないことに気付かれたら……
もしも彼女の名前が伊藤だとしたら。1時間目2時間目は、教室だったので先生はさーっと見渡して、空席がないので出席を取らなかった。
だが、理科室ではどうだ?
出席を取るかもしれない。そして、僕がいないことが分かったら、出席番号1番の伊藤さんに、教室を確認しに行くように命じるかもしれない。
彼女が、僕のいる教室に来るかもしれない!! 教室に行かなくては! 彼女が来る!!
まだチャイムが鳴ってないことも忘れ、僕は教室に走った。ちょっと教室の場所を覚えているか不安だったが、無事に教室に戻れた。
そりゃそうだ。僕と運命の人の、初めての会話がこの後あるはずなんだから。だから、運命なんだ。
教室に入ると、なんともう、彼女がいた!! 運命は、僕の予想の上を行く。
ただ、彼女以外に4人の女子生徒もいた。なんでいるんだ。僕と彼女の初めての会話を盗み聞くつもりだろうか。
「……なんでいるんだ」
感情が漏れて声になった。僕と、彼女が初めて2人きりになるはずだったのに……。
「なんでって……こいつが、嫌われ者だからだよ!」
4人のどうでもいい女子生徒の1人が言った。
こいつ? どいつ?
よく見ると、発言したどうでもいい女子生徒が手に持っているのは、理科3年の表紙の本だ。もう片方の手には、油性ペンを持っている。
そして、彼女は、その本に手を伸ばしている。
彼女の本なのか?!
自分でも信じられないくらい、俊敏な動きだった。彼女の本は、彼女の手にあるべきだ。彼女の本を取り返した拍子に、どうでもいい女子生徒の1人の頭をスポーンとはたく形になってしまった。
「痛った!」
「これは彼女の本なんだろ! 彼女が持っているべき物だ!」
彼女の伸ばしていた手がちょうどあったので、そのまま渡した形になった。
「なんなんだよ! なんでお前教室にいるんだよ!」
本を奪っていた女子生徒とはまた違う女子生徒が、問いかけてくる。何を言ってるんだ! 僕は転校初日だ!
「理科室がどこか知らないからだ! 次が理科なのはそこの時間割表で分かっても、場所まで分かるわけないだろう!」
「ああ……」
「じゃあ、一緒に行こ」
意外にも親切に、女子生徒たちは僕を理科室まで連れて行ってくれた。途中、「もうすぐチャイム鳴っちゃうよ!」と急かしてくれたおかげで、授業開始に間に合った。彼女も間に合うだろうか? 場所は分かっているはずだから、教科書が戻ったならば来るはずだが……
彼女が理科室に入ったのと同時に、チャイムが鳴った。鳴り終わって10秒くらいしてから、先生が来た。
ああ、良かった。
授業開始時にいないと、内申が下がるかもしれない。高校受験が控えているのだ。内申をおろそかにはできないだろう。
ただ……彼女と会話、できなかったな……。
ん? そう言えば、こいつが嫌われ者だから、と言っていたが。こいつとは、あの彼女のことだったんだろうか? いや、そんなわけない。彼女が嫌われ者だなんて、あるはずないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます