繊細男子の青春フルコース

ミケ ユーリ

第1話 転校初日ー秋雷

 僕は繊細にできた人間だ。


 色白でメガネを掛け、ヒョロリとした風貌にも表れていることだろう。


 転校初日の月曜日ながら、一昨日と昨日この時間に通学路を確認しているので僕の心に不安などない。僕は今日から、聖天坂しょうてんざか第三中学校に通う。


 中学3年生の10月だというのに、体育大会の練習も真面目に頑張っていたのに、本番を迎える前に転校した。


 僕は今きっと、世界一不幸な15歳だ。


 みんな、僕が転校したことを知って嘆いてしまうだろうか。悲しんでしまうだろうか。友達なんていなかったけど、けれど、僕達は仲間だったはずだ。


 先生は知っているのに、なぜか僕の最後の登校の日も僕の転校を級友たちに知らせることもなく体育大会の練習三昧で終わった。体育大会前日に、僕がいなくなるなんて悲しい知らせを告げたくなかったんだろうか……。


 ごめん、みんな。


 僕がもう少し自己主張の激しい人間なら、ちゃんと別れを告げることもできただろうに……


 ……ん?


 昨日も一昨日もこの辺は静かなものだったのに、なんかザワザワしている。


 そんなに人通りはないけど、みんなあちらの方を見ているーーー


「大丈夫ですか? 立てる?」


 貧血か何かで倒れてしまったんだろうか、座り込んだ制服姿の女の子をまた違う制服の女の子と私服の男の子が介抱しているようだ。


「はい……もう大丈夫です、ありがとう」


 座り込んでいた女の子が2人に会釈をするように頭を下げつつ、立ち上がった。介抱していた女の子が朗らかな笑顔を見せる。


「良かった! 気を付けてね!」


 瞬間、僕の全身を積乱雲が通り抜けていったようだ。何発もの雷を食らった。


 彼女は、痩せて細い体ながら背が高くとても美しい。とても綺麗だ。とてもかわいい。これだけ離れているから彼女を尋常じゃなく凝視できているけれども、彼女がもしも僕の存在に気付いていたならばドギマギするばかりでとても見ていられないだろう。


 雷に打たれ、すぐに動ける人間なんているのだろうか。いや、いないだろう。僕もだ。


 彼女は手を振って立ち上がった女の子と別れ、一緒に介抱していた男の子とも別れ、歩き出していたが、僕は動けなかった。


 なぜか?


 彼女が雷を起こしたからだ。大きすぎる雷を。


 ……だが。だが! 僕はあんなにも大きな雷に打たれながら手も足もある! 僕は助かったんだ!


 なんと言うことだ! あんなに大きな雷に打たれたにも関わらず無事だなんて、僕はせいぜい日本一不幸な15歳だ!


 ああ、良かった。この広い地球上で日本という島国の―――学校に行かなくては!


 思い出した! 僕は転校初日の登校中だ!


 転校初日から遅刻だなんて、いじめられてしまうかもしれない!


 通学路を確認しておいて良かった。たぶん、走ればまだ間に合う!


 僕は、転校初日から全速力で走るはめになった。


 彼女が、大きな雷を起こしたから。


 息も絶え絶えになりながら、聖天坂第三中学校の門をくぐる。やはり僕は遅刻なんてすることなく間に合った。ああ、良かった……転校初日から遅刻なんて、いじめられてしまうかもしれない。


 先生に連れられ、教室に入る。転校生が来る、という情報は流れていたようだ。扉が開いた教室から、期待や、好奇心が溢れて来るようだ。


 先生が、黒板に


「愛堂 天夜」


 と、書いた。


 教室が、ざわつく。


 すげー名前……


 なんて読むんだよ……


 と、小さな声がしたようだ。


 みんなにわかりやすいように、ハッキリと発音することを心がけるとしよう。


「あいどう、たかや、です。よろしくお願いします」


 ファーストインプレッションは大切だ。丁寧に、90度の礼をする。そう、直角の角度だ。これ以上ない丁寧さだろう。


 ……なぜか、さらに教室がザワついた気がする。


 頭を上げ正面を向くと……なんてたくさんの人が僕を見ているんだ!


 ひえっ……。


 え……えぇ?!


 窓際の席の、1番後ろ。


 みんなが僕を凝視しているのに、彼女は興味なさげに肘をついてぼーっとしている。


 彼女じゃないか!!!!


 これは、運命だ。絶対に運命だ。ついさっき一目惚れした女の子が、転校した教室にいるなんて。


 これが運命の人でないわけがない!


 僕は今日から彼女の隣の席になって、消しゴム落として、拾ってもらって、日に日に2人は距離を詰めるんだ!


 僕は、毎日消しゴムを落とそう! 彼女は毎日、僕の消しゴムを拾ってくれるんだ!


 3日に1回、手が触れたり、するかもしれない……。


 なんてことだろう。僕は、日本一不幸な15歳なんかじゃなかったんだ。運命の人に出会うため、この学校に転校してきたんだ。


 こんなに若くして運命の人に出会うなんて、僕は世界一幸せな15歳じゃないか!!


 僕の席は、意に反して中央の席だった。


「愛堂くんは、みんなの真ん中です! みんな、愛堂くんが困っていたら、助けてあげてください! 」


 ……そうだな。


 はじめから隣では、次の席替えの楽しみがなくなる。なんか、席は遠くてもなんか距離を詰めて、なんか知らないけどどうにかお互いに盛り上がったところで、次の席替えで、隣同士になるんだな!

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