クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜
Quest 3-4 昇格試験という名の強化訓練
Quest 3-4 昇格試験という名の強化訓練
試験監督を用意するとは言っていたが、想定外すぎる大物の登場に言葉が出ない。
特に俺とキリカは殺し合いをしたばかり。
開いた口がふさがらない俺たちの反応を見て、気をよくしたアリアスさんは自慢げだ。
「どうです? びっくりしましたか?」
「いや、びっくりしたというか……」
「ふふふ。王宮で偶然出会ったギルド長がダメもとでお願いしたら、二つ返事で引き
受けてくださったんです。セシリアさんが時間を割いてくださるなんてめったにないことなんですよ?」
「なに。聞き覚えのある名だったので、もしやと思えば……やはり君たちだったか」
俺たちの頭をポンポンと撫でるセシリア。
その姿を見て今度はアリアスさんが目をパチパチとさせた。
「あれ? お知り合いなんですか?」
「えっと……昨日いろいろありまして……」
「広場でミスリル加工された鎧を壊すというイベントを彼が見事に成功させてな。少し声をかけたのさ。そうだろう、少年?」
パチンとウインクするセシリアさん。
どうやら本当にキリカを認めてくれたらしい。
というか、イベントの結末を知っているということは、あの時点で俺とキリカは目をつけられていたのか……。
とにかく上手く話を誤魔化してくれた。
この流れに逆らう理由はない。
「俺も驚きました。なにせあの【最強】に話しかけてもらえるなんて」
「二度も会うなんて予想外だよね」
うんうんと白々しくうなずく俺とキリカ。
心配をかけたくなかったので優奈たちには詳細を話していないし、なんとかキリカの正体を暴露せずに済んだ。
「そうだったんですか。でも、セシリアさんに目をかけてもらえるなんて流石ギルド期待の新星ですね」
「このメンバーだからこそですよ。それで昇格試験の内容は決まっているんですか?」
「あー……それがですね」
待ってくれ。なんでそんな気まずそうに眼をそらすんだ。
「従来では【食人魔族の棲家】の最下層まで潜りギルドが指定した物を採取してくる、だったのですが……」
「ダンジョンの魔結晶が破壊された今は役目を果たさないと」
「みなさんの実力は把握していますし、最悪の場合は誤魔化す措置をとる用意もしていました。ですが、なんとセシリアさんが代案を考えてくださったんです」
「へ、へぇ……」
【最強】が考えたと前置きが付くだけで、どうして嫌な予感がするのか。
本当に大丈夫か、それ。
ちゃんと俺たち基準になっているよな?
「ふっ。そう心配するな、少年。もちろん私も君たちの実力を把握して課題を考えた」
「そ、そうなんですか。すみません。自分たちとセシリアさんでは価値観が違うと心配になってしまって」
「こう見えても私も何人も面倒をみた経験がある。昨日も勇者たちをしごいてきたところだ。彼らの実力を知ってすぐにわかったよ」
肩に手を置かれる。
さっきまでの優しさが消えた、まるで逃がさんと言わんばかりに力を込められた手が。
「勇者たちはダンジョンを攻略などしていない」
すぐさまアリアスさんを見やる。
フルフルと彼女は首を振った。
情報漏洩はない。ギルドとしても宮城たちが討伐した方向で話を進めている。
ならば、セシリアさんは自分でたどり着いた。
……いや、彼女は俺たちが踏破する前の唯一のダンジョン完全攻略者にして【最強】を冠する者。
手合わせをすれば自然と違和感を覚えるか。
「私は確信しているよ。勇者は剣を扱いこなせていなかった。私からすれば児戯に等しい」
「そ、そうなんですね」
「では誰が守護者を討ち、魔結晶を砕いたか? 頭を悩ませていた私のもとにギルド長がやってきた。Bランクへ昇格待ちをしている冒険者がいると言うではないか」
ダラダラと冷や汗が流れる。
ラトナに至っては変な口笛まで吹き始めた。
俺を捉える眼力がすごい。
「いざ会ってみたら件の冒険者パーティーに君がいたのだよ」
「そ、そうなんですか。すごい偶然ですね」
「ああ、なかなかない偶然だ。しかし、こうも偶然が重なれば必然とも言えるだろう? そこで私は思ったんだ。君たちほどの実力者をBランクでとどまらせるなんてもったいない」
セシリアさんは一人で納得して話を続ける。
あまりの急展開に異論をはさむ暇もない。
なにせ俺たちとギルドが吐いた国民を騙す嘘は間違いなくバレている。
彼女が民草を傷つける真似をするとは思えないが、変につつけない状況にあった。
そして、セシリアさんは想定外のところから爆弾を落とす。
「だから、これから君たちが受けるのはAランクへの昇格試験だ」
「「「……え?」」」
「試験内容は君たちの誰かが私に一発入れること。それができるまでみっちりしごいてやるから喜ぶといい」
「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」
個室の扉を突き抜けて、俺たちの叫び声はギルドへと響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は移って王都から離れた
お祭りムードもあってクエストも少なく、通りかかる冒険者もいない。
試験と強化訓練をするのにうってつけの開けた空間で俺は死んだ。
いや、そう錯覚させられた。
腕が攻撃を受けた衝撃で震えて、力が入らない。
大の字で青空を見上げている。
ああ、このまま夢の世界へ行きてぇ……。
「いつまでぼさっとしているんだ! さっさと立ち上がらないか!」
怒号が飛んで、緩んだ気持ちを一気に吹き飛ばす。
飛び上がって体を起こして、すぐさまセシリアさんに突撃する。
ためらっても仕方ない。
逆立ちしても実力差は変わらないんだ。
だったら、最短距離で最速の一撃を!
だけど、その役目は俺じゃない。
「《
振りかぶった拳を彼女ではなく、地面へと叩きつける。
衝撃で大地を揺らして、少しでも彼女のバランスを崩せたらいい。
そこに三者三様の同時攻撃を決める。
「《
「《
「ラトナ式三連射っ!!」
左右、上空。近接、遠距離。物理、魔法。
大きく空間を使った攻撃の対応は難しく、並の実力者なら確実に命を落とす連携攻撃。
そばから眺めていた俺でも一本取ったと思える。
ただし、あくまで人間をやめてない冒険者相手の話。
「領域魔法――《
きれいな、思わず見惚れてしまうほど洗練された抜刀。
俺が彼女の刀をはっきりと見れたのはその瞬間だけ。
眼がとらえたのは残像と吹き飛ばされたキリカ。
矢と魔法はあっけなく打ち払われて、セシリアさんはこらえた様子もなく笑っていた。
刀を持つ腕は明らかに関節が外れてダラリとしている。
「今のはなかなかよかったぞ、四人とも」
「いやいやいや! それどころじゃないでしょ! 腕が!」
「なんだ、心配してくれるのか少年。これくらい日常茶飯事だから気にしなくていい」
「えぇ……」
この光景が当たり前の戦場なんて行きたくねぇ……。
でも、彼女は痛がるそぶりも見せずに自らはめて治している。
言葉に強がりも嘘もないのだろう。
「この魔法は私の射程圏内に入った攻撃をすべて自動で打ち払ってくれるんだ。たまに無理な挙動をしてさっきみたいになるのが傷だが、慣れれば便利な魔法だぞ」
「絶対に慣れたくないです」
「そうか……。君にピッタリの魔法だから修得してほしいと思ったんだが……」
「うっ……」
そんな露骨に落ち込まれると俺が悪いことをした気分になる。
セシリアさんの言う通り、人体に負担のかかる動きをしなければいい。
そういう前提だと確かに使いどころのある魔法だろう。
彼女は善意から試験の監督役を買って出てくれたんだ。
生徒の俺たちがせっかくの機会を無碍にするもおかしな話だな。
「わかりました。お願いします」
パァッと笑顔が咲いた。
第一印象を考えれば、思っていたより喜怒哀楽が激しい。
「よしっ! ならば、こっちにこい。手取り足取り教えてやろう!」
「……はい!」
どうか五体満足で今日を終えれますように。
そんな願いを祈りながら、俺はセシリアさんの指導を受けた。
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