Quest 2-5 キリカ・フレッチア
「――というわけなので、俺はキリカを迎えたいと思っている」
「おー、いいんじゃない? 仲間が増えるのは歓迎なの」
「死神なんてひどいよっ。もちろん私も大賛成!」
キリカの事情を説明してどう説得しようかと悩んでいたが、杞憂に終わった。
彼女たちなら受け入れる以外の選択肢はないと思っていたけど即答とは……。
「勝手に引き受けた俺が言うのもおかしな話なんだが、あっさり決めてよかったのか?」
「だって、何かあっても愛人くんが守ってくれるもんね?」
「頼りにしてるの、リーダー!」
……見誤っていたのは俺だな。
そうだ。何があっても俺が解決すればいい。
説得するつもりが説得されてしまう形になってしまった。
あっさりと受け入れ問題は解決し、太陽は一回転。
俺たちはアリアスさん立ち合いのもと、件の少女と面会していた。
彼女の顔色は幾分か昨日よりもマシに思える。
目を合わせていたら吸い込まれそうな黒い瞳を除けば、の話になるけど。
「……昨日はありがとう。おかげで生き延びることができた」
「困っている奴がいたら手を貸すのは当然だ。命の危機ならなおさらな」
「ボクは怖くて声すら上げることができなかった。本当に感謝しているんだ。……だから、誠実に伝えておきたい」
彼女は下げていた頭を上げると、自嘲するような薄笑いを浮かべる。
「ボクはキリカ・フレッチア。ちょっとした有名人さ。死神なんて呼ばれてるよ。今まで5……いや、昨日ので6つのパーティーをつぶした女さ」
自虐を交えた自己紹介。
あいにくだが、それを笑う人間はこの場にはいない。
後ろめたいことを包み隠さなかった彼女もまた優しい子なんだろう。
俺たちが自分に関わらないように誘導したかったはず。
しかし、こちらは全員が覚悟を決めて臨んでいた。
「俺はマナト。パーティー『オールフォーラブ』のリーダーを務めている」
「うん、よろしく」
「じゃあ、キリカはうちに入ってくれるってことでいいんだよな?」
「えっ」
二重の瞼をパチパチと開閉させるキリカ。
驚く声は年相応のかわいいものだ。
「なにか問題があったか?」
「あ、いや、あまりにもあっさり受け入れられたから……」
「アリアスさんにも話は聞いていただろ? 俺たちが新しいメンバーを探しているって」
「うん、そうなんだけど……ボクの噂は知っているでしょ?」
「偶然にも入ったパーティーがすべて壊滅しているらしいな。それでキリカだけ生き残ってしまう」
「だったら、ボクなんて」
「だけど、このパーティーは誰も死にはしない」
彼女の言葉に被せて、力強く言い切る。
不安を消し去るくらいに自信をみなぎらせろ。
「なぜなら、俺が全員守ってみせるからだ」
「っ……」
「そして、その中にはもちろんキリカも入る」
ちゃんと言葉を交わしてまだ少しだけど俺はキリカに親近感を覚えていた。
彼女の瞳が過去の俺と似ている。
優奈に救われても、どこかまだ自分を卑下していたあの頃に。
ならば、今こそ俺の番だ。
みんなに助けてもらったように、今度は俺が彼女を絶望から引っ張り上げる。
そのためにもまずキリカに手を掴んでもらえなければ始まらない。
「ここがキリカが冒険者として所属する最後のパーティーだ」
「……さすが
「踏みつけられ、水をもらい、育てられたからな」
「……君の隣ならボクも根付けるかもしれないね」
失望しないように意識しながらも、どこか期待が入り混じった眼差しが向けられる。
彼女はずっと所在なさげに出されていた俺の手を握り返す。
「お世話になるよ、リーダーくん」
「よろしく頼むぜ、キリカ」
キリカのパーティー参加が決まった。
彼女に手を振り払われないように努力しよう。
触れた冷たい手に、そう思った。
「ふふっ。無事に終わってよかったです」
この場でいちばん嬉しそうなのがアリアスさんだ。
心配していたキリカの次の居場所が正式に決まって嬉しいのだろう。
「ね? マナトさんはいい人だったでしょ、キリカさん」
「……そうだね。ボクをためらいもせずに受け入れるくらいお人よしってのは認めるよ。でも、隣の二人はどうなのかな?」
キリカは俺を挟む形で座っていた優奈とラトナに視線を向ける。
それを受けた二人と言えば、全く普段と変わりない反応をしてみせた。
「気にしてないよ? 私もキリカちゃんって呼んでもいいかな?」
「ナビゲーターは肩がこるから解放されて嬉しいの! よろしくね、キリカ!」
「……このパーティーはなかなか豪胆な肝の持ち主が多いみたいだ」
どうやら彼女の心配事も解消できたかな。
むしろ女性の比率が上がって俺の方が肩身が狭い。
二人がキリカをいじめるなんてシーン想像もつかないし、彼女が出ていくほかにパーティーが解散される未来はないだろう。
「それでは手続きもしないといけませんし、顔合わせついでにお互いのスキルや戦い方についても教え合ってはどうでしょう?」
「私たちは人数も少ないし、スキルもちょっと特殊だもんね」
「それを言うならボクのスキルも変わり者だ。把握してもらった方がいい」
「決まりだな。確認ついでにクエストでも受けようか」
「そう言うと思って取っておきましたよ。ゴブリンの討伐クエストを」
なんとも優秀な受付のお姉さん。
クエストにはすでに受注のハンコが押されてある。
「アリアスさん、ありがとーなの!」
「いえいえ。せっかく昇格したばかりなのに、今はダンジョンに入れませんからね」
「そういえば朝からいかつい冒険者がダンジョンに集まっていたね」
「愛人くんから聞いたんですけどダンジョン内を調べているんですよね?」
「探索と同時にポイズンスライムの討伐も行われる予定です。15人のBランク冒険者の方が派遣されましたから、異常がなければ二日もかからないでしょう」
あいつは強かった。
だが、キングでもBランク相当。
万全の状態で15人の猛者が挑むなら無事に討伐されるはずだ。
無事に彼らが帰ってくるのを祈っておこう。
「なので、皆さんもお気になさらず討伐クエストに行ってくださいね」
「アリアスさんの言う通りだな。俺たちがいくら悩んでも仕方がないんだ。やるべきことをやろう」
「ボクも賛成かな。せっかくパーティーに入れてもらったんだ。納得いく力を披露したい」
ハンドグローブをぎゅっとはめて、やる気満々な様子のキリカ。
優奈とラトナも特に反対ではなかったので、いつも通りアリアスさんに見送られて草原へと向かうことになった。
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