クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜
Quest 1-2 スキル【真の勇者になりし者】
Quest 1-2 スキル【真の勇者になりし者】
「ごめん、春藤。泣きついちゃって」
「いいよいいよ。江越くんも今まで頑張ってくれてたから、これくらい気にしないよ。あっ、でもね」
春藤の続く言葉に思わず身を構える。
俺なんかに抱きつかれて、彼女も迷惑だったろう。
苦言の一つや二つくらい受け入れるつもり……だった。
「ごめんより、ありがとうの方が私は嬉しいな」
彼女から出てきたのは、そんな可愛いお願いで。
改めて俺は春藤の優しさに胸を打ち震わせた。
さっきまでの俺を殴り飛ばしたいくらいだ。
「わかった。……ありがとう、春藤」
「うん、どういたしまして!」
春藤にぎゅっと手を握られる。
彼女を守れたなら俺も頑張ったかいがあった。
そう思えるようになっていた。
「……そうだ! 宮城たちはどうしたんだ? 春藤なら引き留められただろ?」
「うーんとね……ビンタして、出てきちゃった」
テヘっと舌を出す春藤。
可愛い……って、そうじゃない!
「そんなことして大丈夫だったのか!? 今すぐにでも逃げないと追いかけてくるんじゃ……」
「平気だと思うよ? 宮城くんは好きにしろって言ってたし。みんな酷いよねっ。江越くんを無能とかいらないとか好き勝手に言ってさ。私はそんな人たちと一緒に生活なんて出来ないし、したくないから別に気にしなくて大丈夫だよ?」
「そ、そっか。でも、これからスキルもない俺と二人だぞ? 本当によかったのか?」
「スキルとか関係ない。私が江越くんといたいから自分で選んだの。後悔とかあるわけないよ」
そう言って胸の前で握り拳をつくる春藤。
「一緒に頑張ろ! 江越くんを切り捨てたみんなをギャフンと言わせちゃおう!」
……彼女の笑顔は人を元気づける効能があるんだと思う。
つられて俺も笑っていた。
「……だな。俺も精一杯やってみせるよ!」
「そうそう! 前向きな方がいいよ!」
「でも、どうするか。この世界のルールなんて何も知らないしな」
よくある異世界モノなら女神様が強力な力を授けてくれるんだろうが、俺にはあいにく無かった。
言語も知らないし、それこそまた森で命がけの生活をするしかない。
だけど、その心配も杞憂に終わる。
「心配ないよ。ちゃんと解決策はあるから」
「本当か!?」
「うん。私にはこれがあるから。【教えて、魔導図書】」
春藤の足元が紫色に光ったと思うと、一冊の仰々しい装飾が施された本が浮かんでいた。
誰も触っていないのに、パラパラとページがめくれ始める。
「これってもしかして……」
「うん、私のスキルの【魔導図書】。調べたいことを思い浮かべたら何でも教えてくれるんだ~。こんな風に!」
春藤が見せてくれたページには俺たちがこれからすべきことが解説とともに記されていた。
彼女のスキルは一つの単語に限らず、
……めちゃくちゃすごいスキルじゃないか?
「まずは冒険者ギルドに行って身分証になるギルドカードを発行したほうがいいんだって! それからギルドと提携している宿屋なら新人は格安で使えるらしいよ!」
「なら、さっそく街に戻ろう。部屋の数も限られているかもしれないし」
「善は急げ、だね」
俺と春藤は立ち上がる。
すると、何かを思い出したように彼女は手を差し出した。
「改めてよろしくね、
さっきまでと違う呼び名。
少し躊躇して、俺もまた彼女の名前を口にする。
「ああ、これからよろしく。……優奈」
「うんっ!」
ヒマワリのような笑顔を見て、俺も心から誓う。
森での生活の時もそうだったけど、彼女の笑顔は絶対に絶やさせない。
たとえどんな理不尽が立ちはだかったとしても守ってみせる。
覚悟を決めると、心なしか体が軽くなった気がした。
やっぱり気持ちが違うと、体調も変わるのかもな。
明るい未来を夢見て、俺たちは新たな生活の第一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは想像していたよりきれいな建物だった。
昔こそ野蛮な輩も多かったが、魔族との戦争が長引いている今の時代では敵を狩る子供のあこがれの職業らしい。
ちょっと自慢気に知識を語る優奈は可愛かった。
中に入って職員さんに話しかけると、俺たちみたいな相手にも丁寧に受付まで案内してくれる。
転移の影響なのか知らないが、ちゃんと言語は通じて一安心ってところか。
「それではマナトさんとユウナさん。最後におさらいという形で説明させていただきます」
俺たちを担当してくれた受付嬢のアリアスさんが二枚のカードを俺たちに見せる。
それには上から順に名前、ランク、パーティー名、スキルの欄があった。
「ランクですが新人の方は必ずFランクでのスタートです。ギルドを通じてクエストを達成して実績を重ねるごとにE、D、C、B、A。そしてSランクと上がっていきます。Bランクにもなれば上級冒険者として貴族や国からの特別な依頼も受けれますので、ぜひ目指してみてください」
「ギルドではお互いの了承さえあればパーティーとして登録できます。お二人の場合はパーティー『オールフォーラヴ』として受理しました。メンバーを増やす、または減らす場合にはギルドにお申し出ください」
「世の中には多くのスキルが存在しており、ギルドではスキルにも階級を割り振っています。N、R、SR、URといった具合ですね。スキルは誰もが持っている力ではありません。そのためスキルをお持ちの方は優遇される場合があります。なので不正を防ぐ意味も兼ねて、ギルドカードに登録させていただいております」
しかし、彼女が指さすカードのスキル欄は二枚とも空白だ。
優奈が首をかしげていると、アリアスさんは微笑みを崩さぬまま見覚えのある水晶玉をこちらに差し出した。
「この水晶玉に触れるとスキルが判明します。お一人ずつ手を触れてください」
アリアスさんの話を聞いて、優奈が心配そうにこちらを見る。
俺がスキルを持っていないことを気にかけてくれているのだろう。
「俺はもう大丈夫だから」
「……うん、わかった。私からするね?」
吹っ切れた俺の顔を見て、安心した優奈は水晶玉に手を置く。
【魔導図書】の名前が現れると、アリアスさんは少し興奮気味に説明してくれた。
「すばらしいです! これはUR級のスキルですよ!」
やっぱりとんでもないスキルだったか。
何でも調べられるって使い方によっては、とんでもない武器になるからな。
優奈は事前に予測していたおかげではしゃぐのをこらえていた。
今の俺たちが目を付けられるのは避けたかったからだ。
「UR級は10年に1人の確率ですから、ユウナさんは喉から手が出るほど欲しい逸材ですね。当ギルドで登録してくださり、ありがとうございます」
「アハハ……。つ、次は愛人の番だよ」
未だ興奮冷めやらぬ職員さんから逃げるように俺の背後に回り込む優奈。
優奈の連れの俺にも期待しているアリアスさんの視線が辛い。
彼女といればこんな状況にこれからも遭遇するだろう。
だけど、現実逃避しても仕方ないのだ。
腹はくくっている。
優奈を守る男になると決めた時から。
「……よし」
心構えを作って、水晶玉を触る。
大広間の時と同じく何も反応はない。そう思っていた。
「ま、愛人くん! こ、これ!」
「スキルが……ある?」
水晶玉に浮かび上がった文字列。
そのスキルの名は【真の勇者になりし者】。
自分のスキルを認識すると同時に入り込んでくるスキルの効果。まるで元から俺はこのスキルを知っていたかのような錯覚に陥る。
【真の勇者になりし者】
心から守りたいと想える真の仲間が増えるたびに強くなり、勇者として王道を突き進むだろう。
スキルの説明はそれで終わりだった。
優奈のスキルが発動した時もこんな感じなのだろうか。
……いや、今はそんなことはどうでもいい。
ついさっき俺にはスキルなんてなかった。宮城たちに無能と呼ばれて切り捨てられた。
しかし、瞬きをしても水晶玉の文字は消えていない。
あったんだ……俺にもスキルが!
「やったね、愛人くん! やっぱり愛人くんは役立たずなんかじゃなかったよ!」
「ああ! これで優奈に頼りきりにならなくてすむな」
「ふふっ。でも、私のスキルはUR級だよ? 愛人くんのスキルはどうなのかな~?」
「そ、そうだ! アリアスさん、俺のスキルはいったいどの階級なんですか?」
これでNだったらぬか喜びに終わってしまう。せめてRは欲しい。
そんな思いでアリアスさんに尋ねるが、彼女はこちらに目もくれずに本を凄い速さでめくっていた。
「…………まさか、そんな……」
「ア、アリアスさん?」
ブツブツと呟く尋常じゃない姿に引き気味に声をかける。
彼女は勢いよく立ち上がると、俺の肩を掴んだ。
「マナトさん、落ち着いて聞いてください。ギルドの所有するスキル事典にマナトさんのスキルの記載はありませんでした」
「えっと、それはつまり……」
「マナトさんのスキルは今まで発見されていない新種のスキルです!」
「「えっ」」
「世界どころか過去に一人もいない、UR級よりもレアなスキルなんですよ!!」
「「ええぇぇぇっ!?」」
アリアスさんによってとんでもない爆弾発言が落とされる。
俺と優奈の驚愕の声がギルド中に響いた。
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