クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜
Quest 1-3 新たな仲間と君とのおまじない
Quest 1-3 新たな仲間と君とのおまじない
「久々のベッドだ~」
部屋に着くなり、ピョンピョンと跳ねる優奈。
野宿続きで久々にちゃんとした寝床が確保できてうれしいのはわかる。
本当は俺も一緒になって喜びを分かち合いたい。
優奈と同じ部屋でなければ……!
「……? どうしたの、愛人くん?」
入り口で固まっている俺を見て、キョトンとしている優奈。
苦笑いを返すと、彼女と反対側のベッドに腰を下ろした。
いや、わかる。新人なのに2部屋も使えるわけがないって。
チラと彼女を見る。
制服の上からでもわかる盛り上がり。スカートから覗ける健康的な太もも。
もちろん優奈に手を出したりしない。
でも、それとこれとは別の話で――。
頭の中がグルグル回って、思考が落ち着かない。
「愛人くん、百面相してすごい顔になってるよ」
「……悪い。ちょっと考え事してた」
「確かにいきなり未発見のスキルとか言われても困るよね~。おかげでこの部屋に泊まれたけど」
……うまいこと勘違いしてくれたみたいだ。
いったん同室のことは頭の片隅に置いておこう。
俺のスキル【真の勇者になりし者】はギルドのスキル事典にも【魔導図書】にも記載がなかった。
アリアスさんによれば既存スキルの最高レアリティの可能性があるらしい。
例えば【氷の女王】は【氷の妖精】というスキルの最終形でレアリティ順に系統を並べるとN【氷の妖精】→R【氷の妖魔】→SR【氷の魔女】→UR【氷の女王】となる。
UR級は発見されている数も少ないので、可能性は十分にあるというのがギルド側の見解だ。
つまり、UR級のスキルを持つ新人をギルドとしては囲いたいわけで……。
俺たちは1ヶ月の間、提携している宿屋の一室に無料で宿泊できることになった。
「明日からはギルドが研修もしてくれるみたいだし、いいこと尽くしだね」
「不安材料が一気に減ったのは本当に助かったよ」
「そうだねっ。あ〜、安心したらお腹空いちゃったかも」
「じゃあ、一階の食堂に行くか。ギルドカードを見せれば大丈夫って、アリアスさん言ってたし」
「楽しみだなぁ。結構食べるの好きなんだよね」
なるほど。その栄養分がお腹ではなく別の部分へ行ってるみたいだ。
「愛人くんは……食いしん坊の女の子って嫌い?」
「大好きだ。我慢するよりも美味しそうに食べる姿を見たい」
「そっか。なら、よかった。幻滅されないで済むね」
優奈に幻滅する未来など無いから、ぜひとも自然体で過ごして欲しい。
この宿はギルドで登録してから1か月以内の新人冒険者が多く利用している。
食堂に向かえば俺と同じ年齢くらいの男女でにぎわっていた。
列に並んでギルドカードを見せてスープにパン、ステーキにサラダが乗ったプレートを受け取る。
「愛人くん、あそこが空いてるよ」
優奈が見つけてくれた木のテーブルの端の席に座る。
「いただきます」をして夕食を楽しもうとしたのだが……。
「…………ゴクっ」
隣からの圧がすごい。
正体は耳が細長く、金色の髪が特徴的な女の子だった。
よだれを垂らしている彼女の前にはスープの皿しかない。
視線は熱々のステーキに注がれている。
「……食べる?」
「っ! い、いいのかしら?」
「あ、ああ。俺のでよかったらどうぞ」
ステーキの皿、ナイフとフォークを渡す。
彼女は切り分けて口に運ぶと、涙を流しながら咀嚼した。
「おいひい……! おいひいよぉ……!」
幸せそうにステーキをほおばる彼女を見て、ちょっとだけいいことをした気持ちになる。
俺も冷めないうちに食べてしまおう。
そう思って食卓に向き直ると、優奈が肉が刺さったフォークを突き出していた。
「はい、あーん」
「あ、あーんっ」
とっさのことで回避もできず、されるがままにステーキ肉を食べる。
噛みしめるとジュワーっと肉汁が溢れて、口全体に旨味が広がった。
「めっちゃうまい!」
「だよね? それを味わえないのはもったいないと思ったから。一切れだけだよー?」
「いや、大丈夫! すごい元気出たから。ありがとうな」
「ふふっ、どういたしまして」
ステーキの余韻が残っているうちにパンやサラダを消化していく。
最後にスープを飲み干せば、すきっ腹はすっかり満たされていた。
「ぷはぁ。ごちそうさまでした」
「すごい美味しかったね」
「ホント久々のまともなご飯だったから。とても美味しかったわ」
「これからもこんなご飯が食べられるなら冒険者になってよかったかも」
「ギルド様々だな」
アハハと笑いあう俺たち3人。
……いやいやいや。
「あ、ワタシはラトナ・ライラック。エルフなの。よろしくね」
「恐ろしく自然に入ってきたな……」
「私は春藤優奈。優奈でいいよ」
「ユウナ! とってもかわいい名前だわ。仲良くしてちょうだい」
「こっちも受け入れるのが早い」
……とはいえ、ブンブンと握手する彼女は悪い人間には見えない。
ギルドに登録できて施設まで利用しているのだから、あまり警戒する必要もないか。
「俺は江越愛人だ。新人同士、協力して頑張ろうぜ」
「マナトは優しい人ね! 見知らぬワタシにご飯を分けてくれたもの。ありがとう!」
あれだけ物欲しげに見られて断れる方が少ないと思うけど、突っ込むのは野暮だろう。
それよりも気になった点があった。
「ラトナは久々って言ってたけど、ここって3食付いているんじゃないのか?」
「それは違うわ。そんな豪華なプラン選んだら、クエストの報酬じゃ足りなくなっちゃう!」
「そうだったんだ……。ちなみにラトナちゃんのプランは?」
「宿代に朝と夜にスープだけ……。いちばん安いプランだから。故郷から出てきたばかりで知り合いもいないから討伐依頼が受けられなくて、薬草採集ばかりしているの」
悲しげにうつむくラトナ。
なるほど。確かに周りを見渡せばエルフはいない。
数人で固まっている集団も多く、彼女にとってはやりにくい環境だったのは間違いなさそうだ。
俺も優奈がいなければ冒険者になっても、ラトナと同じ道をたどっているだろう。
「……愛人くん」
「わかってるよ。……なぁ、ラトナはまだパーティー組んでないんだよな?」
「うん……。目立った実績もないから」
「だったらさ、俺たちのパーティーに入らないか?」
「えっ!? い、いいの!?」
「私たちもまだ二人しかいなくてメンバーが欲しいって思っていたの。愛人くんがいることを除けば、ラトナちゃんと一緒なんだ。どうかな?」
「は、入りたい! 入りたい……けど……」
「ステーキなら分けるぞ」
「そうじゃなくって! 弓の腕には自信があるんだけど、その、ワタシ……スキルがないから」
ラトナの言葉を聞いて優奈と顔を見合わせる。
そして、俺たちは笑い合ってラトナの手を掴んだ。
「「ようこそ、俺(私)たちのパーティーへ!」」
ラトナは一瞬何が起きたかわからない表情をして、俺と優奈へ視線を行き来させる。
歪むエメラルドグリーンの瞳。
「マナトもユウナも大好きなの~!!」
ラトナは泣きながら、俺たちに抱き着いたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ラトナと明日の待ち合わせの約束をした後、俺たちはすぐ寝ることにした。
というよりは満腹になって、疲労もピーク。
そこにベッドが用意されていれば、もう睡眠一択しかない。
「明かり消すぞ」
部屋に備え付けられたろうそくの火を消すと部屋は一瞬で薄暗くなる。
頼りになるのは窓から差し込む淡い光だけ。
静寂に包まれる空間。
そのせいで余計に互いの息遣いを意識するはめになっていた。
……隣のベッドで優奈が寝ているんだよな。
異世界に来てから辛い経験もたくさんしたけど、それ以上に嬉しいこともあった。
俺のいい思い出にはすべて優奈が関わっている。
本当に優奈がいてくれてよかった。
寝る前に優奈の姿を見ようと、寝返りを打つ。
すると、こちらを向いていた彼女と目が合った。
「あはは……」
気恥ずかしそうに頬をかく優奈。
かくいう俺も枕に顔をうずめたい気分だった。
一言も話さないのに、お互いに視線は逸らさない。
気まずい無言の時間を破ったのは……俺だ。
「……今までのこと思い返してたら優奈に助けてばかりだなと思って、その、自然とそっち向いてた」
めっちゃ恥ずかしい……!
恥ずかしい……けど、素直な気持ちを伝えようと思った。
「ありがとうっていうか……ははっ。俺、優奈に感謝してばかりだな」
「……私も一緒だよ。ゴブリンに襲われたり、野宿したり、冒険者になったり。いろんな初めてを体験して――ずっと頑張る愛人くんを見ていた」
向けられた柔らかな微笑みに目を奪われる。
呼吸さえ忘れて、いつまでも眺めていたい気持ちに駆られる。
「私が愛人くんを選んだのは同情でも恩返しでもない。他人のために頑張れるあなたが素敵だと思ったから一緒に居たいと思ったの」
優奈はベッドから細い手を伸ばす。
こちらには届かない。
だけど、俺も手を伸ばせば触れられる。そんな距離。
「ねぇ、愛人くん。明日から研修が始まって、冒険者として活動して、危険な目に遭うときもあると思う」
森の中でゴブリンと戦い、俺たちは生死をさまよった。
冒険者として積極的に魔物と戦うことになれば死線は必ずやってくる。
「だから、おまじない。明日も愛人くんと手を繋げますようにって」
「……優奈」
「愛人くんの温かさを感じられたなら、どんな時も頑張ろうって思えるから。だから、愛人くんも……私を想って諦めないでほしいな」
不安げに彼女の瞳が揺れる。
今まで明るく、気丈にふるまっている彼女しか知らなかった。
だけど、もう気づいたから。
俺のすべき行動はただ一つ。
腕を伸ばす。指先が触れて、力いっぱい小さな手を握りしめた。
「優奈も死なせないし、俺も死なない。また明日もこうやって優奈とつながりたいから」
「……うん、ありがと」
そっと手を離す。だけど、手のひらにはちゃんと残っている。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
それが消える前に俺は眠りについた。
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