クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜
Quest 1-1 切り捨てる者、見捨てなかった者
Quest 1-1 切り捨てる者、見捨てなかった者
俺は希望に満ち溢れていた。
ようやく地獄だった森での生活が終わり、人が暮らす場所へとやってきた。
夏沢や冬峰にもお礼を言われ、春藤なんかは諸手を挙げて喜んでくれた。
少しずつ認められている実感を得て、慣れないながらも平和な生活が始まると思っていたのに。
「さっさと消えろ。無能なお前はいらないから森に戻って死んどけ」
告げられたのは絶望の宣告だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
無事に街に入れた俺たちは偶然にもクラスメイトたちとばったり出くわした。
その中には夏沢が会いたくてたまらない宮城もいた。
話を聞くと宮城たちは初めから王城に転移していて、魔族を滅ぼす勇者として鍛錬を積んでいたらしい。
「森での生活は大変だったろ。それに一緒にいたのが江越ってツいてないな」
「ううん、江越くんは頑張ってーー」
「――ほんとほんと! もう修司がいてくれたらって何度も思ったもん!」
夏沢の言葉が突き刺さる。
……いいんだ。春藤がかばおうとしてくれただけで俺はマシさ。
「でも、私たちまで王城に入って大丈夫なの?」
「ああ。オレたちをこの世界に呼んだのは国王様だからな。いろいろと手違いがあって4人だけはぐれたって感じだろ」
「そう。なら、いいのだけど」
「勇者の俺たちを特別扱いでもてなしてくれるから、千雪もゆっくり休んだらいいさ」
「ありがとう。さすが宮城君は女性の扱いがわかっているわね」
「当たり前だろ。さぁ、着いたぞ」
案内されたのは大広間。
その中心には台に乗せられた黒く光る大きな球があった。
「修司、これは?」
「スキルを判別させる力が込められた水晶玉だ。俺たちには特別な力――スキルが全員に宿っている。だから、勇者として召喚されたんだ」
「へぇー! じゃあ、ウチら勇者ってこと!? やばっ、すごいじゃん!」
「ちょっと待って。スキルっていったい何?」
「説明するより見せた方が早かったか。ズバリこういう力のことさ。【
宮城が虚空に手を向けると突然、白い刀身の西洋剣が現れる。
彼と同じくらいの大きさを誇る剣は迫力満点で、名前に恥じない装飾をしていた。
興奮を隠せない夏沢と冬峰の反応に得意げな彼は俺をチラリと見ると、鼻で笑う。
『日陰者のお前にこんな芸当ができるか』と見下した目を向けられた。
「ほら、麻衣たちも試してみろよ。きっと強力なスキルを持っているから」
「オッケー! わかった!」
「期待してもよさそうね」
「ちょっとドキドキするかも。ほら、江越くんも一緒にしよ?」
「あ、ああ」
気後れしていた俺は春藤に手を引かれる。
三人は宮城に言われた通り、水晶玉に触れていく。
「わっ、ほんとだ! なんか文字が出てるー! 【獣身化】だって!」
「【氷の女王】……ね。使えるスキルなのかしら」
「【魔導図書】かぁ。みんなの役に立てるスキルだと嬉しいな」
どうやら彼女たちもスキルを所持していたみたいだ。
名前からして強そうでうらやましい。
そして、俺の番が回ってくる。
頼みます。神様がいるなら、俺にも強いスキルを分け与えてください……!
そっと水晶玉に手をかざす。
しかし、水晶玉に変化はなかった。
10秒、1分と経とうとも一向に訪れない。
俺の祈りは神様に届かなかった。
「嘘だろ……。なにか一つくらい俺にだってスキルが……!」
「まぁ、当然の結果だろ」
冷たい言葉が降りかかる。
宮城は歪んだ笑顔で、俺をあざ笑っていた。
「勇者は選ばれた人間しかなれない。スキルは優秀な人間にしか発動しない。俺たちと違って王宮に召喚されなかったお前がスキルを持っているわけがないんだ、無能が」
「ちょ、ちょっと待って、宮城くん! それなら私たちだって森にいたよ? きっと何か不具合があって、江越くんのスキルが出ないだけで――」
「優奈たちはこいつに巻き込まれたんだよ。クラスでも席が近かったしな。優奈たちが不幸な目に遭ったのもきっと異分子のそいつのせいだと思う」
3人が森に召喚されたのは俺のせい……?
ふざけるな。どこにそんな証拠があるんだ。
だいたい俺にだって訳が分からないんだよ!
わけもわからず頑張ってきたのに、そんな憶測で語るな!
叫びたいことはたくさんあった。
だけど、それらは口から出る前に霧散していく。
宮城のそばにいる夏沢と冬峰の鋭い視線が俺を捉えていたから。
「アタシたち、こいつのせいで死にかけたんだ」
「ほんといい迷惑だわ。最低ね」
刀となった言葉が俺の心を切り刻む。
俺が命を張って守った結果よりも、宮城の推論の方が彼女たちにとっては大切らしい。
ボロボロになった体を気力で支えていた俺はプツンと糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
床に涙が落ちていく。
泣きじゃくることも、強がって笑うこともできない。
ただただうめき声が漏れる。
「あーあ、男のくせに情けない。ピーピー泣きやがってよっ!」
「がはっ!?」
顔に強烈な痛みを感じた時には、俺の体は浮かび上がっていた。
廊下で背中を打ち付けた俺の目には足を振り切った宮城が映っている。
「江越くん!? 宮城くん! なんでこんなことするの!?」
「足手まといはいない方がいいだろ? もともとクラスでも存在感のない奴だったんだ。誰も気づきやしないさ」
「宮城君の言う通りね。いるもいないも変わらないでしょ」
「そーそー。江越なんて10人いても修司には敵わないだろうしさ」
「みんな……ひどいよ……」
ガックリとうなだれる春藤。
宮城はゆっくりこちらに近づくと、顔に刺さるかギリギリの位置に剣を突きさした。
ビクリと肩が震える。
「さっさと消えろ。無能なお前はいらないから森にでも戻って死んどけ」
絶望の宣告が告げられると、もう居場所はないと言わんばかりに大広間の扉が閉められる。
何度も反芻される宮城の言葉。
……そうだ。こんなみじめな思いをしなければならないなら死んだほうがマシか。
痛みをこらえて、俺はフラフラと歩きはじめる。
何もかも忘れたくて、森へと引き返す。
奇異な視線を向けられながら街を出れば、目的の場所はすぐに俺を迎えてくれた。
あれだけ脱出したかった森に、まさか返ってくるハメになるなんてな。
可笑しさに自嘲し、俺は森へと踏み込む――
「死んじゃダメ!! 江越くん!!」
――ことはできずに、その場に倒れこんだ。
背中に強い衝撃を、いや、そうじゃない。
だって、今の声はここにいないはずの……。
ゆっくりと視線を向ける。
そこには大きな瞳を涙に潤わせた春藤の姿があった。
「な、なんで……?」
頭がハテナで埋め尽くされる。
彼女が泣いている理由も。ここにいるわけも。全てがわからなかった。
「だって、江越くんに死んでほしくなかったから……!」
春藤は絶対に逃がさないと俺の体を抱きしめる。
「おかしいもん! こんなに傷ついた江越くんが死ぬなんて認めない! 無能なんかじゃないよ! 江越くんは優しい人だもん! 相手を思いやれる人だって私は知ってるよ!? 私たちのために損な役回りも全部買って出てくれて……それなのにこんな結果おかしい!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、春藤は思っていたことをまくしたてる。
こんなになるまで感情を爆発させて、俺の死を否定してくれる。
止まったと思った涙が、死んだ感情がまた溢れ出した。
「春藤……俺、頑張れてたかな……?」
「うん!」
「みんなの役に立ててたかな……? 夏沢も冬峰も春藤も……ちゃんと守れてたかな?」
「江越くんがいたから、こうして抱きしめられるし、私も泣けるんだよ……!」
「俺……生きてていいのかな?」
「当たり前だよ! 私は江越くんに生きてほしい! だから……死ぬのを止めに来たの……!」
彼女の言葉が、体温が、想いがゆっくりと染み渡っていく。
形容できない感情がこみあげて、もうまともに考えもまとまらなくて。
ただ心に従うまま、俺は泣き続ける。
「ありがとう……ありがとう……!」
「私こそ……ありがとう」
ずっと同じ言葉を繰り返す俺の頭を、春藤はそっと撫でてくれた。
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