クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜

木の芽

第一章 新たな英雄譚の始まり

Prologue 出会ったのはクラスメイトとゴブリン

「いてて……。どこだ、ここ……」


 目を覚ますと俺は見知らぬ場所にいた。


 周囲は木々で囲まれ、明らかな異常を伝えてくる。


「確か授業が始まるまで寝ようと思って……」


 そうだ。徹夜で疲れていた俺は教室で仮眠を取っていたはず。


 一体なにが起きてるんだ……。


「そうだ! スマホ! ……は使えないか」


 電波がつながっていない。


 夢の可能性もないだろう。制服やズボンについた土の質感がリアル過ぎる。


「とにかくここから出ないとな」


 ここが日本なのか、また別の場所なのか。


 わからないが、森からは脱出しないと。夜までここにいるのは危険だ。


 留まっても意味がないしな。


「誰かと遭遇できたらいいんだけど」


 俺だけに超常現象が起きたとは思わない。


 なぜなら机と提げていたバッグも一緒にとばされていたから。


 ……いや、本当はそう思い込みたいだけだ。


 見知らぬ土地に一人は心細い。精神を保つためにも他にも誰かがいると信じたかった。


 ーーそして、俺の祈りは神様に届いたのだろう。


「わっ! だ、だれ!?」


「って、江越えごしじゃん」


宮城みやぎ君じゃないのは残念だけど、まぁ男手は助かるわね」


 歩き続けて1時間。


 俺は3人のクラスメイトたちと再会を果たしたのであった。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「江越くんがいてよかったよー。私たちだけかと思ってたから不安で仕方なかったの」


 笑いかけてくれるのは春藤優奈はるふじゆうな


 クラスどころか学年でもトップカーストに属する才色兼備の女の子。


 日陰者の俺にも話しかけてくれる優しさも兼ね備えている。


「江越かー。頼りになんの?」


 耳が痛くなる言葉を吐くのは金髪ギャルの夏沢麻衣なつさわまい


 春藤さんと同じく有名な女子。歯に衣着せぬ物言いをする。


 ただスタイルは抜群にいいので男子人気はすごい。


「少なくとも女3人よりマシでしょ。言いたいことはわかるけれどね」


 黒く長い髪をかきあげるのは冬峰千雪ふゆみねちゆき


 隣の二人に負けない美貌を持つ彼女は男女問わずに人気がある。モデルもやっており、体の流線美りゅうせんびは流石。


 クールな性格で、切れ味鋭い言動は一部でカルト的な人気を誇っている。


「改めて江越愛人えごしまなとだ。早速の質問で悪いんだけど、3人は一緒にいたのか?」


「そうね。机とバッグも一緒に。弁当や教科書も入ったままだったわ」


 冬峰が代表して答えてくれる。


 他にもペットボトルやお菓子などとりあえずの空腹を凌げる量の飲食物があった。


「ありがとう。それで俺はすぐにでも行動を再開するつもりでいる。夜になったら歩くのは危険だからな」


「えー。もう少し休もうよ〜。アタシもうクタクタなんだけど」


「麻衣ちゃん頑張ろ! ずっと森の中も嫌でしょ?」


「そりゃそうだけどさー……ったく、江越じゃなくて修司しゅうじならよかったのになー」


「麻衣ちゃんっ! ご、ごめんね、江越くん」


「大丈夫。3人が宮城と仲がいいのは知ってるから」


 宮城修司。イケメン・金持ち・天才の女性が求める三拍子そろった男。


 あいつの隣に女がいないのはありえないくらいモテる奴で、夏沢が言うこともわかる。


 俺と宮城では雲泥の差だろう。


 宮城より劣る俺ができるのは全力を尽くすことだけだ。


 どうにかして彼女たちを守り切る。


 今まで関りはなかったが同じ学校に通うクラスメイト。


 見捨てる選択肢は初めから無かった。


「……で、行く当てはあるのかしら?」


「とりあえずひたすらまっすぐに進むつもりだ。いつかは果てに行きつくだろうし」


「待つというのは?」


「どっちにしろ餓死するなら行動を起こした方がいいと思ってる」


「…………はぁ」


 冬峰は嘆息したが、異論はないみたいだ。


「決まりだね! ほら、麻衣ちゃんも立って」


「……しかたないかー」


 春藤と夏沢もバッグを背負って立ち上がろうとする。


 その瞬間、彼女たちの後方になにか赤くきらめいた光をとらえた。


 嫌な予感がした俺は二人を突き飛ばす。


「グルァ!」


 すると、俺と二人の間を斧が一閃する。


 斧を操っているのは醜い顔面の緑の小人。


「ゴブリンっ!?」


 ゲームでよく見る化け物の名前を口にすると赤い瞳がこちらに向けられる。


「ギャァッ!」


 脳天から振り下ろされる斧。


 動け、動け、動け! 避けなきゃ死ぬぞ!


「うわぁぁぁ!」


 すくむ足を無理やり動かして回避した俺はその勢いを利用して、手にしていたバッグでゴブリンの頭を横殴りした。


「ガアッ!?」


 ゴブリンは斧を手放し、倒れる。


 ピクピクと痙攣してうめき声が聞こえなくなると、ゴブリンは動かなくなった。


「はぁ……はぁ……」


「江越くん、大丈夫!?」


 心配してくれた春藤が俺に怪我がないか調べてくれる。


 幸いにもかすり傷一つなく、俺は勝利を得た。


 だけど、手足は情けなく震え続け、吐き気がこみ上げる。


 喉元が熱くなり、地面へとぶちまけてしまいたい。


「な、なんなのよ、今の……」


「おかしいじゃん! なんでこんな化け物がいんのよ!」


 だけど、自分より取り乱している夏沢たちを見て、我慢する。


 今の俺はゴブリンに対抗できる唯一の男手。ここで一緒に弱音をさらけ出したら、余計に不安を煽ってしまう。


「わからない……。だけど、間違いなく理解できた」


 汗をぬぐって、ゴブリンの死体を見つめる。


 俺たちが日本ではない別の場所へと転移させられた証拠。


「ここは異世界だ」


「い、異世界ってあんた。漫画じゃあるまいし」


「……ううん。江越くんの仮説は正しいと思う」


「はぁ!? 優奈まで頭おかしくなったの!?」


「落ち着いて、麻衣ちゃん。これは……現実だよ」


 動揺が隠せない夏沢を落ち着かせる春藤。


 夏沢の反応も仕方ない。冷静に出来事を受け入れている春藤のほうが少数派だ。


「とにかく急いで森から脱出しよう。他にも化け物がいるかもしれない」


「そ、そうだね。また襲われたら大変だもん」


「……今はあなたに従ってあげる」


「もうっ! なんでアタシがこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!」


 武器になる斧を拾った俺が歩き出すと3人も後に続く。


 ゴブリンが出てきた草むらとは反対方向へひたすらに。


「江越くんっ」


「あっ、ごめん。速かった?」


「ううん。そうじゃなくてお礼が言いたくて。……ありがとう」


 春藤は俺の隣に並ぶと、屈託のない笑みでそう言ってくれる。


 笑顔に見惚れてしまうそうになった俺は顔を逸らすと、コクリとうなずいた。


「春藤。俺、頑張るから。3人とも無事に街へと連れ出すよ」


 決意を改めて口にした俺は宣言通り、死力を尽くした。


 見張り番。力仕事。怪物との戦闘。


 出来る限りの力を振り絞って、やり遂げた。


 そう、俺はやり遂げたのだ。


「ね、ねぇ! あれって!」


 夏沢が一気に駆け出す。


「ええ、間違いないわ」


 言葉とは裏腹に冬峰も興奮気味に走る。


「江越くん! もしかして……!」


「ああ! 俺たち助かったんだ!」


 ボロボロになった体に鞭打って、春藤と一歩ずつ進む。


 木々が途切れ、開ける視界。


 青空を隠す緑もない。


「たどり着いた……初めての街……!」


 俺たちの目の先には白い壁で囲まれた城下町が確かに存在した。

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