第6話

 ここはどこだ?俺は確かに死んだ。あの感覚には自信がある。まさかループ系か?

 俺は起き上がり周りを見渡す。一度見た世界。しかし前と明らかに違うのはここには完全に俺一人しかいないことだろう。何もない世界に俺一人。これ以上に寂しいことがあるだろうか。


「やっと来たみたいやな。」


 後ろから聞こえた声に俺は慌てて振り返る。そこには俺の胸辺りまでの身長の少女がいた。真っ黒の髪の毛を目の上パッツンに整え、後ろの髪の毛はかなり高い位置でツインテールにしている。まさに全国の同士たちがイメージするサークルの姫(コスプレ好き)って感じだ。


「ここは。やっぱり俺はまた死んだんだよな?」


「そや。兄ちゃんは無残に体を切り刻まれ、最後は腹を貫かれお陀仏ちゅーワケや。」


 そうかそうか。『ヨミガエリ』は生き返るって意味じゃなかったらしいな。全く無駄なスキルが昇華されたスキルだったわけだ。それなら『器用貧乏』とかが昇華されて、『タダの天才』みたいなスキルにしてくれなかったもんかね。


「いや。それは間違っとるで。スキルは発動しとる。」


 俺は頭に疑問符を浮かべる。今まさにってのは・・・


「ええわ。見せちゃる。」


 そう少女が言うと一気に世界が切り替わる。真っ白だった世界は真っ赤な地表の荒野に変わった。少女の後ろには信じられないほど巨大な門。

 俺は思わずポカンと間抜けな顔をしてしまう。


「にーちゃん口が空いとるで。ついてき。とりあえずお茶でも出すわ。」


 俺に拒否権などあろうはずもなく歩き出した少女の後ろをついて行く。

 少女が歩く先には一軒の家があった。まさに豪邸といった出で立ちで、圧倒されてしまう。

 バルコニーに案内され、少女は慣れた手つきでお茶を入れる。


「ぼーっとしてんととりあえず座りーな。」


「え、あ、はい。」


「そんなかしこまらんでよ。」


 仕方ないだろ。こんな豪邸初めて見るんだから。貧乏人をなめるんじゃねえ。


「ハハハ。ええな。にーちゃんはやっぱりおもろいわ。」


 やっぱり心が読まれてるみたいだな。ってことはこいつも神の一人か。もしくは実は俺の心がめちゃくちゃ読みやすいかだな。


「せやで。ウチは神様や。黄泉の神ユベラや。よろしくな。」


 神様の割にはなんだかあまり威厳のようなものは感じられない。親しみやすい神でも目指してるんだろうか。


「ちなみににーちゃんたちに色々説明しとったアベラはうちのねーちゃんや。」


 そう言われると確かにどことなく面影がある。


「せやろ。ってかいつまで心読ませるねん。そろそろ口で喋りや。聞きたいこともたくさんあるやろに。」

「ああ。すみません。」

「かしこまらんで普通に喋り。名前も呼び捨てで構わへん。気使われたらウチも気つこてまうやん。」


 そう言って笑うユベルの顔に思わずどきりとする。女性に免疫耐性の少ないやつにその笑顔は反則だろう。可愛いなおい。


「わかった。多分知ってると思うけど俺は笹羽根皓夜ささばねこうやだ。コウヤって呼んでくれ。よろしく。」


 いきなり不遜過ぎただろうか。返事が来ないので怖い。慣れ親しんだ関西弁の少女に思わず気軽に接してしまった。神の裁きなんか絶対に受けたくないし、想像するだけでも恐ろしい。ここは改まって挨拶したほうが・・・


「大丈夫や。そのままでええ。はー。にーちゃん。心の声聞こえてるんやからな。そんな素直にかわいいとか言うたらあかんで。ウチかてやな、神以外で生きてる奴と話すの初めてなんやからもーちょっと心の声抑えてくれんか?」


 どうやらそういうことだったらしい。いや恥ずかしいなこれ。心の声聞こえないようにしてもらえないですかね。


「それでもええんやけどな。この世界には心読む奴もいるから、その耐性付けるためにウチで練習しとったほうがええと思うで?それだけでスキルが生えるかもしれへんしな。それでも言うなら聞かんようにするけど?」


 なるほど。確かに理にかなっているな。せっかくだからその言葉に甘えさせてもらおう。


「それならそうしてもらおう。せっかくだしな。」


「よしゃ。さてと、そろそろ本題入ろか。ここは黄泉の国。死後の世界と生の世界の狭間やな。にーちゃんが今一番気になってるのはここにいるかやろ?」


 ユベラはそう言ってしたり顔で俺を見る。確かにそのとおりなのだが、あまりにもその顔が腹立たしかったので認めたくない気持ちがふつふつと湧いてくる。いや、よく見ると可愛いだけか。

 俺がここに来たのはスキルのせいだろうとは思うのだが、どうしてここに連れてこられているのかはわからない。

 今まさに新たな神様が俺の目の前にいることから何も理由なくここに俺がいるとは思えないわけだ。神ってのはそんなに簡単に人間の前に姿を現すものだろうか?俺が別の世界から来たからと言われればそれまでなのかもしれないが、それならば死ぬ前に現れてくれても良いわけで今で現れたことに何か意味があるような気がするのだ。


「そうだな。まず最初に確認しておきたいことがあるんだけどいいか?」


「もちろんや。最初なんて言わずにいくらでも聞いてくれてええんよ。」


「じゃあまずはじめに、俺はあの世界にまた戻れるのか?」


「もちろんや。それがにーちゃんの持つ『ヨミガエリ』の効果やからな。」


 そうか。『ヨミガエリ』はパッシブ系のスキルだったわけだ。これで能動型で死んでから自分の意思で発動しなくちゃいけないとかだったら詰んでたな。とりあえず一安心ってわけだ。ギリアとの約束を破るRTAになるところだったぜ。

 しかしそれならば俺がこの黄泉の世界を経由する必要なんてあるのか?一度この世界を挟む理由は?

 待てよ。最初にユベラは俺のスキルはまだって言ってなかったか?普通ならスキルが発動したじゃないか今もまさにってのは・・・


「やっぱりにーちゃんはさすがやな。ええとこに気付くやん。ただ一つ間違いや。この世界は単なる経由地ちゃう。この世界にことが『ヨミガエリ』の本質や。」


「そうか。そういうことか。俺のスキルは『黄泉帰り』。死んだことで発動するんじゃない。黄泉の世界に来ることで発動するのか。」


「大正解や。やるやんにーちゃん男前やな!」


 いや。だとしたからなんだ。もしそうだとしてもここを経由する意味がない。ただ復活までにラグが生じるだけじゃないのか?しかしさっきユベラは単なる経由地じゃないと言っていたし。


「そういえば元の世界の俺の体はどうなっちまうんだ?今こうして話している間にも腐っちまって戻ったらゾンビみたいなことにならないか?」

「安心し。この世界は時間すら停滞しとる。元の世界に戻ったら死んだ直後のはずや。」


 それなら安心だな。よしわからないことは素直に聞こう。正解を知っている奴がいるのにわざわざ自分の予想をペラペラ喋る必要もないな。そんなプライドなんかとうの昔にどっかいっちまった。


「それで、結局のところ俺がここにいる理由はなんだ?わからないから教えて欲しい。」


「よっしゃ。まずはそーやなー。黄泉の世界ちゅーのは、死んだ生き物全てが一度通る道やねん。ただ基本的に黄泉の世界はただ通りすぎるだけのところ。通り過ぎて輪廻転生の渦に飛び込むわけや。でもな、ごく希に輪廻転生の渦に飛び込まず、この世界に留まる奴らがおる。それはにーちゃんとは別の理由でな。そいつらは、元の世界に満足したんや。次の生に興味がなくなってしまった。ウチはそんな奴らを管理しとるんや。」


「それがどうしてここが単なる経由地じゃないと言えるんだ?俺からすればタダの経由地のままなんだが?」


「にーちゃん。そー焦りなや。そもそも自分の生に満足するってどんな状況やと思う?ただ大往生するだけじゃあかん。なんも後悔なく死ななあかんねん。そういう奴らは何かの分野で修め切った者なんや。ここまで言えばにーちゃんもわかるやろ?」


「この世界で鍛えたらいいってことか?しかも時間が止まってるから好きなだけ。」


「正解や。花丸あげよか。ほな理解したところで早速初めて行こか。にーちゃんはまずは剣やろ。男の子はまず剣に憧れるからな。」


 ユベラがそう言うと初老の剣士が現れた。ポリポリと頭を掻きながらあくびをしている。しかしその立ち姿は素人の俺から見てもスキがないのが分かる。


「ワシはアルベルト・ダイナーじゃ。お主に剣を教えたらいいんかの?」


「あ、はい。よろしくお願いします。」


「アル。こいつがコウヤや。優しくしたってな。」


「それじゃ、早速じゃが始めようか。とりあえずわしがお主を切るから。避けるんじゃ。」


 は?


 おれの思考が言われていることの意味を理解した時には既に切られていた。袈裟斬りだろうか。肩から斜めに痛みが走る。


「コウヤこの世界でも切られると痛いからな。気張りよー。アルあとは任せるわ。」


「神様から頼みごとをされてしまったわ。ほっほっほ。」



 そうして俺とめちゃくちゃなじいさんとの修行が始まった。





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