第3話
「勘弁してくれよ。」
俺は目の前の光景に思わずそんな声が漏れ出てしまう。平原の真ん中にぽつんと一人。奥の方には木々が見えるが今俺のいるところは原っぱのような感じだった。
いくら前世の知り合いがいないから一緒に転生するやるやつがいないとはいえ、こんなにも人のいないところに飛ばすこと無いだろう。確か女神さまは人里の近くに飛ばすって言ってたから街がそれなりの距離にはあるはずなんだが。
そう思いあたりを見回すと遠目にうっすらと人の建造物のようなものが見える。気がする・・・
うだうだ考えてても仕方ないのでとりあえず建造物と思わしきモノの方へと歩みを進める。
一度死んだ命だし好きなように生きようか。女神様もそれを推奨してたしな。
ただ好きに生きるといっても、人に迷惑のかかることができるほど俺の神経は図太くない。命の危機とかに遭遇したらどうなるか分からないが、そんなものとは無縁の人生だった訳で、そのときはその時だ。
30分ほど歩くとその建造物がかなりの大きさの壁であることが分かってきた。実物を見たことがある訳じゃないから正確なところは分からないが、いかにも中世ヨーロッパの城壁といった感じだ。なんせ真ん中あたりにひときわ大き城がたってるからな。小高い丘を囲むように大きな城壁があり、その真ん中の一番高いところに城が建っている。地の利を生かした建造だ。
その周りは城下町だろうか。城壁ほど立派ではないもののそれなりの壁がかなりの広さの住居らしきものをぐるりと囲んでいる。
しかし30分歩いてやっと城が見えてくるって後どれぐらい歩けばいいんだよ。かなりの距離があるぞ。
30分ただ歩いているだけでは余りにも無為だったのでステータスとやらを確認してみた。
ステータスオープンってくらいだからSTRとかAGIとかわかるのかと思ってたがそうじゃなかった。わかるのは所持スキルだけの簡易なものだった。これなら別にステータスなんて言わなくてもいいような気がするがそれは文字通り神のみぞ知るってところだろうな。
俺の持っていたスキルは『異世界言語理解1/1』『器用貧乏5/5』『カリスマ5//10』『運動能力強化6/10』『回復4/5』だった。
多分だが後ろの数字がスキルレベルの最大値で手前が自分のスキルレベルだろうな。『異世界言語理解1/1』はおそらくだが女神様からの贈りものだろう。観察対象の人間が全員最初勉強から始まるのを見るのは面白くないだろうしな。
期待はしてなかったけどやっぱり俺に戦闘するためのスキルなんて無かった。平和が長く続いた日本人にはそもそも必要無い才能だしな。
しかし自分の才能が可視化って怖いもんだな。『器用貧乏5/5』とか辛すぎるだろ。いや全くの不器用よりはいいが何やっても結局中途半端って言われてるてるようなもんだもんな。
そして最後にEXスキルってのがあった。これが昇華されたスキルってことになるんだろう。これはひとつしかなかった。いやしかしこのスキルはなんだ?なんて皮肉の効いたスキルなんだろうか。
『ヨミガエリ』スキルレベルがないし、ヨミガエリ。蘇りってと多分死んでも生き返れるんだろうが一度死んでからもらうって、笑うしかないじゃねぇか。試すわけにもいかないし。いやそもそもスキルってどうやって使うんだ?俺のスキルは字面から考えるにパッシブっぽいものが多い気がするが。まぁ街についたときに誰かに聞けばいいか。いやでもスキルを人に言うのはこの世界の常識的にどうなんだろうか。
そもそも別の世界から来ましたって言って信じてもらえるんだろうか?普通別の世界から来たなんて言ったら白い目で見られるだろう。この世界で普通のことなのかどうか分かるまでは隠していたほうがいいかもしれないな。
そんなことを考えてるうちに歩き始めてから2時間ほどたっただろうか。人の声が聞こえた。何やら談笑しているようで時折笑い声も聴こえてくる。
ちなみにテンプレのように途中で魔物に襲われることがなかったのは幸いだっただろう。魔物がいるって言ってたが、どれぐらいの大きさで強さで凶暴なのかわかってないうちに遭遇するのは勘弁したいところだ。
俺はその声のする方へ向かうことにした。向かうことにしたってよりは町の方角がそっちだからってのもあるが。いずれにせよ第一異世界人だ。テンションが上がってしかるべきだろう。一応素人ながらに警戒しながら近寄っていく。今いる場所はちょうど木が生い茂っているので隠れながら様子を伺うくらいはできるだろう。もし盗賊とかぽかったら逃げよう。俺のスキルじゃ何かが覚醒して敵を粉砕とは行かなそうだしな。
息を潜めながら忍び足で近づいていく。どうやら食事の用意をしているようで、此方にもいい香りが漂ってくる。談笑しながら料理しているのはどうやら男女四人のようで皆一様に武器を担いでいた。その中のひとり。特に大柄の男は某RPGかFFでしか見ないようなでっかいバスターソードを担いでいていかにも強そうだった。
それにしてもいかついおっさんだな。ほかの三人とは明らかに一人だけ年齢層が違うだろ。もうひとりの男は長身痩躯でバスターソードさんとは真反対の背格好。細身の剣を腰に2本吊るしていて双剣使いだろうか。
女性ふたりは活発そうでハルバートを担いだスレンダー系美人と体に似合わない大きな盾を担ぎ腰にメイスのようなものをぶら下げた小柄な小動物系女子だ。
「・・・んてもったいない。・・・・さいよ。」
ハルバートさんが双剣使いさんに何やら怒鳴っているようだ。先程までの談笑からは感じられなぐらいの緊迫感がこちらにも感じられる。何やら揉め事の空気を感じるので退散させていただこうか。
第一村人に接触するというミッションは失敗に終わりそうだが仕方ない。もっと普通の人が見つかるまではおあずけと行こうか。
最初から武力に訴えられて死んだらさすがに拾った命といえど悲しくなっちまう。
そう思い俺はその場から離れようと後ろを振り返る。すると後ろには先ほどハルバートさんに怒鳴られていた双剣使いさんがいた。
「あ、こんにちは。」
思わず口をついたのは挨拶の言葉だった。何が起きているのか理解不能の時人は日頃の習慣が出ることがよくわかった。
「あ。どうも。」
双剣使いさんに結構軽めに返されふたりの間には気まずい沈黙が流れる。誰かこの空気から俺を解放してくれ。
「えっと。とりあえず一緒に来てもらってもいいかい?」
先に沈黙に耐えられなかったのか双剣使いさん口を開いた。いやホント助かります。口元は引きつった笑みが浮かんでいることは見ないことにした。だって多分俺もだし。
俺に拒否の権利はなさそう――いやこの人なら許してくれそうだが――だったので俺は双剣使いさんに促されるようにほかの三人がいる方へ歩き始める。
そういえばやっぱりこの人あそこにいたよな。テレポート?それとも高速で移動したのか?この世界の人間の通常スペックがこれだったらなかなかにハードモードだぞ。
「ダイスさん連れてきましたよ。」
「おう。あんがとな。」
バスターソード兄貴はダイスさんか。いや近づくと明らかにでかいな。二メートルは超えてるな。それになんだよその腕。丸太みたいな腕ってのはこう言う奴のためにあるんだろうな。
ダイスさんは双剣使いさんを一瞥すると料理に戻る。女性陣は疑り深い目を向けてきている。そりゃ休憩中に覗かれたら誰だよってなるよな。
「それであんた誰だ。こんなところで一体何しようってんだい。」
ハルバートさんが腕組しながら威圧的に聞いてくる。言葉一つ一つに威圧されるように俺は一気に緊張する。一言言葉を間違えれば殺される。そんな空気をまとっていた。
「えっと俺は笹羽根皓也です。実は信じてもらえるのかわからないんですが・・・・・」
そして俺はここまでのいきさつを語った。EXスキルと女神による転生ってのだけは隠すことにした。スキルに関しては聞かれてもいないことをわざわざ言うのは怪しさが満載だし、女神様に至っては不敬だ!なんて言われたらどうしようもないもんね。
もし死んでもここで死んだら仕方ないぐらいの気持ちもあった。盗賊とかにしては装備が整っているように見えるし、何より身奇麗だ。この世界の盗賊がそもそも汚くないとかだったら仕方ない。と諦めながら。
俺が話し終える頃にちょうど料理が完成したのかダイスさんが料理を運んでくる。器は五個有り俺の前にもひとつ置かれる。
「コウヤ。お前も食え。こっちに来てからなんも食ってねえんだろ。信じがたい話だが、どうやら嘘は無いようだしな。」
そう言ってダイスさんは俺が来てからずっと静観していた小柄な女性に目をやる。女性はそれに答えるように頷いていた。いや、いちいち行動が小動物じみていて可愛いな。
「コウヤ。さっきは威圧して悪かったな!こっちのアルハムが誰かに監視されてるなんて言うもんだからよ。殺気立っちまった。私はギリアってんだ。よろしくな!」
そう言いながらハルバートさんは俺の背中をバシバシ叩く。双剣使いさんはアルハムさんか。そう言われまたあの苦笑いを浮かべている。それにしても力強い・・背中・・痛い・・
「俺はアルハム。さっきは手荒な真似してしまってすまなかったね。ギリアが連れてこないと俺のことを殺すぐらいの勢いだったもんでね。」
「私はパルメ。よろしくねコウヤくん。大変だったね。」
パルメさんは上目遣いで俺に謝ってくるが、この視線にはグッと来るものがある。
俺がペコリと会釈しているとダイスさんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「コウヤ、今パルメに惹かれただろ。気をつけろよこいつはこんななりだが4じゅ・・・」
ダイスさんの言葉は最後まで語られることはなかった。どこからか飛んできた巨大な岩に頭を打ち抜かれていた。そして同時にパルメさんがニコニコしながらこちらをみた。
「何も聞いてないよね?」
「・・・はい。」
この世で一番怖いものを思い出した瞬間だった。そして同時にこのパーティーの力関係を薄々察することにもなった。
「パルメはマジで容赦が無さ過ぎるぞ。」
ダイスさんは頭を抑えながら続ける。
「俺はダイスってんだ。このパーティーのリーダーをやってる。一応冒険者の中では結構有名なんだぜ。とにかく色々大変だっただろうがそれ食ったらすぐに街に向かうぞ。夜になるとこの森は危ねえからな。そこでまぁなんだ。色々話聞かせてくれや。ほかの世界から来た奴の話なんて滅多に聞けるもんでもねえからな。」
これが俺のこの世界での大恩人立ちとの出会いだった。
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