第22話 統治すれど、君臨せず

 中間層の経済的余裕を示すデータにおいて、都道府県別で三重県がトップになった。


「へ~、なんか嬉しいね。小説の設定だったとしても」

「いえいえ、メシヤくん。この物語はフィクションですが、このデータは現実とオーバーラップしています。事実ですよ」


「まあ、首都移転したことが大きいんじゃないかな」

(これは小説のフィクションである)


「そうとも言えますが、首都がこちらに移ってきたということはそれを受け入れるポテンシャルは前からあったということです」


「真ん中にあるってのは重要なのかもね。中部圏はどこも元気いいし」

彼の言うことはまったくもってその通りである。


「メシヤくん、この一年でガラッと身の回りが変わったのではありませんか?」

私が尋ねると、彼は少しはにかんだ。


「そうだなあ。やっぱり思い返すと、北伊勢教会に忍び込んだあたりから目まぐるしくなって来たかな?」

メシヤくんにそそのかしたのは、オブライエン博士である。


 漫画や映画で、平凡だった主人公がハチャメチャな展開に巻き込まれていくというのは王道であるが、主人公自身がどこかで非日常モードに切り替わったために起こったことだと言えよう。


 彼が入院していたのは、決して精神の低調性がもたらす幼稚な反抗といった理由ではなかった。


「ハイパーループの計画・推進をしたのはオブライエン博士です。先日会われたようですね」

メシヤくんがハッとした表情をする。


「レオンくんには何でもお見通しだね! 博士とは空飛ぶ移動手段についても話し合ったよ。一家に一台空飛ぶ車があったとして、空の交通渋滞をどう防ぐかってテーマでね」

たしかに、何の法整備もないまま空のルートをオープンにしたら、空中事故は必至だろう。


 メシヤ少年が考案したアイデアによる恩恵は計り知れない。だが、彼がそのベネフィットを直接受益するわけではないので、生活には困らない程度にアジャストされている。






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