第19話 流謫者の光(るたくしゃのひかり)

「私は、間違ってしまったんだ」

後悔の念に駆られ、涙が止まらない。


「ジョセフィーヌ・・・」

私に与えられた罰は、永久追放だった。


「ナボコフ?」

妙なところを見られてしまった。

私は慌てて平静を取り戻す。


「エリさん、どうかされましたか」

彼女も隠密の端くれ。戸惑いの表情を浮かべたかと思うと、いつもの元気な笑顔に戻ったのだが・・・。


「うン、ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけド」

花より団子の彼女でも、悩みはあるのだろうな。


談話室へと場所を移した。


「もうオリンピック開幕間近じゃなイ? ワタシも楽しみにしてる競技や選手がたくさんいてサ」

奥の大型テレビでは、オリンピック開会間際の特集が組まれていた。


「でもネ、過去の発言や行動をほじくり返されテ、進退を問われている選手が何人かいるんダ」

彼女は真剣だ。真面目に聞こう。


「前世紀なら、そうした追及も時間とともに薄れていったのでしょうが、いまはなかなか難しいでしょうね」


「ナボコフもみんなと同じことを言うんだネ」

エリはあまり面白くないとでも言いたげだ。


「エリさん。たとえばの話ですが、あなたが軽はずみでしてしまったことで誰かの怨みを買ってしまい、自分の毎日の生活を脅かされたとしたら、どうしますか?」


「ワタシは、謝りたイ。許してもらえないだろうけド、会ってとことん話を聞きたイ。殴られるのも覚悟の上デ」

彼女はユダヤ教徒だが、十字架を背負う意思はあるようだ。


「相関は空間を超える、と言います」

唐突だったのか、彼女の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。


「過去は変えられるはずは無いのですが、その当時の自分たちに向けて、気持ちを飛ばすことは出来ます。複雑に入り組んだ問題も、ひとつひとつ解きほぐしていく。そうすると、不思議といまの状況が変わってくるのです」


「ア~、メシヤの小説に出てくるような話だネ!」

 彼女は彼女の独自のネットワークがある。懸念の選手についても、悪くない結果になるだろう。


 身近すぎてつい忘れてしまうが、流され者の私も、彼の光にほんの少しでもあてがわれたかったのだ。







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