第18話 ト・ティ・エン・エイナイ
「あいかわらずすごい本の量だね~」
メシヤくんが我が家に来ている。
「あなたの蔵書も大したものでしょう」
藤原家には本だけの別棟がある。
「う~ん、でもなにぶん僕は読むのが遅くてさ」
メシヤくんは、イメージ化に時間が掛かる。
「いえ、その読み方で良いのだと思いますよ。あなたの書く文章や発言にその効果が現れていますから」
さてと。
「僕が小さい頃、分厚い本をくれたおじさんがいてさ。それを夢中になって読み始めたんだよ。子供だったけど、分かりやすく書かれていたし図解もあったしさ」
カラス、いい働きだぞ。
「メシヤくん、言葉というのは不思議なもので、その1単語を切っ掛けにして自分の行動が促されたり、世界が良い方向、あるいは悪い方向へと突き進んで行ったりするものなのです」
彼に言うまでも無いことだが、再認識させるのが私の役目だ。
「きっとそうなんだろうね」
彼はいつものポーズで考えている。
「ネットの強みは速報性と伝播力ですが、発信力となると、これはネットを見ているだけでは養われません」
「だれかの受けてたネタを真似しても、二番煎じ三番煎じだものね」
「メシヤくん、すでに充分お気づきだとは思いますが、あなたのネット上での発言は、かなりの影響力を持っています」
「以前言っていたブログのこと?」
彼は悪心がないためか、この辺のカンは少々鈍いようだ。
「あなたのブログのエッセイの方は、言わば現実に起こっていることへの論評です。ある現象に対して、表現を駆使してうまくまとめてあります」
「一方、小説の方ですが、これは未来に起こることへの預言です。表現を駆使した文章に対して、現実の方が引っ張られてくるとでも言うような」
「そんなことってあるのかな」
メシヤくんはとぼけているのか本気なのかいまいち掴めない。
「でもさ、文章を書いている人は他にもいるし、それが現実になっている人もいれば、なっていない人も当然いるよね」
この辺の飲み込みの速さはさすがだ。
「コピペや自分本位な書き込みでは、当然現実を引き寄せる力は薄まります。なにより、あなたが本質をよく捉えているので、具象化するスピードも急速なのです」
あまり彼をせかすのも何だが、このくらいは禁則の範囲外だろう。
「ボウスハイトくんやオブライエン博士も見ているんだってね、僕のブログ」
彼は嬉しさと困惑とない交ぜの表情をした。
「そうです。あなたの構想したハイパーループと光子ロケットも、彼らが実現化に寄与してくれました」
「え、光子ロケット?」
「あれはアイデアノートに書いてただけだったと思うけどなあ」
肘を支えて記憶を辿っている。いずれヨーコのことも話した方が良いだろう。
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