第41話 心を貫け、英雄なら

「とても、話しづらいんですが……」


 田舎町アバックと、ルートニの真実。

 エルフのアイロスとの戦闘。

 剣士ミランダとの戦闘。

【大地】【深淵】との戦闘。


 何ひとつ、グラスやセルカたちが知っている様子はなかった。

 どの話にも、感情を激しく揺さぶられ、全てを受け入れるなど到底不可能といったところだった。


「そんなことが」


「驚き、ましたよね」


「信じられない、あなたたちの身に起こった、すべてのことが」


「何を信じていいのか、僕らもわかりません。何が正義なのか真実なのか、まるで見当もつかないんです」


 立ち塞がるものは、すべて敵だった。敵からヴィリスの方についた者も少なくなかったが、英雄パーティーの半数は、敵意を向けてくるか互いの正義が一致せずに戦わざるを得なかった相手。


「僕ら、いいやこのヴィリスは3人もの元仲間を殺してしまったんです、この手で。たとえとっくに裏切られたとしても、自分位は重すぎました」


 復讐を果たせた、という思いもかなりある。

 心底スッキリしている自分もいる。


 ただ、あの殺しが正しかったと確信させるものが欲しかった。


 行動を正当化できる理由が、欲しかった。


「まだ、この戦いは終わっていないと思うんです。何か、手がかりというものがないのか、と思っていまして」


「残念だけど…… 僕たちは本当に何も知らないんだ。ごめんなさい。アバックの村長だって、本当に【七選魔法師】のルートニにだって気づけなかった。僕らも、騙され続けたわけだから。できることなら、力になりたい」


「この胸糞悪い戦いに終止符を打つために、終焉までついていく覚悟は、ありますか。すべてを賭けて、さらなる深淵に迫っていく覚悟は。フライス、リーナさん、ルートニも」


 殺してしまっているからには、もう後戻りはできない。たとえこの命を犠牲にしてでも、真の目的を見つけ出して、終わらせる。


 これ以上悲しみを連鎖させてはいけない。

 自分のように、殺さなくてよかったかもしれいじんぶつを殺さずに済むように。


 セルカは、氷魔法師たちに目配せをする。


「【氷炎ひえん】を消失させてくれて、しかも僕たちが憧れる、ヴィリスさんですから。この命、ヴィリスさんに託します。みんな、いいよね」


 力強い返事が、返ってくる。氷魔法師たちの誰もが、すべてを捧げる覚悟を決めていた。

 ヴィリスを信じ続けた集団だからこそ、ヴィリスのために戦えるというのは本心なのだ。


「改めて、私もヴィリスととも戦う。まだ、終わってないもんね

 」


 終わっていない。それは、【神話】の存在。

 それが、この状況のすべてを物語るはずーーー


 そして、英雄の父の死の真実に近づけるはずなのだ、と。

 この目的のため、ずっと奔走してきた。


「何度でもいう、このミランダは、貴様に負けた。歯医者は商社に服従するのが礼儀だ。たとえ何があろうと、その意思が歪むことはない」


「このリーナも、あなたの父を知ることこそ世界の真実に近づくことだと思っています。それが最短経路であると。合理主義であるからの選択です。とはいえ、一番はヴィリス、あなたのためです。戦いっぷりには、ずっと感心させられていました。ここで引き下がるほどの人間でもありませんし。ともに、真実へと近づきましょう」


「ありがとう、みんな」


 ヴィリスは、強く右手を握る。

 彼にとっては、いまや魔法が放てる唯一の手だ。


「あ、そういえば」


「なんですか?」


「ーーー獣人と呼ばれし生物の、伝説……!!」


「獣人、ですか」


「エルフの森に、真実があるかもしれません」


 エルフ。アイロスとは、別れて以来会っていない。


「まさか、ですよね……!!」

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