第39話 死の味は 死の価値は 復讐の悦びは
ジェーンの精神魔法を打ち破ったヴィリス。彼にとって、もうジェーンは恐る敵ではない。術式を打ち破られるほどの実力しかない、ただの男だ。
「ジェーンさん、あなたも私欲にまみれていたんですね。そして、力に溺れていた。【七選魔法師】自体、ほぼ全員が自分によっている人間でしょうから仕方ないのかもしれませんが。最後に一つだけ、きかせてください」
距離をつめ、視線と顔面の圧力でプレッシャーをかけていく。
「なんだ、いえ。さっさといえ」
首を執念深く掻きむしりながら、彼はいった。
「なぜ、あなたは僕を追放したのですか。はじめからこうするつもりなら、わざわざ追放という形をとる必要もなかったことでしょう。パーティーメンバーのまま、殺せばよかったんじゃあないですか」
「ヴィリス、君はまだすべてを知らない。だからこそ、私の行動の意味を理解できない。いい、それでいい。知ることもなく寿命がくるのを待てばいい。私からは何もはなさないよ」
「どういうことですか、どういうことなんですか」
「無能だから追放、それが当たり前なわけがない。他にいくらでもいちゃもんはつけられるが、わざわざ追放という手段を選ぶ必要はない。私の答えはそれだけだ。あとは煮るなり焼くなりするといい。私の敗北だ」
追放。なぜ。なぜ。なぜ。ジェーンですら、情報を握っていても伝えられる立場ではないということ。
なら、あとは誰が残っているのだろう。考えを張り巡らせつつも、今は悪の連鎖を断ち切ることが先決だった。【七選魔法師】を毒していた邪悪なる存在。
それを消すことが、今のヴィリスには先決だった。
「残念ですが。ここで」
右手に、膨大な魔力を込めていく。終止符を打つための、一撃。抗うことを断念してしまうほどの圧倒的な戦力差で、ひれ伏す。
この行為は、過去のジェーンのやってきたことと同じかもしれないと、ヴィリスは考えてしまう。
独裁者を倒したら、どうなるか。また、別の独裁者が生まれる。
今が、独裁者側に落ちた瞬間かもしれないと思いつつも、そんなことは無視して、右手に膨大な魔力を注ぎ込む。
「【
薄く、透明な氷の壁が現れる。
そこから、無数の細く強度の高い氷柱が生成され。残酷に、氷柱はジェーンの体を撃ち抜いていった。
ジェーンはなぜか抵抗しなかった。すべてを悟り、この運命を受け入れるかというように。
刺すべき部分がなくなっても、氷の上と新たな氷柱を打ち込む。そして。いよいよジェーンは串刺しとなる。
返り血に濡らされ、殺人の罪悪感から暗い感情に満たされつつあるヴィリス。
ブライを追い求める旅の中で、この決断が父に近づけたかはわからなかった。
罪悪感と同時に、自分を追放した人物を滅多刺しにできた気分は、どこか晴れやかだった。
「はは、ハハハハハハハ」
乾いた笑いは、次第におぞましく悪に包まれた笑いへと変化していった。
自分の醜さを自覚していたから、ヴィリスは笑いながら泣いていた。
それに、他の生きている【七選魔法師】が何かいうわけでもない。
「自分が憎んでいたかもしれない人物への復讐って、快感でもあって苦痛でもあって虚しさでもああるわけですか。おかしい話ですね」
ヴィリスは地面に寝そべって、大の字で転がった。
そのうち、街へと戻っていた。
寝そべりながら泣いて笑うヴィリスは、街から浮いていた。
「あとは、父さんだけですか」
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