第36話 【深淵】のジェーンと精神世界

土魔法師ラインランド。彼は自らが生み出した土霊兵ゴーレムもろとも、ヴィリスの【氷圧アイスプレッシャー】で凍らされてしまった。土霊兵ゴーレムの中の精霊ーールートニの反応もない。きっと、これで終わったのだとヴィリスは思っていた。


「ありがとうございます、ミランダ」


「いや、貴様のためだといっただろう」


「こちらからするとどこか癪に触りますが」


「それはいわなくたっていいだろう」


ミランダは、珍しく笑顔を見せた。


「見てください、皆さん」


土によってつくられた世界が、崩れ去っていく。ヴィリスたちを中心に突風が吹く。世界はまっさらな世界へと化す。


ヴィリスたちにだけは色が残っている。


「残っている、ラインランドたちが?」


氷漬けの土霊兵ゴーレムは、土の世界、いわば【時の狭間】からヴィリスたちと同じように残り続けた。


「ようやく、ようやく私の世界へと招き寄せられた。英雄の息子」


「ジェーン、ですか」


浮かべる表情が、どれをとっても醜い。顔立ちは整ってより若々しく見えるのだが、内に秘める闇が、不気味さと腹黒さといった汚さを全面に押し出してしまっている。


「そちらは英雄パーティー全員集合、といったところだな」


氷・光・炎・風・土、そして闇の魔法師。

いわば、確認可能な【七選魔法師】は全員集まっていた。


「僕たちは、どうしてここに?」


「ここは、私の精神世界だ。心の闇が、世界と妄想の境目を曖昧にして作り上げた空間だよ。ここでの攻撃は現実世界と変わらない」


「ここが、現実とあなたの心の中が混じりあった空間ですか。にわかに信じがたいです。そして、あなたの言葉も」


「この闇魔法師ジェーン様を舐めてるな。これでも【英雄パーティー】のトップだ。魔力量に関してはほぼトップだ。ヴィリスのような者を追放できる権限は、持ち合わせていただろう?」


「それはそうですが」


「闇魔法師がなぜ強いか? 他の光・炎・氷……。そういった具現化されるものというのは、抽象化の階段をくだっていったものに過ぎない。闇魔法は、人の心の弱みに漬け込む」


手を広げ、観衆に問いかけるようにして、彼は口を開いた。


「人の根源の魔法だ、闇魔法は。この上級魔法に勝てるとでも言うのか?」

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