第34話 戦闘、ラインランド 中編

ラインランドの【砂地獄】が発動された。




 ヴィリスたちの方へ、大量の砂が降り注ぐ。辺りの建物から、馬車から何までが砂と化した空間。


 砂漠とでも形容したほうがよいような場所で、ヴィリスたちに容赦なく降り注ぐ。




「ここは、氷魔法を使うしかないか」




 今いるのは、光魔法師と炎魔法師。砂に対抗できそうなのは、氷魔法だけ名のである。




「みなさん、ちょっと我慢してくださいね」




「ヴィリス、ここ、どう乗り切るつもりなの?」




「全員、氷漬けにしますから」




 降りゆく砂に向け、魔法が使えなくなった左腕ではなく、覚醒した右腕を使う。彼は、手を天に向けて広げ、強く拳を握った。




「【氷覆アイスカバー】」




 手首を返す。魔力が急激に具現化し、すでに冷え込みつつある手を、自分の手にあてる。すると、ヴィリスの体には異変が起こった。




 手を当てた場所から、徐々に体の表面が凍り出し、あっという間に体を覆う。いつの間にか氷は彼の体をつたって肥大化し、フライスやリーナまで巻き込んでいった。




 加速して落ちていく砂は、氷の表面を容赦なく削っていく。それに対抗するように、ヴィリスは外側の氷を魔力で補強する。ラインランドがはじめに放った分がすべて落ちた段階で、すでに足下は砂場と化していた。




 積もった砂は、実に家の高さまでに及ぶ。うまく砂を弾き返し、氷漬けになったヴィリスたちは埋もれることをどうにか防いだ。


 彼はいったん氷を破壊し、氷の中から出ていく。




 氷覆アイスカバーを出た瞬間、さらさらとした砂がヴィリスたちの足を容赦なくとらえる。沈みかけたヴィリスは、咄嗟に氷魔法を展開して足場を作る。




 フライスやリーナも、それぞれの魔法でどうにか足場を作り出し、砂に足をすくわれることから脱した。




「やるじゃあないか、氷魔法一本で砂を完全に防ぎきるとは」




「こちらだって負けるわけにはいかないですからね」




「ヴィリス、ちょっと寒いんだけど」




 フライスが文句を垂れる。自身の体に回復魔法をかけたり、中でリーナの炎魔法により暖をとってものの、体に堪えるところがあった。




「生きるから死ぬか、ですから。今は我慢を」




「辛そうだな、ヴィリス。ここは私の思うがままだ。砂は有り余るほどある。私の世界では、私のルールが絶対。そこでヴィリス、君が勝てることなど不可能」




「厳しい勝負ですね」




 ラインランドが定めたルールに、縛られた世界。相手の思うままに、全てのものごとが運ばれるような、世界。ここでの戦いが苦戦をし入られてもおかしくないことくらい、ヴィリスは重々承知していた。




「よくわかっているじゃあないか。ここは、私の楽園、理想郷、そしてすべて。代々この不思議な空間を統治するようにいわれてきた宿命さだめ。このラインランド、たとえ相手が誰だろうと負けることはないだろう!!」




 ただ、ラインランドに妙な自信がある。そこにヴィリスはひっかかっていた。ここまでに実力を強調していることが、不自然だった。




「本当に強ければ、言葉なしに。威張ることなしに強さを証明できるんじゃあないですか。それも自分にとって都合のよい環境で、大きな利点を持った上での戦闘。


 そんな接待のような戦い。それに何の面白みがありますか」




 攻めた言葉は、ラインランドを刺激する。瞳孔がぱっと開かれ、獣のような顔となる。呼吸が荒くなり、苛立ちは加速する。




「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな…… 面白み? それがどうした? 英雄の息子であるあんたを潰せれば、どんな手段を用いようとも関係はない。勝利、そう勝利こそが己を肯定させる」




「残念ですね、ラインランドさん」




「これ以上このラインランドを刺激する言葉があるか?」




「【七選魔法師】としての何たるかを忘れ、目の前の勝利のみに溺れる姿。力を授けてくれた父への尊厳が感じられやしません。そんなんじゃ、自分を見失いますよ」




 できるだけの言葉を、ヴィリスはかけたつもりだった。これだけいっても何も変わらなければ、裁きを下してもいいと思っていた。たとえ追放をくだし、戦闘狂となってしまっても、元々は同胞だった人物だ。




 ルートニのような的確な理由がなければ、殺すのは躊躇われる。そんな思考は、かすかながら残っていた。




「だめだね、もう。ヴィリス、そして【炎舞】と【閃光】。ふたりは所詮足手纏いだろうが、ここで消え去りな!!」




「そうですか、【大地】。この【炎舞】、冷静にこの状況を判断しましたが、残炎ながら、あなたはもう敵です」




「ラインランド、ごめんなさいね。私たちだってこんな仲間同士でのぶつかり合いは、極力避けたかった。でも、もうあんたは仲間じゃあない。その腐った性根」




「「「【七選魔法師】として、叩き直す!!」」」




「こりゃあ優しいこった。まあいい、ラインランドの統べる大地に逆らう者は、地に這いつくばって死にゆくのが宿命さだめってもんよ!!」




 両手の指を不規則に曲げたり伸ばしたりとうねらせ、ヴィリスたちを挑発する。




「さあ、こいよ。英雄の息子に寝返った奴らの実力ってもんを、存分に発揮してみやがれ!! オラッッ!!」




 片膝を地面につき、何か重いものでも持ち上げるかのように、腕を曲げ、痙攣させる。

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