第32話 古代遺跡の土魔法師、ラインランド

「わかりました、とはいったものですが……」


 あれから王室をあとにしたヴィリスたち。【漆黒】の剣士ミランダの姿はもう見えなかった。


 王城から出て、門を越えてすぐ。街に入らずに、ヴィリスは口を開いていた。


「変な話よね、どこにあるかわからないものを探せって。そうでしょ、ヴィリス」


「そうですね、フライス」


 強気な態度に、ヴィリスは少し圧倒されてしまっていた。とはいえでも、フライスの思考を受け入れられてはいた。


 もし、王であるアルクリオが【神話】に生々しいものを見せられていたとしても。アルクリオの口から語られるイメージをきいたところで、どうにも探しようがない。


「手がかりなしで捜査しろというのには無理がありますよね。何か手がかりはあるんでしょうか。手当たり次第に探すだけでは、到底答えにたどり着けそうにないと思うんです」


「そうよね……」


「答え探しに戸惑っているようですが、【神話】がこの件に関わっているとするならば、話は変わってくると推測できますよ。この【炎舞】のリーナはそう確信しています」


 この場には、一応【英雄パーティー】所属の【七選魔法師】のひとり、リーナが来ていた。【英雄パーティー】を追放されたヴィリスとフライスにとって、本来は敵対関係にあるものの、都合により行動を共にしていた。


「というと、何か策があるということですか」


「【神話】は我らが【英雄パーティー】に所属していながら、未だ顔すら見せたこともありません。先日は私たちの時間に干渉し、伝言を残しました。正体不明の危険人物であることは間違いないでしょう?」


「それはそうだけど、この件と関わっているという理由になっていないじゃないの」


「アルクリオは、見せられた何かが『伝承を彷彿とさせる』とはっきりいっていました。伝承とまったく同じことが、これから起こるように仕組まれているとするなら? もしかしたら、これまでもそうだとしたら?」


「リーナさん、どこか話が飛躍しすぎていないですか? 僕もこの件とは関係ないように思えるのですが」


「【神話】、それは諸事象の起源や存在理由を語る説話。ゼロを一にする行為。【神話】という異名に、そんな意味が込められていたとしたら…… ごめんなさい、つい非合理的な判断をしてしまいました。長話など」


「つまり、どういうことなんですか。さっぱり僕らには納得がいっていないんです」


「【神話】は私たちという存在を超越した存在であって、私たちは【神話】によって作られた世界の上で踊らされている、だからこそ、都合よく事象が起こるーーー。もう、私たちは後戻りできないでしょう」


 リーナは、空を見上げ、どこか虚な表情を浮かべていった。


「終焉も、近いのかもしれない」


 どうしても、ヴィりすとフライスは彼女の言葉を理解することに苦しんだ、【神話】という存在を過剰に恐れているように、映った。



 あれから、地下遺跡に関する情報は。

 一日経っても。三日経っても。一週間経とうと。一月経とうとも。

 どこにもその気配はなかった。


 見つからなかった。それもそのはずである。もともとないはずのものを探さないといけないのだから。洞窟という洞窟を巡ってみても、答えが出てくるわけではなかった。


「どうして、何も見つからないんでしょうか」


 ヴィリスたちは、もう諦めつつあった。ひたすら空回りな日々である。気持ちが乗らなくて当然であろう。

 戦うことをしなくなって久しかった。この国、そして耳に入る限り、何か侵入者も反乱者もいないようであった。


「答えは近くにあると見えないということもあるけど、ね。もうだいぶ探したもんね。知らない土地を巡りに巡って」


「前にリーナさんは"神話"というものが『諸事象の起源や存在理由を語る説話』いっていたと思うんですが。特別視できるのは本当に【神話】だけなのかな、と」


「何か思いつきましたか」


「僕は、亡き英雄ブライの力を授けられて、魔法を使えるようになりました。魔力を使っていても、魔法というのもゼロから一を生み出す行為ではないでしょうか。僕たちは古代遺跡がどこかにあるものだとばかり思っていました。限定されたどこかにあると」


「そうじゃないと、あなたはいいたいのですね」


「地下の古代遺跡は、僕らが見ようとすれば見れるのではないか、と。こんな理論、無茶苦茶です、わかっています。ただ、強力な魔法師三人が集って強烈な想念をすれば、概念を崩せそうだと思って」


「何をするの、ヴィリス」


「全員で、それぞれの古代遺跡の想念をしていく。それに魔力を込める感じで」


「変なこと、思いつくね」


 そういって全員で、祈祷する。顕現せよ、古代遺跡よ、と。目を瞑り、ただひたすらに、奇跡を願った。ないものは、生み出せばよい。生み出した説話を、神話と呼ぶ。全員が、魔力を想念に注ぎ込む。想念を具象化するために。


 神話と呼ばれる【七選魔法師】がいる。それに近い能力を、僕らは持っているはずだ。それがヴィリスが信じることだった。


「……はっ!!」


 ヴィリスが目を開けると、世界は形をなしていなかった。空間がボロボロと砂のように崩れ落ちていく。

 割れた空間の裂け目から、男は姿を表す。


「遅かったな、ヴィリス」

 割れ目からヴィリスたちの方へと飛び込んでいく。落下したそれは、足場を震えさせる。落下地点には、小さいものの、割れ目ができる。


 大柄で、濃い顔立ち。無精髭がよく似合う男。


「【大地】のラインランド。【時空の狭間】でしばらく待っているのも退屈なものだった。さて、【深淵】のジェーン様のためにも、死んでもらおうか」


 古代遺跡は、現れなかった。

 その分、世界は砂に包まれた。ヴィリスたちがいる場所以外はぽっかり砂に埋もれてしまっている。全てが土に帰っている。


 見渡す限り、全て砂に形を変えてしまったらしいな、とヴィリスは思った。


「どういうことですか!!」


「私こそ、【七選魔法師】の前に、ひとりの古代遺跡管理者だからだ!! 君たちが古代遺跡の出現を望んだからこそ、私は姿を現した。久しいな、ヴィリス。フライス。リーナ」

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