第31話 王国騎士団長と古代遺跡
「やあ」
そんな軽快な語り口で話を切り出した男こそ、王国騎士団長、兼国王である。
ヴィリスが【漆黒】の剣士、ミランダを打ち負かしたことに対して、騎士団長は興味を抱いていた。
そのために、ヴィリスたちは呼び出されたのだった。彼としては、ミランダほどの逸材を倒すような人物について、深く知っておきたかった。
「まだ名を述べていなかったね。私の名はアルクリオ。みんなよろしくね〜」
王とは思えぬ軽い口調に、ヴィリスたちはぽかんとしてしまう。ヴィリスにとって、僅かながら彼と同じような口調ではなすという選択肢もあった。とはいえど、王である彼に失礼があったら困ると、ヴィリスはその考えを捨てる。
「どうぞ、よろしくお願いします」
いつものように、堅い口調で話すヴィリスを、アルクリオは残念ながらいい風には思わなかった。
「もっとさー、僕の前では肩を上げずに友好的に。そして対等な関係で。よそよそしくされるのには慣れていないからさ」
「そうですか、それは失礼しました」
「僕はそういうのが得意じゃないっていったんだけどなー。直せそうにないようだし、じゃあちょっと語らせてほしいな。ヴィリス君のことを」
自分の名前を呼ばれ、ついビクッとしてしまうヴィリス。背筋が伸び、これから説教されるのではないかと思わせるような姿勢だ。
アルクリオにいわれたところで、自分の性格を考えた末に、口調を変えてはなすことは諦めた。
「君が【漆黒】のミランダを、倒したのかい?」
「そうですが」
「それは誇るべきことだよ、ヴィリス君。ミランダを倒せるような逸材は、片手で数えられるほどしかいないんだ。その半分以上は、戦う前にミランダが一歩引いているから、ミランダはほぼ負けなしだったんだよ。現にこの騎士団長もミランダに勝てたことはない」
闘技場での戦いを終え、ヴィリスはミランダの実力を甘く見ていた。どうにか勝てる程度の実力だったからである。厳しい戦いを強いられたものの、長身エルフのアイロスのセクシーさと己の剣術だけで、彼を突破できたのだから。
とはいえ、アイロスによる体のみせつけがなかったら。勝ち目のない戦闘だったのではないか、とヴィリスは思ってしまう。そうすると、王の言葉にも納得がいった。
「あれは、僕ひとりの力ではなくて」
「それでも、君が勝ったことには変わないじゃあないか? 勝負は勝った方が正義。負けた方が文句をいうのは格好が悪い」
ミランダの考えはここからきたのだな、とヴィリスは思った。勝利こそ正義。負けは潔く認める姿勢をアルクリオからも感じとれた。
「さて、一旦話を区切ろう。本題はここからだよ。君たちにきてもらったのは、ある頼みがあるからだ」
ヴィリスたちは、【漆黒】の剣士に呼び出され、この王城までやってきた。この国の王は、ヴィリスの実力に肝を抜かれ、彼が果たしてどんな人物なのかを気にしていた。
それと同時に、彼、いや彼らなら不可能とされてきたことですら成し遂げるだろうと、そう確信していた。
「頼み、とは何ですか」
「地下の古代遺跡に眠るゴーレム。その核にある秘宝をとってきてほしい。ミランダを打ち負かすほどの実力を兼ね備えた君なら、きっとできると思ってたんだ。どうかな」
「この僕じゃないと、ダメですか」
「僕らだけでは到底立ち向かえない相手なんだよ。古代遺跡の場所というのも、実はまだ掴めていない。まだ謎に包まれっぱなしなんだ」
「それなのに、なぜ地下遺跡にゴーレムが存在して、そこに秘宝が眠っているとわかるんですか」
「この国にはいくつか伝承が残されているんだ。そこのひとつに、ゴーレムについての記載がある」
「たった、それだけなわけないですよね」
ヴィリスはつめていく。存在するかどうかも怪しいものを調査しろというのはどうなのかと、ヴィリスは思わざるを得なかった。
「いや、僕は神から教えを授かったんだ。昨日、ふいに時が止まり、脳に直接、明瞭な光景が映し出されたんだ。伝承を彷彿とさせる、みょうに生々しい光景が。あたかもそこにいるような感覚を受けた。光景が映し終えられると、時がまた流れ出したような感覚で」
ヴィリスは確信した。これは、いぜん姿を見せない【神話】によるものだと。時が止められたかのような感覚。それは、意味深な言葉を発していたであろう人物が見せた光景に似ていたからだ。
きっと、この件に何かしらの形で【神話】が関わっている。【英雄パーティー】のメンバーの謎を解き明かすことこそ、英雄である父に近づけると、ヴィリスが思ったからだ。
「わかりました、引き受けます」
「報酬は、高くつけよう」
そうして、ヴィリスにつづいてリーナとフライスもこの件を飲んだ。
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