第30話 ミランダとの再開と王城

 ルートニとの決着をつけ、新たな旅路を目指すと決めていたのだが。

 今から動き出そうとした、その前のとき、


「おい、ここにいたのか貴様らは」


「ミランダ、なぜあなたがここに」


【漆黒】の剣士、ミランダ。彼は自らを最強と名乗っていたが、ヴィリスとの接戦の末、敗北していた。


 そんな人物がなぜか、ヴィリスたちの元へと訪れていた。馬車に乗ってきていたらしく、馬が威勢よく声を上げているのが、田舎の村アバックに響いた。


「この俺の身分、貴様らは知らないだろう?」


「知らないですし知りたいとも思わないですね」


 フライスがいう。


「おい、その態度はないだろうよ」


「その言葉、あなたにそのままお返しします。上っ面だけ最強を気取ってるあなたにはこういた態度がお似合いだと思っただけですが?」


 よほど、フライスはミランダのことを嫌っている。妙に自信に溢れている態度や発言が受け付けなかったらしく、何をいおうと、彼女にとっては拒否反応が出るということだった。


「ああいいさ。それはともかく。あんたたちの顔なんぞ、もう見ただけで屈辱的だが、こっちだって命令されてきているものだからさ」


「というと?」


「俺と氷魔法師との戦いを、王国騎士団長がみていたらしく、いますぐ王城で顔がみたいらしい。一応この俺は王国騎士団では最強と名高かったからな。それを打ち倒すほどの実力というのが如何なるものかを知りたいらしい」


「王国騎士団?」


 前提として、この世界において、最も大きな国をシエルドという。半分以上の人々は、シエルドに住んでいる。


 というのも、シエルドが多くの国を内包しているからである。


 氷魔法師の国【ブランンシュ】だって、現在ヴィリスたちがいる村、アバックだって。さらには、ミランダがいた国だって。


 すべて、シエルドという大きな国の中にある小さな国なのだ。英雄と名高かったブライが、ヴィリスの訪れた国のほとんどの人々に知れ渡っているのはそういった事情がある。


「ああ、言葉の通りさ。王国のために使える騎士団。王国【グリード】は、強いものを見つけると、とことん調べ上げたくなるタチなんだよ」


「そうすればあなたのような残念なイキリ散らかし剣士が爆誕するんだ、納得、納得」


「それは置いておき。とにもかくにも、こちらの国まで同行願いたい」


「僕はわかりました。ですが、これ以降、あなたの関わることは極力避ける、それでいいですか」


「それはどういうことだ。こっちはいつでも助けるつもりでいる、っていっただろう」


 ルートニの件においては、何かあればミランダが助けるとはいっていたのだ。


「申し訳ないですが、フライスとの関係性を見るに、僕たち対等な関係を結ぶのはどうも厳しそうだな、と思って」


 ヴィリスは口を挟む。


「対等な関係じゃなくたっていいだろう?」


「そうですが。反りがあわないというのは、戦闘において些か問題が生じるのではないかと判断して」


「まあいいとしよう。いいさ、もうあんたらを助けるような真似はしないと約束しよう。ここで王城まで連れていけば終わりの関係、でいいな? じゃあ早速、馬車のところまでこい。今回は余裕を持って六人乗りにしてある」


「この炎魔法師、【炎舞】のリーナも、展開が未知数である行動に踏み出さなくてはならないというわけですか? 一応ヴィリスたちとは敵対関係なのですが」


「いいだろう? この俺だってあいつらは初めは完全に敵だと思っていた。今でも敵だが、完全に拒絶するものではないと思っている」


「私はあなたを認めない」


「一部例外はいるがな」


「あれですか。私の炎魔法を使った方が早い。そのために"利用"したいということですか」


「言葉は悪いが、そういう形になる。あんたらが出発してからここに辿り着くまで厳しかったからな」


「いいでしょう。それでは、姿をくらましている変態高身長エルフを見つけてからにしましょうか」


 ヴィリスはようやく思い出す。すっかりアイろすの存在を忘れていた。


「どこにいるんだ、アイロス」



 村中を探し回った結果、村長ーーー化ていたルートニが住んでいた小屋に、置き手紙があるのに気がついた。


「私はもっともっと快感と興奮とその他諸々を追い求めるために、孤独な旅に出ることにし・ま・したぁ〜 みなさんには申し訳ないですが、刺激的な旅を、これからも楽しんでくださいねぇ〜    えっちいお姉さん アイロスより」


 という、いかにもアイロスらしい文面の置き手紙を見つけた段階で、探すのは打ち切りになった。


「何の挨拶も前触れもなしに消えるなんて。残念ですが、アイロスさんにも彼女の森が本当はあったわけですし、僕は受け入れる覚悟です。もっと魅せてほしかったですが」


「あのさ、あの子、私たちの旅路に変態目的で連れてきたわけじゃないってこと、わかってるよね?」


「すみませんでした。そんなつもりは……」


「『ない』でしょ。本心ではあるくせに。このやりとりは不毛だから、さっさといきましょう」


 ミランダが用意していた馬車に乗り込み、リーナの炎魔法で一気に飛ばしていく。






 そして、たどり着いた王城。ミランダと激闘を繰り広げた闘技場の、すぐ隣。


「遅くなりました。かの氷魔法師たちを連れて参りました、騎士団長」


「よく来させた!! ミランダくんえらいね〜」


「この方が」


「やあみんな、私が騎士団長、兼国王です!!」


 妙に活気づいた声だった。

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