第26話 村長の正体とヴィリスの怒り
自分が氷魔法師である意味を見失っていたヴィリスに、ようやく自信が取り戻された。
勝つこと・力を振りかざすこと・褒め称えられること。
それに対して卑屈になっていたヴィリスは、細かいことを気にしないことにした。
自分自身がこの場所にあること。それだけでいいのだと。
たとえ力を与えられるのが誰であっても、自分が力を持っていることに変わりはないこと。
「聖樹のところへ、いきましょう」
考えにふけった後、フライスに対していう。これまでの状況説明を、フライスはヴィリスに対しておこなってくれた。
ようやく状況を掴めたことによって、これからの行動についての指針もぼんやり浮かび上がってきたのだ。
「草原じゃなくて?」
「この広大な草原をくまなく探すのには、かなり厳しいと思うんです。きっと、すでに訪れたどこかに、答えになるものがあるんじゃないか、って」
「その線は有力かもね」
「これは、僕の氷魔法に関する話です。僕が動いてはじめて、変わることもあるかもしれません」
「なるほどね。よかった。このまま喪失感に浸ってるヴィリスだったら、格好悪くて見てられなかったもん」
うじうじと悩み続け、恐怖から叫んでしまったヴィリスは、ようやく決心がついたのだ。それまではまるで自分が何かを忘れてしまったかのようであった。壊れた機械と大差ないものともいえた。
「今の僕は、あのときのヴィリスじゃないですから。この瞬間も、僕は変わり続けています。力を失った今は、心を強く持たないとって、思えてるんですから」
「それなら安心だよ。いこう」
***
草原を走り抜け、聖樹の痕へと向かう。
他の草原に比べぼっこりとへこんでしまい、剥き出しになった地面。いまだに漂う、ひんやりとした空気。他の場所とは、どこか違っていた。
「寒いですね」
「ヴィリス君も、そう感じるの?」
フライスがいう。氷魔法師でない彼女からすれば、ヴィリスよりも温度変化に対しては敏感だ。
「いや、違うんです。陰鬱な魔力の流れを、感じるというか。きっとここに謎があるような気がして」
「読みが当たってそうかも、って? 手がかりがここにある。そうヴィリスは思っているの?」
「そういうことです。話は変わりますが。きっとルートニ自身が。魔石のような、僕の魔力を保存する"何か"を持っていることでしょう。それなら、代わりに何を手がかりに残して置くのでしょうか。そう僕は思っているのですが、フライスさんはどう思いますか」
「それはそうよね。考えなしに闇雲に探していたけど」
「僕が聖樹に対して込めた魔力は相当なものでした。これまでの【氷柱】や【氷雪嵐】とは比べものにならないくらい。さらに、聖樹の中には膨大な魔力がすでに込められていたはず…… その上、炎龍の力も加わっていた訳ですから」
「君たちは、面白い推理をするねえ」
ふたりで語り合っていたところに、参入する人物がひとり。
「村長? どうしてここに?」
聖樹があった場所に向き合っていたために、ヴィリスたちが村長の接近に気づくことはなかった。
「いや、君たちが聖樹の痕を見にくるとはね、と。それほど、自身が建てた仮の聖樹の消失が、悲しいのかい」
「それは、もちろん」
「合格だね。ただ、君たちは聖樹に対してこれまで何も知ろうとしなかったこと、いかに愚行だったかって、わからないかな。やはり『無能』は半年経とうといくら経とうと、変わらねえんだ」
突然口調が変わったことにより、ヴィリスもフライスも困惑する。
「村長さん、まさか、あなたが」
「半年間もずっと演技を続けるのも楽しかったよ、英雄の息子」
初老の男性のような外見だったはずの村長は。
仮面を剥がしたかのように、真の顔を覗かせる。その顔は、憎むべき宿敵の顔。
「どうも。村長改め。【旋風】のルートニです。精霊と共に吹き荒れて。ずっと道化を演じるというのも、飽き飽きしていたところだったんです。いつかは正体を明かすつもりでしたが、少し早まいましたね」
「村長が、ルートニ」
半年もの間、好意的にヴィリスたちに接し続けていたはずの人物が、実は【七選魔法師】、というのはいささか受け入れ難いものがあった。
【深淵】のジェーンではなかったものの、彼がヴィリスを追放へと持っていくに大きな役割を果たしたことに変わりはない。
「親切な僕から、いくつか教えてあげよう。この外見は、精霊を取り込んだことによる変化。精霊と一体になっていたことで、僕はあたかも別人かのような体を手に入れた」
「じゃあ、私が治療していた子は?」
「ああ、それは僕の精霊さ。君はそんなこともつゆ知らず、必死で魔力を注ぎ込んでくれたわけだ。そのおかげで、そう。僕の魔力も相当増えたよ。ありがたいね」
フライスは、雷に撃たれたかのようなショックを受ける。少なくとも、フライスが注いだ愛情は相当なものだった。来る日も来る日も、助けてやりたいと思っていたからこその、想いがある。
純情を踏み躙られては、フライスも許せたものではない。
「フライスさんには大ダメージだったかな? まあそれはいいか。で、追放したかった理由なんだけどさ。そう、都合よく君たちを泳がせることで、ヴィリスの力を横取りする機会を狙っていたんだよ。フライスはおまけかな。嘘の病気に対して精魂尽くしてやっている姿は滑稽だったからそのままにしてしまったけど」
「そんな……」
「もともと、聖樹は膨大な魔力を秘めている。そこから放たれる魔力は、他の場所に比べても相当なものさ。魔力を吸収させるにはうってつけの場所さ。君が力に目覚める前兆を見たところで、これまで眠らせていた精霊を起こしてやった。そうすることで、ヴィリスにとって行動を起こさせやすいように仕組んだ」
「すべては計画通り、ということですか」
ヴィリスは、下を向いて顔を合わせることもなく、唇を強く噛んだままいった。
「盤上の駒、他ならなかったということなだけさ。聖樹を倒されたのは想定外だったけどね。そして建て直された聖樹。あれはかなりの逸品だった。君たちをどうにか追い出したあと、しばらくしてから。精霊魔法によって、聖樹は魔力に変換させたさ。ただ、それは膨大すぎてどうにも体に収まらなそうで」
「僕から何かを奪ったんですね。でも、どうやって?」
「あの闘技場に、私の精霊を送り込んだ。精霊によって、力の根源を頂戴した」
「魔石ですか」
ヴィリスは問う。
「どうだろうね。いやあ、それにしても実に滑稽な光景を楽しませてくれたよ。間抜けな【七選魔法師】にしか映らなかったね。『無様』だねええええええ!!」
もう、耐えられなかった。
すべてを否定されたかのような態度に、ヴィリスの堪忍袋の緒は切れていた。もう、ヴィリスは決心がついていた。
聖樹の痕へ来る前に、自分のあるべき方向性はわかっていた。
それなら、今何をするべきか。
「ルートニ」
「どうした? 盤上で滑稽に踊る追放者くーーーん??」
ためを作り、口を開く。
「殺す」
「小さい声で聞こえないな?」
「お前を……殺す!!!!」
リミッターが外れていた。
そこには、殺意に満ちた目をした、野獣がいた。凍てつくような視線と、焼き尽くすような視線。
今のヴィリスは、狂っていた。
「いいさ、殺すといい!! だが、力のない君に何ができるか、ちっと考えてみたらどうかな?」
ルートニは、戦闘の体勢に入る。
ヴィリスは、華やかに戦う。
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