遅咲きの最強氷魔法師〜『無能』だとパーティーを追放された英雄の息子の俺、発動時間が一日の最弱氷魔法がついに覚醒!! ハーレムを築いて無双するほうが幸せなので、今更帰ってこいだなんて『もう遅い』〜
第23話 勝利は束の間、氷魔法消滅を企てる謎の影
第23話 勝利は束の間、氷魔法消滅を企てる謎の影
「……無理をする勝負なんて、どうにも格好がつかない、そう私は思いますがね」
「リーナさん?」
ようやく、目を覚ましたヴィリス。柔らかい感触と花が香るような匂いが花をくすぐる。
もう日も暮れるような時間帯だ。沈みかけの太陽が、わずかながら夕日を注ぐ。
魔法の同時詠唱という、体に負担のかかる方法で【漆黒】の剣士、ミランダを倒したヴィリス。
ただ、その代償は大きなものだった。気を失ってしまっていた。
「私はヴィリスの無様な顔を見て、ついぼやきたかっただけだ。しっかり感謝すべき相手がいると、想定できませんでしたか」
また、フライスが光魔法を発動していた。
「よかった! すぐ元気になって」
「ありがとう、フライス。ちょっと頑張りすぎてしまいました。そうだ、ミランダは」
「貴様、いい勝負だったな。俺は少し前に気は取り戻した」
ヴィリスによって、剣の柄で首を打たれ、意識を失っていたミランダ。
「先に、起きていたんですね」
「そうだ。だが、いったん、立ち上がれ」
さきほどのリーナも、ミランダも。見下げるような視線をヴィリスに送っていたのだと再確認する。
では、ミランダは。
「頭の下が、柔らかい……?」
ようやく、ヴィリスは今の状況に気がついた。
「地面で転がっているのを放置するわけにもいかないから、私の膝にヴィリスの頭を乗せてたの」
それを認識した途端、すぐに立ち上がり、
「すいませんでした、膝枕なんて……」
「大丈夫、気にしてないから。治療のた目だったし」
ふいに立ち上がった衝撃でふらりとしたものの、どうにか血を巡らせ、ぼんやりした頭を覚ます。
「あれ、地面に倒れていた人たちは?」
「それは全員最低限の治療を施しておいたから、大丈夫」
「だって、それじゃあフライスさんの魔力が」
「私だけじゃないよ」
私だけではない、という言葉に戸惑うヴィリス。
「我が炎魔法師リーナも、回復魔法の一つはなせる。侮らないでいただきたい」
「【炎】という詠唱しかきいたことがないので、てっきりできないのかと」
ヴィリスが【英雄パーティー】に所属していた頃、リーナの炎魔法を直で見てきたはずだが、【炎】という詠唱以外はきいたことがなかった。
「ピ・【炎】。それが回復魔法の名」
「ぴ・えん」
「そうだ。平仮名でいえば『ぴえん』だ。私の魔法は【炎】だけで基本的に構成されている。詠唱の短さが、連続で放血やすくする。そして、魔法のカモフラージュにもなる。"ピ" や"ア"といった言葉をひとつ加えるだけで、こちらとしては判別可能だから問題ないというわけです」
「ずっと『ぴえん』、『ぴえん』いいながら回復してるのはあの人にしては少しお茶目だったかもね」
フライスが小馬鹿にしたような口調でいう。
「これが私が発見した最も効率的な詠唱であるから問題ない」
大真面目に、リーナは答える。
「戦いの終わった後だというのに、どうも呑気なものだな」
自分の存在を忘れられたかのように進むやりとり。自己顕示欲が高いミランダにとって、蔑ろにされることこそ苦痛の極みであった。
「すみません、僕ではないですが」
「ひとつ言わせろ」
偉そうな態度は変わらず、ぶっきらぼうに、ミランダはいう。
「どうぞ」
「強いな、貴様たちは。認めたくないが、いい戦いだった。連携の取れた三人の攻撃と、氷魔法師の貴様の策略。さらには剣の実力も並以上だった。【漆黒】の剣士として戦った中では、三本の指に入る強さだった」
「まさか褒めてもらえるなんて」
「素直に喜べ。このミランダ様が実力を褒めるときなんてほとんどないんだからな。本当に貴様らが『最強』を名乗るのにふさわしいと思えたから、いっているんだ」
「そんな事情、私たちには関係ない気がするけど。あんたの勝手なプライドでしょう?」
フライスがそう立てつく。ミランダの態度には、気に食わないところがかなりあったからだ。
「素直に喜ぶのが正解だ。ごちゃごちゃいうな」
「お兄さん、ちょっと素直じゃなくな〜い? でもカラダは……」
意味深な発言に懲り懲りしていたフライスは、全力でアイろすの口を塞ぎにいく。
「じゃあ、嬉しい、と思います」
「最初から貴様らがそうすればいいものを」
「そういえば、リーナさん。【氷炎】とは、いったい何だったんですか。数人に聞いても、それぞれ答えが被らなかったというか」
「私の意見も、あくまで解釈のひとつです。消滅したように見えましたが、あれが完全な消滅ではないでしょう。ひとり身で調査していましたが、不可解な点が多いものですから」
「そういえば、【英雄パーティー】は?」
「現在全員が単独行動中。それぞれやらなくてはいけないことがあるから、です。風魔法師・土魔法師・そしてジェーンも、今は各自で動いている」
「そういうことでしたか」
ヴィリスは、全員で行動していた半年前のことが思い出す。
果たして、全員で行動するのに意味はあったのか? 技の相性の悪い魔法師同士を一緒のパーティーに組み込んで、能力を打ち消し合わなかっただろうか。
そんな疑問が浮かび上がっていた。
「フライス」
「ヴィリス?」
「次、どこへいきましょうか」
【漆黒】の剣士、ミランダとの出会いは、アイロスの紹介によるものだった。
ついに、どこへいくべきかを失ってしまったヴィリス。
「リーナさん、何かおすすめは?」
「おすすめをすることが、生産性を向上させるが、私の中で判断しかねます」
「生産性なんですか、判断基準は」
「生産性の火の中に身はとっくに捧げていますから」
本当に、行くあてがなくなってしまう。
「どこへいくべきなんでしょうか……」
腕を組んで考える素振りをとろうとしたとき。
「ん?」
「どうしたのヴィリス? お姉さんにいって?」
自分の内から溢れる、魔力の感覚。それは、聖樹の一件からヴィリスの中で掴めつつあるものだった。
だが、今。
みなぎるような、溢れるような、そんな感覚が薄れていったように感じる。
嫌な予感を察知したヴィリスは、試しに魔法の発動をする。
いつも通り、左手を伸ばし、一度握った拳を広げ。
そこから、氷の粒が。
「出ない?」
「何が起こっているの、ヴィリス」
もう一度、腕を引っ込めて、伸ばし、拳を広げる。
「【氷柱】・【氷圧】・【氷雪嵐】……」
いくつも詠唱を試すも、すべて失敗に終わる。
「魔法が、使えない…… どうして、いきなり」
「突然魔法が使えるようになったように、使えなくなるのも突然やってくる。そういう解釈でいいのではないでしょうか。『無能』に返るだけでしょうし」
「嫌だ、嫌だ……」
どうにか得られた力を失うというのは、ヴィリスにとっては苦しいものがある。
氷魔法の成功体験があってこそ、どうにか精神状態を安定させてくることができた。
生きる上での土台になっていたものを、ふいに抜かれた感覚。それがいかに心を抉るか。
パニックになったヴィリスは、頭を抱え込んで縮こまってしまう。
「戻りたくない、もう戻りたくない……」
「違う。そうじゃない」
「アイロス、どういうこと?」
「精霊様が、いるの」
「精霊様?」
「ヴィリスのカラダに入り込んで、石のようなものを取り出してる」
ヴィリスの方へ駆け寄り。
「あんた、ヴィリス君にナニしにきたの?」
ーーー僕らの存在、見えてるのかい?
「なんせ私、エルフだから。精霊関連はお・み・と・お・し」
側からみれば、空気に向かってはなしかけているようにしか見えなかった。
ーーー見ない顔だね。せっかくだから、もう名前くらいは名乗ろうかな
「どうぞ、私はアイロスだけど」
ーーーなるほど。僕の名前は。ルートニ。【旋風】のルートニさ。【七選魔法師】にして、風魔法と精霊魔法の使い手
「【旋風】の、ルートニ?」
その言葉をきいて、フライスとリーナは反応する。
「まさか、あいつがあの魔法を……?」
ーーー場所は。アバックの聖樹前。急いで来ないと、ヴィリス君が危ないんじゃない? 僕は楽しいから関係ないけど。じゃあね〜。
「ルートニは、アバックにいるっていってたわ」
「アイロス!! 急いで馬車を呼んでアバックまで。ヴィリス君は抱えてあげて!!」
氷魔法の消失。
それは、【英雄パーティー】の一員による、精霊を使った何らかの能力略奪。
この状況を乗り切らなければ、ヴィリスの精神は持たない。
早く動かないといけないと、フライスとアイロスは強く思った。
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「ぴえん(´;ω;`)(炎魔法の名前)は草」「ヴィリス君大丈夫か?」「ルートニって√2だよね……www」などなど感想を持った、画面の前のあなたのブクマ登録・ポイント評価・感想をお待ちしていますd(^_^o)
(結構ピンチでも最後は主人公が勝ちますので安心してお読みください)
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