第18話 ヴィリスの危機と【炎舞】のリーナ

剣を後ろにひき、膝を曲げ、勢いをつけて飛び込むかと思われたが。




「一発で斬り込んで貴様が負けるのは興醒めしてしましまそうだ。ああ、そうだ、せっかくなら魔法というものを見せて貰おうか」




「やけに余裕だね、お兄さん。あたしたち、結構すっごいんだよ」




「ほう、長身のエルフ。エルフの癖に魔法が使えるのか? いや、使えたとしてもさほど強くはないだろうが」




 嘲笑気味にいう。




「こう見えて使えるからね? あたしはメインじゃないけど。ヴィリスとフライスは本当に強いから」




 アイロスは指を思い切りミランダに突きつける。自分を馬鹿にされたのが許せなかったらしい。




「まあ、いいさ。この剣の前に、魔法は通じない」




 とりあえず、撃ちましょうとヴィリスはいい、魔法を放つ体勢に入っていく。フライスも続く。




 ミランダはよほど自分の実力に自信があるのか、いっさい攻撃の意思を見せなかった。




「【氷柱】!!」




「【光の矢】!!」




 アイロスを倒したときと同じ術式の組み合わせ。






 氷魔法と光魔法が入り混じって、ミランダの方へと飛んでいく。


 躱しようがないほどの、大量の攻撃。




 だが、ミランダは全く動く気配を見せない。




「何がしたい?」




 魔法を放ちつつも、ヴィリスはついそう呟いてしまう。それほど、理解し難い行動だった。




「魔法ですら剣で一閃するっていってたけどさ……」




「貴様らの判断は、惜しかったね。魔法を剣で一閃? そんなたいそうなことをせずとも」




 剣先を斜め前へと突き出す。天へと向けられた剣。


 近づいていく、数十、数百の氷と光の魔法。




 衝突するかと思われた、そのとき。




 魔法は、あたかも時間を逆再生したかのように、ヴィリスたちの方へと向かっていった。




「もしや、反射?」




 自分たちに攻撃が跳ね返ってくるを警戒していた三人だったが、怯えた姿を横目に、ミランダは、




「いいや、今行ったのは反射であって、反射ではない。この剣は魔法を通さない。秘められた強大な魔力が、ちっとの魔力が込められた魔法なら、それを無効にする」




「魔法無力化の、アイロスと同じ効果か?」




「魔力無効化とは違う」




 放たれた数十、数百の細かい魔法が、左手に吸い込まれるように消えていった。




「どういうことですか、魔法が手の中へと戻っていった感覚があったんですが」




「時間差はあるものの、魔法を放たなかったことになる能力。そう、実質、貴様らはこのミランダの前で、魔法を放つこともできないということに等しいわけだ」




 ここでようやく、【漆黒】の剣士、ミランダの能力の恐ろしさに気づく。魔法をメインで使うヴィリスたちにとって、魔法が使えないに等しいということは、死を意味するといっていい。




「怯えた魔法師らが、最近【魔法師殺し】という異名までつけてくれたらしい。魔法しか使えない魔法師は、魔法を失ったら、何が残るんだろうね?」




 視線を合わせず、剣を視線で舐め回しながら退屈そうに。ミランダはいう。




「それでも、僕はあなたに勝ちたいと思います。ほぼ、魔法を放つことができないというなら。わずかな確率でも、魔法が通る可能性があるということ……!!」




 感情が昂り、一度ヴィリスは拳を握りしめ。


 左手を前に突き出し、拳を広げる。




「膨大な魔力を放てば、【魔法師殺し】のミランダさんは満足してくれますかね?」




「そうか、それほどに魔法に対して自信があるのか。面白い。この剣の前で、どの魔法も通らないというのに、愚かなことだ。ならいい、これでお遊びはおしまいだ。この魔法が通らなかった時点で、本気を出させてもらう」




 先ほどと同じように、ただ、剣を前に突き出すだけで、動こうとしない。






 ヴィリスは、あることを思い出す。


 聖樹を凍結させたとき。【氷炎】を消滅させたとき。




 対する敵は、きっと他の【氷炎】を宿した剣を使うもの。




 かのときの魔力の込め方をすれば、打ち破れる可能性はゼロではないということ。




 左手を中心に、膨大な魔力が込められる。少ない体積で、濃縮された魔力。込める時間。実に数分。




 それでも、悠長にミランダは待っていた。


 必ず、勝てると確信していたから。




「【氷圧アイスプレッシャー】!!」




 そう。【氷炎】を消滅させたときに使用した魔法。


 剣の周りを魔力の膜封じ込め、そこに膨大な氷魔法を注ぎ込む。


 そうして、限界まで溜まった魔力を爆発させる技。




 既に溜まった魔力の一部を、薄い幕のようにして、放ち、その中に、溜まり切った魔力を瞬時に注入する。




「素晴らしい……!! 街ひとつ吹き飛んでもおかしくない魔力量…… これほどの逸材が、勝負を仕掛けてきたなんて」




【氷圧】ほどの、密度の濃い魔法には、さすがのミランダも余裕に立ち向かえているわけではなかった。魔法が当たるか、跳ね返すの瀬戸際。




 拮抗状態の末、ミランダは笑い出す。




「いいか。十分楽しめたよ。本当なら、使いたくなかったけど、これを使うしかなさそうだ」




「【反射】!!」




【氷圧】が、跳ね返ってくる。




「【反射】は使えないんじゃ?」




「先ほど使ったのが魔法無効化であっただけで、【反射】が使えないとは、一言もいっていない」




「卑怯な……!!」




「それが戦い方というものだ。それにしても、この私に【反射】まで使わせてくれる強者は君が初めてだ」




 跳ね返ってくる、氷魔法。




 それが、ヴィリスの体に直撃し。




 一瞬にして、ヴィリスは氷漬けにされてしまった。




「ヴィリス!!」




「残念だったね。でも、彼は氷魔法師なのだろう? すぐには死なないだろう?」




 悔しさから、フライスは強く唇を噛み締める。




「ミランダ!!」




「怒ったって仕方ない。さて、君たちの希望は消えた。あとは大人しく……」




「そんなことをしているのは、時間・労力の無駄であり、効率も何も最適化されていませんね」




「おい、誰だ? 四人目だなんてきいていないが」




「【炎】」




 ミランダの後方から、誰かの炎魔法が放たれ。


 それは、氷漬けになったヴィリスに直撃する。




「誰だ、貴様」




「私ですか」




 そういってこちらへ近寄る女性。


 凛として、澄ました表情を浮かべ。




 赤色の短髪が、似合う人物。




「七選魔法師、【炎舞】のリーナ、参りました」

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