第17話 挑め、【漆黒】の剣士ミランダへと

どんな敵も剣で一閃するという剣士、【漆黒】。

 それに挑むべく、ヴィリスたちは剣の調達へと向かっていた。


 店主、ユーリは【漆黒】と、ヴィリスが挑んだ剣、【氷炎】について語り出す。


「【氷炎】は、どんな形状だったか覚えておるか?」


「いたって普通の剣でした」


「きっとそれはただの剣じゃ」


「どういうことですか」


 ヴィリスが問う。


「【氷炎】であることは間違いないのじゃが、剣自体が実体ではないのじゃ。【氷炎】は、たとえるなら亡霊みたいなもの」


「亡霊、ですか」


「当たり前じゃが、氷魔法と炎魔法が衝突したら、必ず消滅するものじゃろう。【氷炎】は、突然変異で世界に生み落とされた異物なんじゃ。共存で切るはずのものが同時に存在している。"ありえない"が、"ありてしまった"ものなんじゃ」


 フライスは少し混乱していた。あるはずのないものが存在し、ありえない状況がありえている。言葉だけきいても、イメージしようにも、いまいち腑に落ちない。


「これは理解できないはずなんじゃ。逆に理解しなくていい。そういうものなのじゃ。そして、追加情報がある」


 そういって、ユーリは両腕を前に広げ、両手を開く。


「【氷炎】はもともと独立する炎魔法と氷魔法。それが一つに合わさって」


 広げた手と手を、勢いよくぶつける。


「何かしらの衝撃があって融合されたわけじゃ。そして」


 合わせた手を、また先ほどの状態に戻す。


「同じ大きさになろうとしたそれらは、無理矢理分裂した。【氷炎】は二つあるわけじゃ」


「僕が見たのは、【漆黒】が持っていなかった、もう一つの【氷炎】」


「そうじゃ。【氷炎】は、その名の通り、氷と炎に関するものに影響されやすい。【漆黒】の剣に付与されたのは謎じゃが、おぬしが見た方は納得がいく」


「とあれば、【漆黒】には炎か氷に何か接点があると見て良いかもしれないですかね」


「その可能性は十分にある。さあ、長い話はここまでにしておこう。青年たち。健闘を祈る」


 そういってヴィリスたちを退出させようとするが。


「ユーリた〜ん。もう遅いから泊めて〜。野宿なんてしたら私、ナニされるかわからないし。お兄さんたちが襲ってきたりでもしたら……」


「三人を止めるほどの寝具も何も用意していない」


「寝具なら寝袋を常備しているので、そこは大丈夫です」


「仕方ないのう。本当にそういうところは変わっていないのじゃな、アイロスどの」


「ウフッ。覚えてるものなのね」


「当たり前じゃ」





 朝を迎える。簡単な食事をいただいた三人は、出かけることにした。


「じゃあ、いってきます。お世話になりました、ユーリさん」


「そんなかしこまらなくていいのじゃよ。またきてくれ」


 ***


 道を歩く人に、片っ端から声をかけていった。

 スレンダーでセクシーなアイロスはひときわ目立っていて、独特の口調から周りの目がよくなかったが、どうにか場所を割り当てられたらしい。


 王城にある闘技場で、彼は剣を振るい続けているということらしかった。毎日挑戦者を集い、戦い続ける。


 そう、自分が勝てない敵を見つけるため。


 朝早く出かけたはずなのに、王城についた頃には、もう昼となっていた。

 王城の門番には、「【漆黒】の剣士に挑みにきました」といっただけで、三人はどうにか入ることができた。


 王城が正面にあり、その横に、闘技場が設けられていた。王城が相当な大きさであるため、闘技場が小さく見えた。


 しばらく歩くと、闘技場が見えた。

 王城の大きさのために相対的に小さく見えていたはずが、相当な大きさを誇っている。


 円形になっていて、外壁が等間隔で大きな円の穴が開けられている。


「失礼します」


 長く、日が入らない通路を抜けると。

 より、闘技場の広さを痛感する。


 そして、三人は凄惨な光景を目にした。

 地面に横たわる、数十の剣士。血を流している。


 倒れた剣士とは対称的に、ひとり退屈そうに、闘技場の中央に立ち尽くすひとりの青年。


「よくきたな」


 左手に持った剣を、彼は三人に向けて突き出した。


「君が、【漆黒】ですか?」


「そうだ。この私こそ、【漆黒】たる剣士。貴様ら、まずはこちらまで寄ってきてはどうだ? この距離ではなすのも苦しいものがある」


 剣で、【漆黒】はヴィリスたちを手繰り寄せる。

 十分距離をつめた後、【漆黒】は口を開いた。


「先に名乗っておこう。我が名はミランダ。貴様らを刹那のうちに切り倒してみせよう」


「僕は、ヴィリス。氷魔法師。そして、光魔法師のフライス。あと、エルフのアイロス」


「ほう、だからそれほどの貧相な剣というわけか。剣士でもない、魔法師がかかってくるなど、舐められたものだ。後悔しても遅いが、それでもこのミランダに挑むか?」


 左手に持った剣をチラつかせる。凍てつく氷と、燃え盛る炎の色合いが、絶妙に混じり合った、煌びやかな剣だった。


「挑みます、そう。英雄ブライの名にかけて」


「懐かしいな、その男の名は。さあ、魔法師。ミランダ様のこの剣の前に立って戦いに挑むなど、無意味だと思い知るといい!!」


 呼吸を整え、目を閉じ、準備を整え。


「いざ!!」


 ミランダは、勝負を開始した。

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