遅咲きの最強氷魔法師〜『無能』だとパーティーを追放された英雄の息子の俺、発動時間が一日の最弱氷魔法がついに覚醒!! ハーレムを築いて無双するほうが幸せなので、今更帰ってこいだなんて『もう遅い』〜
第15話 アイロスと英雄の関係。そして、「俺たちの冒険はこれからだ!!!」
第15話 アイロスと英雄の関係。そして、「俺たちの冒険はこれからだ!!!」
ヴィリスが倒したエルフ、アイロス。
勝利の交換条件として、彼女から話がきけることになっていた。
ヴィリスの父、英雄ブライ。
アイロスという名は、ブライから貰ったものであると以前ヴィリスたちに語っていた。
「ここ」
そういって指をさしたのは、二階建ての家。
あたりは集落のようになっている。一軒家というのが少なく、ひとつひとつが大きい。
「エルフの多くは大人数で家を共有しているの。お姉さんは特別だけどね」
「そうなんですね」
「先に入っていいからね」
扉を開けると、そこは質素な部屋であった。白とベージュのものがほとんどである。最低限のものしか置いていないように、ヴィリスには見えた。
それでも、壁には家族の絵が飾られている。
「昔、描いてもらったの」
ヴィリスが部屋を物色していた際、絵をまじまじと見ていたので、アイロスは声をかけた。
「いい絵ですね」
実に写実的な絵だった。アイロスの幼い頃のようだが、その麗しさは昔も変わらないようだった。
絵には、アイロスの他に、父と母らしき人物も映っていた。
母はエルフらしいが、父はエルフではない何かだった。
「この、男性は? エルフですか」
「違うわ。エルフは女性しかいないの。子孫を残すには、他の種族のオスと結ばれないといけないの」
「そうなんですね」
「まあ、この話はおしまい。じゃあ、座って」
横長の机を見つける。椅子は四人分あった。
「私と、ブライさんの関係をしっかりはなしていくわ。他のエルフには、もちろん口外禁止ね」
「はい」
「わかりました」
「さっそく結論からいうと…… ブライさんは、何もできない私たちに【魅惑魔法】を教えてくださったんです」
「父が?」
「やっぱり…… あなた、【七選魔法師】、氷魔法師ヴィリスだったのね」
「あ」
「いいの。氷魔法でヴィリスって時点で、私も察せないほど馬鹿な女じゃないから。だからこんな私のカラダが昂っておかしくなりそうだったのね。納得したわ」
「昂ってもらえたようで何よりです」
「本当にブライさんは変な人でしたよ。十年前には堅物のような存在だったのに、数年、いや五年くらいでいつの間にか柔らかくなって」
ヴィリスも、それは感じつつあったことだった。あるときを境に、父の態度が急激に軟化したこと。理解できない行動や言動が増えたこと。
「彼、こういったの。『エルフといったらエロス。だから、【魅惑魔法】っていうのは面白そうじゃないか? 長身のエルフ』って。まだ名付けてもらっていなかったときのこと」
「それまで、エルフは魔法が使えなかったはずですよね?」
「そうよ。驚いたでしょう? 極端にいえば、ブライの思いつきでエロスが力になる魔法を調教されたってことね。もともと血気盛んで精力的だったエルフたちも、【魅惑魔法】の特徴から、極度の変態に特化する風になったわけ」
「私、ブライさんに対する尊敬の念が……」
英雄としてのブライのイメージが、ヴィリスはもちろん、フライスまで崩壊していた。
期待値が高かったために、フライスのショックは人並外れたものだった。
「でも、本当に感謝してるわ。神様の悪戯で作られた魔法みたいなものかもしれないけど。エルフの可能性が開けたというか。何もできずに子種だけを残す種族じゃないんだって」
そういって、アイロスはつい顔を上に向けてしまう。
「生きる意味を、私たちに与えたくれた。彼にとっては些細なものだったかもしれないけど。本当に、【魅惑魔法】を教え込んでくれたブライさんは、ずっとエルフたちの英雄だと思う。あーー、もう。お姉さん泣いちゃいそうだよ」
すでに泣いていた。ブライのしてくれたことの重みが、アイロスに染み渡っていた。
「父さん、いいことをしてくれたんですね」
「ヴィリス君、そしてフライスさん。さきほどの戦いで、あなたたちの強さがすごく伝わってきた。もし’私が全裸になって、さらに性欲を高めていたら、勝てたかもしれないけど。あの局面では完敗だった。強いのね、ふたりとも」
「「ありがとうございます」」
「そうやって、仲も良さそうだし」
ヴィリスとフライスは見つめ合う。すぐに恥ずかしくなって、顔を背けたものの。
「ブライさんとはまた違った、英雄になる可能性を、私は見たわ。今、すっごく痺れてる。ドロドロになっちゃいそうなくらい」
涙を拭き取り、一呼吸置いてから、アイロスは。
「私、あなたたちについていきたいわ。もっと激しい勝負に、身を置いてみたい」
「そうしたら、エルフの森は?」
「任せられるように万全の準備はしておいたの。いつ私がいなくなってもいいようにって。そういえば、ふたりとも、もうパーティーにはいないんでしょう?」
「どうしてそれが?」
「ふつうなら、ふたりで誰も連れずにくるなんておかしな話だもの。近くに大きな魔法が放たれているわけでもなさそうだしね」
「ということで、ついていくけどいいかしら?」
「いいですよ」
そういうと、アイロスは勢いよく両腕を前後に振った。つられて、豊満な胸部も激しく揺れる。
「ごめんなさいね。つい興奮しちゃって」
「気にしてませんから、大丈夫です」
「いつか冒険したいって、お姉さんね、道具はもう詰めてあるからいいんだけれど」
「準備万端じゃないですか……」
「次、どこへいくかは決まっている?」
ヴィリスは、これまでの行動を振り返る。
聖樹のことからはじまり、氷魔法師の国からエルフの国まで、すべて流されるように事が進んでいった。
「それが、行き当たりばったりだったので… … でも、もっと、もっと英雄ブライーーーそう、父のことが知りたいです」
「それだったら、ひとつだけ有力候補があるわ。ひとりだとダメだから躊躇していたところ」
「どこですか?」
「孤高の剣士、【漆黒】っていう、"幻の選抜勇者"って呼ばれている剣士がいる国。グリード」
幻の選抜勇者。その響きが、謎に満ちたものが、ヴィリスの心を揺さぶった。
「グリード、いきましょう!!」
こうして、ヴィリスのパーティーに、新たな仲間が加わり。
新たな冒険の幕開け。
「こういうとき、ブライさんは決め文句があるっていってたわ」
「それって何ですか?」
「『俺たちの冒険はこれからだ』。みんなでいいましょう、この家を出てから」
荷物をまとめ、家から出る。広大な森の一角。斜め前の空と自然を眺め、叫ぶ。
「「「俺たちの冒険は、これからだ!!」」」
吹き抜ける風が、そっと彼らの背中を押しているようだった。
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