第14話 【魅惑魔法】を攻略せよ

「さあ、私の内なる欲求を解き放ってあげるから」


 彼女から放たれる、ピンク色のオーラ。それは、他のエルフと比較にならないほどの濃い色合いで、凄まじい量を放出している。


「フライス、作戦がある」


 ヴィリスは小声ではなしかける。


「作戦って?」


「アイロスの性欲は凄まじいですよね。でも、魔力と同じようなはずだから、そのうち止まると思っています。きっと、持久戦になるでしょう」


「どちらが先に尽きるか、ね」


「ひたすら魔法を放つしかないわけです」


「そんなの作戦でも何でもないじゃない…… でも、それしかなさそうね。欲求がそのまま力になるとするなら。そして、もうひとつ」


 これからの攻撃の流れを丁寧に説明していく。


「了解!」


「ヴィリスくーん。エルフのお姉さん、退屈なんだけど? もっと楽しませてよ? まさかこんなところで終わっちゃうの?」


「いや、まだ戦います。戦わないといけないんです」


「いいじゃない。正々堂々私に攻撃を仕掛けてくることね」


「【光連射ライトバースト】!!」


「【氷柱アイシクル】」


「何? また同じような技? そんなんじゃ満足できないっていったじゃない? もっと激しいのじゃないと満たされないわ」


 同じような技。それが完全に同じ技を指すわけではない。


 今回、連続技を放っているのはフライスのほうであり、単発技を仕掛けたのはヴィリスのほうだった。


「ふーん。どっちが連射しようと、私には関係ないけどね」


「僕らには関係あるんですよ」


 光の矢が駆ける、アイロスのところまで走る。


「何?  あなた馬鹿なの?  自爆でもするつもり? 調教のしようがありそうね」


「いや、これでいいんです」


 ヴィリスの、魔法を放つフォーム。

 走りながら、左手を地面に目指して開く。


「【氷のアイシクルソード】、生成!!」


 はじめて使う魔法。うまくいくか不安なヴィリスだが、どうにかなったことを安堵する。


 できあがったのは不出来な剣である。歪な形をしていて、到底人を切れそうな代物ではない。


「自慢の魔法を使わずに、付け焼き刃の魔法で太刀打ちしようなんて。甘いわね」


 距離を詰め、ヴィリスは地面を蹴って飛び上がる。右手に持ち替えた氷の剣で、アイロスを狙う。


 体のうねりを使い、上空へと大きく飛び上がったヴィリスは、最高点を通り過ぎるとともに加速して落下する。


「でも、それは魔法でしょう? そして、ここへと飛んでくる魔法も!! 私の強力な欲求で、ドロドロに掻き消してあ・げ・る・か・ら」


 アイロスは右手を差し出す。魔法を"性(聖)なる"魔法で打ち消すそうとする力。


 もちろん、脆い氷の剣も、フライスが撃ち込んだ【光のライトバースト】も。アイロスによって消滅させられてしまう。


 強烈な一発だった、ヴィリスの氷魔法【氷柱アイシクル】も、ギリギリのところで消滅してしまう。


「これで魔法はすべて消えたわね。ざーんね……」


「いいや、まだよ、アイロス」


「何がまだなのかしら?」


 ふと、アイロスは思い出す。ヴィリスが【氷のアイシクルソード】によって、飛び込んで斬ろうとしたこと。剣は消えてしまったものの、未だヴィリスは。


 上空から、落ちてくる。

 手より先に、足が。


「ヴィリスは、魔法がダメだってわかった上で派手に攻撃を仕掛けたの。魔法以外が防げないと踏んで」


 抵抗する間もなく、ヴィリスの強烈な足技がふっかかる。

 アイロスの首元に、衝撃が走る。


「うぐっっ!!」


 鈍い音が、響く。

 不安定になりながらもヴィリスは着地に成功した。一方のアイロスは、蹴られた反動で後方に倒れる。


「これで、終わりですよ」


 立ち上がることもできず、【魅惑魔法】を放つ余力も残っていなかった。


「【凍結】!!」


「……も、もう…… 私の、負け。こんなに激しい戦い、はじめて……」


「勝ったね、ヴィリス」


「やりましたね」


 ***


 いそいで取り巻きのエルフを解凍する。フライスの光魔法によって氷を溶かす。

 その後、傷ついたアイロスの治療に回る。


「お姉さん、一本取られちゃった。ヴィリス、私はあなたを認めます」


「ありがとうございます」


 そういって、ヴィリスとフライスはアイロスに近寄り、握手をしようとする。

 顔へと視線を走らせる際、ヴィリスは異変に気づいた。


「あれ、あの豊満な胸部が……」


 目を見張るような胸部が、いつの間にか控えめになったことに、ヴィリスは気づく。


「それ? 私の"聖なる力"を使う際に、すべての力を使いきるために私のソコから魔力を放出したから。欲求が満たされれば、また大きくなるから」


「なるほど。拡大縮小が自由自在と」


「そうだけど…… もっと激しい刺激が欲しいから」


 そういってヴィリスの下腹部に視線を走らせる。


「お姉さんたちと、イイことしない?」


「今、たちっていいました?」


「みんなもせっかくの部位が控えめになってしまったから、全員の欲求を満たしてもらって」


「ヴィリス、わかってるよね??」


「ちょっとそれは」


「なら話、きかせてあげないよ」


「それなら、決心します」


「じゃあ、ヴィリスくんとフライス、そして私の三人ではじめましょう、密室で!!」


 大胆です! などという声も聞こえていたが、実際は。


「そんなことせずしっかり話してあげるから。私の自室まで連れていくから、ついてきて」


 そういって、彼女にふたりは案内された。

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