第13話 セクシーパワー! エルフの聖なる【魅惑魔法】

「ヴィリス、フライス。私、こう見えて強いんだから。あなたたちの全力、ぶ・つ・け・て?」


「アイロスさん。僕らも全力で勝ちにいきますよ」


 氷魔法師、ヴィリスの父ーーー英雄ブライに名をつけられたエルフ、アイロス。ヴィリスやフライスを軽く凌駕するすらっとした背と豊満な体つきの女性。


 彼女が、きっとブライに関する重要な情報を持っているはず。

 話をきくための条件として差し出したのは、魔法勝負であった。


「ルールを言っておくわね。相手を先に戦闘不能にさせた方が負け。簡単でしょ? そちらはふたりだから、どちらかが倒れたら負けでいいかしら?」


「もちろんです」


「みんな、下がって私の援護にまわって」


 取り巻きのエルフたちが一気に引き下がる。戦闘には十分すぎる空間が出来上がる。


 ヴィリスは、アイロスの言葉に引っかかる。『私の援護』という言葉の意味。一対二の勝負でありながら、どうしてそんな言葉を……? 


 そう、彼を悩ませた。


「さあ、かかってきなさい? 私がぜーんぶ、この体で受け止めたあげるから」


 意味深な煽り文句を吐く。


「フライス!!」 「ヴィリス!!」


 互いに名前を言い合い、距離の離れたアイロスへと魔法を放つ準備をする。


「【氷柱連撃アイシクルアタック】!!」


 ヴィリスの前に、薄く透明な氷の壁が浮かび上がる。

 そこから生み出される、鋭利な氷柱が絶え間なく打ち込まれる。


「【光の矢ライトアロー】!!」


 フライス本来の光魔法は、こういった攻撃系のものであって、回復魔法ではない。


 手慣れた様子で、放物線場に黄色がかった矢を何本も飛ばす。ふたりの攻撃が、一気に彼女に迫りくる。


 それが飛んでくるのを確認した瞬間。


「エルフのみんな!! ムフフなシーンを思い浮かべて!! イメージを私に送って!!」


「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」


 百数、いやもっといるエルフたちが突然目を塞ぎ出し、いかがわしい声を上げ始める。


「どういうことだ?」


 ヴィリスは氷柱を放ちつつ、取り巻きのエルフたちを見る。

 すると、頭上に浮かび上がっているものが見えた。


 ピンクがかった、ぼんやりとしたものが、空気に乗ってアイロスの方へと向かっていく。ひとりひとりから放出され続けるそれが、一局に集中する。


「封じ込め!!」


 既に目前まで迫った、氷魔法と光魔法。

 アイロスがそういうと、取り巻きから放出される"ピンク色の何か"は、彼女の右手へと吸い込まれていく。


 十分吸い取った後、彼女はヴィリスとフライスの魔法に、右手を当てた。


 魔法が衝突する、刹那。


 ありえない光景が浮かぶ。


 右手の周囲を寄せ付けないというかのように、魔法が"拒絶される"。何か膜でもあるかのように、勢いのあったはずの魔法が封じ込められてしまう。


「みんな、もっと妄想して!!」


 威勢のいい返事ののち、さらに強く放出される"ピンク色の何か"。

 魔法を跳ね返す勢いが、それによって増していく。


「魔法が、完全に消滅した? そんなはずは」


「フライスお姉さん? 私たちエルフの魔法を知らなかったみたいね」


「それは、一体……」


「あなたたちが知っている魔法の分類は実に六種類。炎・氷・風・土・光・闇。じゃあ、それ以外はいっさい存在しない? そんなわけないでしょう?

 あの分け方は、ブライさんの分け方」


「じゃあ、何属性だっていうんですか」


「無属性。ブライさんが分類する前にいなくなってしまったから。そこで私たちはこう呼んでる。【聖魔法】と。"性なる"魔力の流れを利用した"聖なる"魔法。周囲に溢れるエロスの力が、私たちを強くしてくれるってわけ。通称、【魅惑魔法】」


「それなら、簡単じゃないですか!!」


「何のつもり?」


「凍てつけ、【凍結フリーズ】!!」


 いつも通り、左手から魔法を展開する。

 取り巻きのエルフたちへと照準を調整し、そこで氷魔法が炸裂するように放つ。


「くっ!!」


 取り巻きから放たれるピンク色のオーラを、それぞれを凍結させ、遮断させる。


「どうですか、多くのエルフの"性なる"力がなければ、アイロス、あなたの魔法は強くないはずでしょう」


「ヴィリス君、面白い子ね。アイロスさん、クラクラしてきちゃった、あなたの浅はかな思考にね」


「これの、どこが浅はかだと?」


「"性なる力"は、それは多くのエルフが集まったほうが強烈に決まっている。でも、私を誰だと思っているの?」


「誰だっていわれても……」


「このエルフの森のトップ。エルフの強さの条件って知ってる? 強烈なエロスがあるか。もともと精力に溢れたエルフの中の最上位であるのが、この私。人並外れた妄想力と渇望する欲求!! あなたたちは、私ひとりの強烈なエロさに勝てるとは思えないわ。大人しく下僕になって辱められるヴィリス君が見たいな、お姉さん」


「あなたのエロさ…… この氷魔法で、完全に凍らせてみせます」


「下心に負けてる場合じゃないので、私たち」


「そうよね。ちょうどいい、他のエルフは氷漬けになっていることだし」


「なんですか」


「ふたりとも、【七選魔法師】でしょ? 私、こう見えても何人もの魔法師を殺しているからね? 怖いでしょう? エルフのセクシーなお姉さんだからって、気を抜いたら死ぬから」


「わかっていますよ」


 魔法の力を消す、エロスの力。

 持久戦になることは想定としてあった。


 そうなれば、戦いが泥沼化する。

 ヴィリスは、魔力は膨大に所有しているものの、それを放出する体力がない。


「さっさと倒して、父の話、じっくり聞かせてくださいよ」


「耳元で、ねっとり囁いてあげるから。ーーーもし勝てたならね」

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