第12話 魅惑のエルフ、秘密の特殊接待

エルフの森、それは男性の欲求を解き放つ、数少ない場所である。そこに訪れたということが、何を意味するのかといえば。


「さあお兄さん? どんな接待をお望みで?」


「僕はそういった目的できたわけではなくて」


「もしかして、さっきあなたをビンタした子と私の三人で? それともあの子が接待されたいの?」


 ヴィリスより長身のエルフ。体を前屈みにしてヴィリスを覗き込むため、圧迫感が凄まじかった。


 胸部が激しく揺れ、目に毒であるとヴィリスは思った。それと同時に、魅惑的な体を視界から外すことができそうになかった。


「あの…… その……」


「すみません、私も彼も、そういったやましいことの目的できたわけではないですから!!!!」


「ちょ、ちょっとお姉さん? いけませんって。あなたも私たちの接待、受けてみたら? 新しい世界への扉、開くかもよ?」


「一切興味ありませんから!! ヴィリス、今日は何のためにきたの?」


「魅惑的なお姉さんたちと、素敵なこと…… いいや、父さんの件だ」


「もう屠った方がいいのかな?」


「僕はそんな欲求ありません、断じてありません」


「説得力なさ過ぎ… … エルフのお姉さん、少しふたりだけにさせてくれませんかね?」


「ふたりきりで何か始める気ですか? 私も加勢しましょうか?」


「だから、そういうのじゃないので」



 ***



 どうにかエルフがいない場所へと動き、フライスはヴィリスへ語りかける。


「えっちいお姉さんにムフフなことをされにきたんじゃない、といったのヴィリスでしょ?」


「そのつもりでしたが、体が抗えませんでした」


「で、目的をヴィリスの口からいってみてよ。これはあなたの案件でしょ?」


 高ぶった気分を、ヴィリスは呼吸で抑える。大きく息を吐き出し、口を開く。


「昔、英雄ーーーブライがこのエルフの森を訪れたときに残したものです。『エルフの森に土産を残したんだ。いつかヴィリスも大人になったら見にいくといい』って」


「一体それは何なの?」


「数年前に一度その話を聞いたとき、あたかもそれが自分の体験ではないと言った顔をして。片鱗すら覚えていないような。だから、もう知るよしがなかった。もう死んでしまったし」


「少なくとも、残していったものが何か分からないのね」


「わざわざ僕にいうくらいですから、きっと大きな意味を持って要るはずなんですが」


「よし、これでいいでしょ。これから私たちはお姉さんたちにイイことをされにいくわけじゃないってわかっただけ」


「そうですね。それじゃあ、戻って捜索です」


 たくさんのエルフで乱れるところまで戻る。


「おに〜さぁ〜ん」


「うっ」


 そのエルフは、倒れ込むようにしてヴィリスの腕に胸を当てつける。


「やめてくださいよ」


「えー、これじゃまだ物足りないの? 生で当てられないと満足しない?」


「そ、そういうことじゃ」


「私は君のこと、全部受け入れるよ……」


「そこまでいうなら……」


 下から見上げるエルフを覗き込むヴィリス。

 その横から、ヴィリスの肩を叩く手。


「ヴィーーリーースーー?? 楽しそうだね」


 フライスの満面の笑みの後に待ち構えていたのは、股間を狙った強烈なキックだった。


「僕は、僕は悪くないんです。不可抗力です」


「取り乱しました。あなた、このエルフの中のトップで誰だか知ってる? わかるのなら連れてきて話をききたいんだけど」


「それはですね…… 私です」


「あなた、ですか」


「私ですよ、この森で一番偉いのは」


「本当にあなたですか」


「セクシーさと体格と性格と魅惑のどれを取っても一番の私ですよ」


 わずかな沈黙の後、ヴィリスとフライスは盛大に驚きの声を上げた。



「先ほどの粗相を、どうか許してください…… ヴィリスの行動が、どうしても許せなかったもので」


 一度しっかりと話がしたいという例のエルフの起点で、すべてのエルフを集め、正式に挨拶をすることなったふたり。


 どうしてもヴィリスも目移りしてしまうものだったが、今度こそフライスに殺されると怯えながらであったから、いくらかは欲求は抑えつけられていた。


「いいんですよ、私たちのような魅惑に溢れた女性に惚れるのは仕方のないことです。それもこの一番可憐で優美で秀麗な私に誘われたのですから」


 やけに自信に溢れた、一番を名乗るエルフ。


「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。もう一度になりますが、僕がヴィリス、そして一緒に冒険しているフライスです」


「私の名前ね。"聖なる雪"、アイロス。本当の名前は捨てたから」


「誰かに名付けてもらったんですね」


「その通り。かの英雄、今は亡きブライさん。素晴らしい方だったのをよく覚えています。ヴィリス、あなたはブライのことできたのでしょう?」


 アイロスにはわかっていた。

 欲求を満たす接待を伴わない目的でこの森に訪れるのは、ブライ関連の人物だけだと。


 そして。


「勝負しましょう、ヴィリス、そしてフライス。あなたたちの目的がそれなら、実力というのを見てから話すかを判断したいの」


「いいですよ」


「私も」


「それじゃあ。可憐で優美で秀麗な。"聖なる雪"。舞いましょう!!」

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