第11話 氷魔法師との別れとエルフの誘惑

氷炎を消滅させてから、三日が経った。ヴィリスもフライスも、氷魔法師の国での生活に慣れつつある頃合いである。


邪悪な魔力を秘めた剣、【氷炎ひょうえん】がなくなったことになくなったことにより、強烈な寒さが和らいだた。そのため、フライスも問題なく生活できるようになっていた。


「いよいよ、今日が出発ね。この苦痛な寒さともお別れよ!」


「僕は氷魔法師なので、さほど寒いとは感じなかったですが」


「私の身にもなってみてよ! 人の立場にも立ってくれないヴィリス君、ひどい」


「それはさぞかし寒かったでしょうね」


感情を込めずに、ヴィリスが口にする。


「棒読みされると逆に腹立たしいからやめて。今から朝食を取りにいくんでしょ?」


地下に食料などあるはずもなく地上に取りにいかないといけない。

『契約を結んで、指定の時間に食料を届けてもらうようにしている』とグラスはふたりに語った。

食料を運ぶ手伝いをしたときには、その往復の多さに足腰がきつかったと、ふたりは強く記憶している。


「いきますか」


氷によって即席で作られたテーブル。その上での食事を終えると。


「ヴィリス君、今日でお別れ、だよね」


「そうです、セルカさん、そしてみなさん」



「悲しいです! ずっとここにいてほしいです!!」


「お師匠様!! 遠く離れていてもずっと慕い続けます」


「私たちのこと、今年中だけでも覚えていてください!!」



「みなさん、ありがとうございます。褒められたものではないですが」


「いいや、ヴィリス。私も氷炎のことだけは認めてもいいと思った。認めたくないけど」


グラスはどこまでも歪んでいた。ツンデレのデレがないようなただただ冷たい女性だった。


「これから、エルフの国にいくんだったかな?」


「そうです。美少……いいえ、気になることがあって」


フライスの視線が、ヴィリスにとっては痛かった。彼は、フライスがじっと睨みつけて舐め回す視線に耐えるので精一杯だった。


「さあ! いくよ、ヴィリス。新しい場所へ」


「そうだね。それじゃあ、みんな。またいつか」


そういうと、氷魔法師たちが盛大に花道まで作って送り出した。

花道の最後には、国王のリーナと、中でも親交の深かったグラスが待ち構えていた。


「次に君に会えるのを、待ち望んでいるよ。ふたりとも、良いこれからを祈っている」


「もっと強くなって、心の底から強いと思える氷魔法師になったら来てもいいんじゃない? 氷炎を消滅させたくらいで、私はまだ認めきれてないから」


「リーナさん、僕らもこの国の安泰を願っています。そして、グラスさん。次は文句なしの最強になったら顔を見せますから」


「私はこの国で何もやってないけど…… ヴィリスと一緒に、さらに強くなって帰ってくるから」


ひらけた空間を抜け、洞窟の細い道に 入っていくまで。氷魔法師たちは、ずっと手を振り続けた。




それから、ふたりは馬車に揺られ、エルフの森も目指す。

森の名は、【アイエル】という、とリーナから説明を受けていた。

馬車から見える風景を楽しむ間もなく、地上の、懐かしく暖かい空気にやられ、眠りに落ちてしまった。

フライスは、寒さのために眠りが浅かったのだ。



馬車の操縦者に起こされ、ふたりはようやく外へと足を踏み入れる。


「今回もご利用、ありがとうございました。またのご利用、お待ちしています」


村長ーー聖樹に執着のある奇人ーーのつてで使わせてもらっている馬車である。


「次使うときは、どうすれば」


ヴィリスが尋ねる。


「バ・ババのババ・バ馬車といえば、多くの方がわかってもらえると思いますから」


「すごい名前ですね……」


「では、エルフの森を楽しんでくださいね」


馬にまたがると、バ・ババはいなくなった。


「さて!! エルフ!! 美少女!! 崇めるべき対象!!」


突然、ヴィリスが声を張り上げていう。


「あのさ、下心満載じゃない、かな〜。もうこれからヴィリスが傷ついても見殺しにしてもいい?」


「違う、父さんの昔の口癖。よくきいていたものだから、つい口に出したくなってさ」


「英雄のイメージがぶっ壊れるからやめて。あと発言には気をつけて」


「英雄と崇めなければ、ブライだってただのエロ親父ですから」


空気からして、なんだか神々しく、澄んでいるとヴィリスは思った。


「さ、森の中へいこう」


「私は気乗りしないな、なんだか」


【アイエル】は、生い茂った樹々によって鬱蒼としている。

夜ではないというのに、前がうまく見えなかった。


それでも、どうにか先へと進んでいくと。


「これが、エルフ……!!」


薄い布に身を纏い、すらりとした体。

強調される胸部のラインに、ヴィリスも目を奪われざるを得なかった。


それが、ひとりふたりではなく、相当な人数であった。



「あら〜お客さん?? 私たちと楽しいこと、シにきたの?」


ひときわ背が高く、顔立ちも整ったエルフが、ヴィリスに話しかける。


「あ〜そうですね!!」


煩悩のままに動いていたヴィリスの様子に耐えがたくなったフライスは、ヴィリスの両頬を、思いきり往復ビンタした。


「この変態が!! 嘘つき!!」

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