第10話 【英雄パーティー】、ヴィリスの存在を再確認する

 ***


 ちょうど、ヴィリスが【氷炎ひょうえん】を消滅され、氷魔法士たちから絶賛されていた頃。


【英雄パーティー】でのこと。


「おい、こいつら本当に使えねえな? それでも上級魔法師かよ? その意識ってもんはねえのか?」


 ヴィリスとフライスを追放したところで、パーティーの上に立つ、【深淵】のジェーンの態度が変わることはなかった。


 謎の魔法師、【神話】とヴィリス・フライスを外すと、正式な【英雄パーティー】の残りのパーティーメンバーは4人。


 闇魔法の使い手、【深淵】のジェーン。

 炎魔法の使い手、【炎舞】のリーナ、

 風魔法の使い手、【旋風】のルートニ。

 土魔法の使い手、【大地】のラインランド。


 それぞれの能力が何かしらと対立しているため。はっきりいって戦いにくい。相殺する能力同士が発動されると、パーティーに於いては不穏分子だ。


 その面だけを考えるなら、炎魔法と対立する氷魔法や、闇魔法と対立する光魔法の使い手を追放するのは、間違った選択ではなかっただろう。


 ただ、いくら無能扱いしようが。


「ヴィリスはいいにせよ、光魔法のフライスに相当する光魔法師がなかなか見当たらないというのはどういうことだ。今回臨時で雇ったお前も、さほど使えなくて困ってんだよ!!」


 そういって、ジェーンは少女の背中を蹴り付けた。


「いたい……」


「なんだ? 逆らう気かって聞いてんだよ!!」


 腹がたったときに人を蹴るのは、ジェーンの癖だった。


「ジェーン、これ以上の行動は我ら【英雄パーティー】の品位と地位をどん底へと突き落とすので、やめていただけないでしょうか」


「リーナ、お前もか」


「私は集まっているこれまでのデータをもとに的確な指示を入れたまでです」


「炎魔法師のくせに、氷魔法師みたいな性格しやがって」


「何か問題でも?」


「ない。どうでもよくなった」


【深淵】だけ、性格が歪んでいるわけではない。

 残った4人は、それぞれ特異な性格を持っていて、悪い言い方をすれば変人だった。


 それでも、魔法の才能だけは誰も首位を争えるものだった。

 何もないときにす4人べての魔法を放てば、この星が滅びてもおかしくはない。


「個人の力は高いのに、どうしてうまくいかない! この最強の闇魔法を使う俺が!!」


「チームワークが最悪だからだろ? 【英雄パーティー】は個人の力を堅持するところではないだろう? 連携こそすべてだ」


「そういって、ルートニは口だけだろう。それなら言わない他のメンバーとなにひとつ変わらないんじゃないのか?」


「ジェーン、腹立たしいことをいうね、殴ろうか?」


「いいだろう!! 殴ってこい!! だとして……」


 その間に、リーナが入り込む。


「不毛な争いが何も生まないことくらい、わかっているでしょう。少しは与えられた脳を使ってみてはどうですか。ジェーンの脳は類人猿よりも中身がないんですかね」


「わかったよ、今回はここでやめればいいんだろ?」


「理解した上で行動に移さないと意味がないですがね」


 まだジェーンの拳は震えていた。リーナが退いたら、すぐにルートニを殴ってしまいそうな。

 燃えるような目つきでリーナが諭す。


 そこでようやくルートニたちは正気にかえった。


「今日はかき集めた上級魔法師ふたりが入った。でも、やはり違う。何かが足りないんだ、このパーティーには」


「それはあのふたりを追放する前から変わっていないと、リーナは思いますが」


「それはどういうことだ!! リーナ、はっきり言えよ」


「まだわからないんとでもいうんですか。もしかしたら私たちは大きな過ちを犯していたかも知れないんですよ」


「大きな過ち?」


「ヴィリス。彼の能力が覚醒するまで待っていたら、このパーティーの物足りなさは解消されていたかもしれないということ」


「なぜだ?」


「どうやら、地下深くに眠る邪剣、【氷炎】が消滅したらしい」


「あの【氷炎】が、だと?」


「私たちのような【七選魔法師】くらいの魔法師しか太刀打ちできない代物。フライスには相性が悪くて絶対扱えない」


「おい、それがまさかあの『無能』だったはずのヴィリスってことかよ」


「その可能性は十分にある。急いで地下ーーー氷魔法師の国、【ブランシュ】まで向かって事情を確かめにいきましょう」

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