第9話 賞賛されるヴィリスとエルフの森

地下の最深部、これまで氷を溶かし続ける魔力を放ってきた剣、【氷炎ひょうえん】。

 どうにか、ヴィリスの魔力で抑えこめ、消滅を成功させた。


 相当な魔力を使い、おぼつかない足取りで部屋を抜け、フライスの元へと戻っていく。


「終わりましたよ」


「ヴィリス、君が本当に終わらせたんだ、ね」


「そうです、セルカさん。そしてみなさん」


 セルカが軽い足取りで、剣【氷炎ひょうえん】のあった部屋へと向かい、実際の様子を確認しにいった。


「【氷炎ひょうえん】が、ない」


「ヴィリス、あんた本当にやったんだね」


 あたりの強いグラスは、いまだ半信半疑というところだった。


「何度もいいますが、やりきりました」


 ふらりと倒れそうになるところを、フライスがどうにか介抱する。


「無茶しないでよ、ヴィリス。また倒れたら心配するから。今から回復魔法を使うから」


 だいぶ寒さにもなれたようで、普通の受け答えができるようになっていた。

 白い光にヴィリスが包まれ、魔力が注ぎ込まれる。


「ありがとう、フライス」


 そうしていると、おどおどとした様子で、氷魔法師たちが近寄ってきた。


「あの【氷炎ひょうえん】から私たちを解放させるだけの魔力、尊敬します……!!」


「私も、ヴィリスさんみたいな氷魔法師になりたいです。こんな偉業を成し遂げられるなんて。格好良くて痺れます」


「同性ですけど、惚れちゃいました。まさか【氷炎ひょうえん】を封じ込めた上に消滅させるなんて、信じられないです!!」


 ヴィリスに対して、尊敬や絶賛の声が次々と上がっていく。

 誰もが目を輝かせて、彼のことについて熱く語っていた。


 途中からヴィリスも申し訳なくなってきて、やめてくださいよ、といったものの、静止しても彼らの感動は止むことがなかった。


「僕に氷魔法を教えてください!!」


「私もヴィリスさんみたいに強くなりたいです!!」


「もう一目惚れでした。信じられいくらい輝いてます!!」


 好意的に受け取れる感想も多かったものの、強くなったのはこの数日であるから、答えられそうにないものも少なくはなかった。


「ありがとうございます。僕、頑張ってよかったなって思えました」


「ボク、正直君のことは信じられなかったんだ。あの村にお世話になるような魔法師だから、無理だと思って試したんだ。まさか成功するなんて」


「だって、私が信じてるヴィリスですから!!」


「フライス、そうやって持ち上げられると反応に困るから」


「でも、すごいんだよ! この国の人も喜んでるし。素直に受け取っていいんじゃない?」


「わかった。今日くらいは喜んでいっか。さてと」


 そういって、ヴィリスはグラスの方を見つめる。


「私に何の用?」


「もし【氷炎ひょうえん】を倒したら、何でもするって約束をした気が」


「グラスさん、大胆です」という声や、「私もヴィリスさんに好き勝手されたいです」などという声もあがっている。


「約束したけど、なんだかヴィリスが賭けに勝ったっていうのが気に食わない」


「それでも、グラスは条件を飲んだと思いますが」


「…… 仕方ない。いうこと、一つだけきく」


 ヴィリスは、頭の中は三代欲求の食欲・睡眠欲……ではない方に満たされていた。


 忘れていた欲求が、この冒険を始めてから呼び起こされたらしい。



「知り合いの国で、エルフのいる国はありませんかね」


「ヴィリス君、変態!! 信じられない!! 欲求不満なら私が相手するから!!」


「フライス、声を荒げないで。僕だってそういうことだけが目的じゃないから」


「それてそういうことも目的って意味になると思うけど?」


 下手したら見損なわれてもおかしくないはずではあるものの。


「ヴィリスさん、エルフの国ですか? 私たちの国と友好の深いエルフの森がありますから、連絡を入れておきましょうか?」


「それは、いつ行けるんですか?」


「連絡を取るのに3日。移動に氷魔法を使えば、合計5日ほどです」


「ありがとうございます。それではこれからもうしばらく……」


「ホント最低。信じられない…… ヴィリス、邪なこと、エルフの森でやったら、命取るからね????」


「フライス、大丈夫。本当の目的はしっかりあるから」


 邪な欲求のため、というのはあくまで表向きの理由だった。

 本来の目的は、また違うところにある。


「エルフの森には、きっと父さんの爪痕が残っているはずなんだ」


 フライスには、『父さん』が何を指すかがわかっていた。

 英雄のことだ。

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