第8話 完全消滅、【氷炎】


氷魔法師の国、【ブランシュ】。

この国の氷を溶かしてしまう厄介な【氷炎ひょうえん】。


では、【氷炎ひょうえん】というものは、果たして何なのだろうか。


ヴィリスとフライスに対して風当たりの強かったグラスが、氷の部屋を出た後に、ふたりに教えた。


氷炎はモンスターでありながら、その実体が剣であること。そして、常人には触れるだけでも困難な代物であること。


国王セルカと邂逅した部屋の最深部に、【氷炎ひょうえん】は存在するとのことであった。


戦う上では、剣から放たれる強烈な冷気に耐えうる氷魔法師にしか厳しい。いつか挑戦しにきた炎魔法師は、なぜか火がその場ではいっさい使えなかったのだと、グラスは語る。


つまり、選ばれし優秀な氷魔法師しか、先にいけないということ。

一度セルカも剣と対峙したことがあったが、数分もしないうちに剣から放たれる邪悪な魔力に体を侵されそうになり、断念したとだという。


英雄の息子であり、能力が覚醒したヴィリスのためにある依頼のようなものだ。


「私、いったらダメなんだ」


「本当はフライスさんと一緒が良かったです」


「それは私もだよ。本当に残念」


「男女が少しでもいちゃついていると殺気が湧くので離れてもらえますでしょうか」


グラスは嫌悪の表情をみせる。


「すみません……」


「わかってくれればいい。大事が行われようとしているのに、そのような心構えだと心配なんだ。もし成功したら、英雄と称えられること間違いなしだ。やり切るだけやってくるといい」


「ちなみに、グラスさんは」


「できないものはできなくていい。自分の能力にみあったことしかしない主義だ」


期待した反応と同じだったようで、フライスがついおかしくなって笑ってしまう。


「それは置いておくとして。ヴィリス。私はあんたに期待している。実際に依頼に成功した暁には、何でもしてもいいと思っている」


「ヴィリス! いまグラスさんが何でもしてくれるっていったよ!!」


「なんでも、といったて!! やらしいことはダメだ」


「僕はそんなこと望みませんから」


嘘である。ヴィリスも、真っ当な青年であり、いかがわしいことだって考える年頃だ。だが、グラスはお目当ての女性ではなかった。もっと性的で刺激的なものを求めていた。


「ヴィリス! 私たち、応援してるから!!」


***


国王セルカの案内で、最深部へと足を運ぶ、案内の途中。


「そういえば、セルカさんって、男性か女性かわからないんですけど」


前髪が長く、目元が隠れていて、中性的な声と体つきであるから、ヴィリスはいまひとつ性別がピンときていなかった。


「ボクは純粋な女の子だよ。でも、ボクの周りにいる氷魔法師の女の子たちは、あたかも男の人を見る、性的な目で覗いてくるんだよ」


「ごめんなさい、ずっと男の子だと思ってて」


「そんな細かいこと気にしなくていいから」


全然細かいことではないと思いつつも、ヴィリスは、未知の存在【氷炎ひょうえん】に対しての恐怖が増していた。


一度沈黙を作り。


「僕は、どうやって【氷炎ひょうえん】という剣に挑めばいいんですか」


「剣は邪悪な魔力で地面に突き刺さっているんだ。だから、君の強力な魔力でそれを弱らせ、一気に剣を引き抜く。それを消滅させればいいはず」


「わかりました」


最深部から、すでに強烈な冷気が漂う。これまでとは一層違った、体を蝕む寒さだった。


「中は、戦うのには狭いかもしれませんが。尽くしてください、ヴィリスさんの全てを」


セルカは魔法を唱え、扉の封印を解除する。


その先には。


氷炎ひょうえん】の名の通り、水色と赤色が混じり合った剣が、部屋の中央の地面に突き刺さっていた。


「ここに、ありったけの魔力を、ぶつける……!!」


まず。炎龍討伐時に使用した、氷柱つららを連続で撃っていく。

何十、何百と、氷柱を作り上げ、剣にぶつけていこうとする。


だが、剣に辿り着く前に、多くの氷柱は砕けてしまい、剣に損傷を与えられない。


聖樹を倒したときのような巨大な魔法も、狭い空間の中では使うことが困難。


そうなれば、狭い空間で凄まじい威力を誇る魔法を使えばいい、と。

それを使えるだけの体力があるかは別として。


左腕を、剣【氷炎ひょうえん】に差し出し、拳を広げる。


「【氷圧アイスプレッシャー】!!」


剣の周りを魔力の膜封じ込め、そこに膨大な氷魔法を注ぎ込む。

そうして、限界まで溜まった魔力を爆発させる。


剣がその変化に耐えられず、形を保てなくなる可能性にかけていた。

聖樹を倒したときと同じくらい、力を込める。


体は苦しいはずだが、ヴィリスはこの瞬間が楽しいとすら思っていた。


「剣、【氷炎】。爆散せよ!!」


凄まじい圧力かけられたうえに、一気にそれが解き放たれる。

それに【氷炎】が耐えられるものなのだろうか。


魔力の膜の内側だけで爆発がおさまったものの、剣の姿が変わったところを、ヴィリスは見れていなかった。


膜を消滅させ、剣があった場所を覗く。


そこには、はじめから剣がなかったかのような、そして爆発がなかったかのような何の傷もない地面があった。


「やった、のか」


剣に逃げられたかもしれない。その可能性は無視し、今はその事実に喜ぶヴィリスだった。

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