第4話 聖樹倒壊の謝罪代わり。炎龍討伐 

「本当にすみませんでした!! 私たち、ふたりにできることがあったらいってください!! なんでもしますから」




フライスが迫真の演技で、村長に謝罪する。


村長に、木を倒してしまったんのですが、と尋ねにいったところ。ヴィリスが覚醒した氷魔法で倒壊させたのは、聖樹だった。




この田舎町をずっと、何百年という間守り続けてきた、本当に大切な樹だったのだ。




「本音をいうならだね。君たちを今からなたや斧で滅多刺しにしないと気が済まないくらいだね。というのは冗談なんだが」




ふたりとも、殺されるかと一瞬縮こまったが、それはすぐに安堵の表情へと移り変わっていた。




「一瞬、本当に殺されるかと思いました。僕なんか、殺されて当然ですけど」




「ここは私も大人になって、怒りを抑えられそうだよ。さて、ただこの分に罰は君たちに担ってもらう」




「「罰?」」 




「声が合うとは、本当に仲がいいんだね」




「ヴィリス君、合わせてこないでよ。いう間とかってあるでしょ」




「すみません」




「そういうことじゃなくて」




「もういいかな。微笑ましいけど、今はそっちに気を取られている場合じゃないからね。提案を先にいおう。炎龍討伐を頼みたい」




炎龍。


文字通り、炎を吐く竜である。ドラゴンの中でも、よくみかける種類だ。




ほとんどの龍は、人間の手によって管理されている。


そうでないと、暴走して人に被害を与えてしまうからだ。


成長管理までしっかりおこなわれるのが龍というものである。




「数年前に近くの町から逃げ出した龍の子孫が、大きくなって町のほうへ向かっているという話でね。実は、明日くるんだ」




「明日、ですか」




「本来ならば早く頼まないといけないことだったんだけどもね。フライスさんに世話になったわけだから、切り出しにくかったもので」




「私たちに、倒せますかね」




「君たち、服装からして一流の魔法を使う者なんだろう。きっと倒せるはずだよ」






村長の家を出た後。




「フライスさん。炎って、僕と一番相性が悪くないですかね」




「言われてみればね…… でも、さっきくらいの氷魔法が撃てれば


平気じゃない?」




金髪美少女のフライスは、たまに頭の中が花畑になった発言をすることがある。




「そう簡単にいいますけど」




「できる! できる! 大丈夫!」




「精神論で戦えればどんなに良かったでしょうね。というか、僕の個人戦ではないですよね。フライスさんにも頑張ってもらいたいんですが。攻撃用の光魔法、得意ですよね」




「申し訳ないけど、最近回復魔法に力を注ぎ込んでしまっていたから、忘れている気が……」




「極端なんですか」




「極端ですが、何か?」




人差し指を唇に乗せ、可愛らしく首を傾ける。


ヴィリスも、その破壊力に打ち勝てるほどの精神の強さは持ち合わせていなかった。




「もういいです、明日の戦いに備えましょう」








迎えた、炎龍との戦い、当日。ずっと待ち構えていても、来る気配が感じ取れない。風が、生い茂る草を揺らし、擦れる音だけがきこえる。




耳を澄ましていたヴィリスは、ついに気付く。




「きた!!」




上空から、ほぼ垂直に滑空してくる様子が、はっきりとわかった。


突っ込んできてしまえば。この村もろとも危ないかもしれない。




「私が光魔法で目をくらますから、トドメはヴィリスが決めて!!」




「どうして僕なんかが」




「ヴィリスのこと、信じてるから」




大きな期待をかけられたからには、倒すしかないとヴィリスは思った。




大樹を倒したときは、氷の核に巻きつけて飛ばすイメージであった。今回は、龍を倒さないといけないわけだ。




串刺しにして、殺しきる。それには、大量の氷を必要とするだろうが、生きるか死ぬかの瀬戸際である。




ヴィリスは、上空に伸ばした左手の前に、円形の魔法陣を思い描く。他の魔法師がやっていた、魔法の出し方。




絶対にできなかったはずなのに、この瞬間はできた。




「いける……!!」




組んだ魔法陣から、大量の氷柱を展開する。




「できる、できる!!」




そのまま、それらを勢いよく放つ。


それと同時に新たな氷柱を展開していく。




これまでがまるで嘘のように、ヴィリスは氷魔法を使いこなしていた。炎龍の鱗は非常に硬いはずだが、氷柱は鱗を貫通したらしかった。




「私の光魔法なしで、炎龍を倒した、の」




ふらふらと炎龍は草原と落ちていく。


透き通った氷柱には、炎龍の濁った血が煌めいていた。

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