第5話 氷魔法覚醒についての発見

氷魔法師ヴィリスが、相性のよくない炎龍の討伐したこと。


 それは、彼にとって非常に大きな意味を持った。




 これまで目に見えた結果が出ていなかったところで、自分の秘めた力を自覚するという事態。これは、消極的な彼でも好意的に受け止めるほかなかった。




「僕、『無能』じゃなかった……!!」




「よかったね、ヴィリス。ずっと、ずっと、信じてたから」




 つい、フライスはヴィリスを抱きしめてしまう。


 同じような身長のふたりであるから、ヴィリスの顔はフライスの首もとに密着する。




「ちょっと、近いです」




「ついついやっちゃった、ごめんごめん」




 互いを異性だと意識した瞬間、その行為を気軽にしてしまったことを後悔した。




「でも、ちょっと、魔力の使いすぎかもしれません。体が重くて、だるくて」




「今すぐ回復魔法を使うから待ってて!」




 半年もの間回復魔法を使い続ければ、フライス自身が貯められる魔力も増えていく。さらに、同じ魔力でも回復効果が増大していくものだ。




 回復魔法が、白い光を放つ。魔力が、徐々にフライスがヴィリスに流れていく。


 十秒ほど経ったときには。




「もう大丈夫です」




「よかった。回復魔法をかけなかったら、そこで倒れていたかもしれないもんね」




「そうですね」




「偉いよ、ヴィリス」




「照れるのでやめてくださいよ」




 そういうと、フライスは微笑んだ。






「少し気になったんだけど」




「何ですか」




「私、ちょっとヴィリスの魔法に関して疑問があって」




「疑問ですか」




「これまで、ほとんど魔法を使えなかったのに、なぜこのタイミングであれほどの魔法を使えたのかって」




 ヴィリスも、同じことを考えていた。




「そんな力があるなら、もっと早い段階から使えるはずなのにな、って」




「魔法の発動の仕方が下手だったからですかね。突然コツを掴んだのかもしれませんし」




「だとしても。丸一日かかってこじんまりとした魔法を撃つ程度の魔力しか集められないのに、あれほどの上位魔法に必要な魔力を一瞬にして集めるってどういうことだと思う」




「たしかにおかしいですね」




「一応、現在の私の仮説。これまで、魔法を撃つための魔力を貯めるのに必要なのが丸一日だったと思うの。でも、あれだけの時間をかけて『魔法を使うため』の魔力が僅かな量しかたまらない」




「というと」




「裏を返せば、それ以外の魔力が、どこかに逃げたってことよ。そこで一つの可能性が出て来ないかしら。残・り・の・ほ・と・ん・ど・の・魔・力・が・、・ヴ・ィ・リ・ス・の・体・に・取・り・込・ま・れ・た・っ・て・可・能・性・」




 ほとんどの魔力が体に取り込まれた可能性。その言葉をきいたとき、ヴィリスはすぐにある考えに至った。




 丸一日、自分の体に魔力を溜め込み続けた。それがいっさい外に出ないということは。きっと相当な量になっているに違いないということ。




「だから、あれほどの氷魔法を即座に打ち込めたということですね」




「あくまで仮説だから鵜呑みにしてほしくないけど。そうすると、どうして今までそれほどの力を持ち合わせていたにも関わらず、魔力を放出できなかったかよね」




「魔力を外に出す行為が極端に苦手ということですか」




「そうかもね。それにしても不自然だから…… どうもヴィリスの体に魔力を放出するのを制限する"何か"が存在すると見ていいと思うの。それが何らかの形で破壊されて、突然魔力を使えるようになったっていう話」




 筋の通っている話に、ヴィリスは納得しつつあった。




「それにしてもよくスラスラと仮説が出てくるものですね。頭が切れますね」




「いや、ふと思いついただけだから、ふだんはそんなでもないよ。褒められると照れるからやめてよ、ヴィリス」




「僕と同じこといってるじゃないですか。褒められると照れますよね」




「あー、もう!! 人にいわれて嫌なことを人にやってる場合じゃないね」




 和みつつある雰囲気だが、かなり大きな気づきをヴィリスは得ることができたのである。




 もし、最強の人物が、自分の本来の力に気付いたのなら。それはすなわち、本領発揮を意味する。




「そういえば、これからどうしようか」




 聖樹を倒してしまい、炎龍の落下で草原が荒れている。




「村長のところへ、いきましょう」



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