賞金首


 町はずれにある林の中の小さな空き地まで走ると二人は足を止め、そのまま男はティーリスに静かにするようにと手で制すると、じっと町の方の様子を目と耳で伺った。

 月明かりに照らされる男の横顔を見ながら、ティーリスはしばらく黙っていたが、追っ手の有無を彼が確認しおえると、そっと言った。


「ドゥバさん、大丈夫でしょうか?」

「奴なら大丈夫だ、あそこでの喧嘩はしょっちゅうだからな・・」


 マントの男は、淡い光の下の少女とも言えるほどの娘を見つめていった。

 「しかし、何であんな所にいたのかね、レディ・ティーリス」

 言葉は優しく品があり、このような風体の男にはそぐわなかった。


 ティーリスは即答せず、何か躊躇しているようだったが、やがて切り出した。

「あなたを捜してたんです、「アイラルの盗賊」の首領、バルド」


 彼女の答えを聞いた男の目が一瞬鋭さを増し、沈黙と緊張が二人の間に走った・・。やがて、男は口を開いた。


 「しらばくれても無駄だな、さてどうするんだ・・?、わたしを捕まえに来たのか」

男は、アイラルの盗賊の首領バルドは、目の前の賞金稼ぎを超然と見ながら言った。


「あ、ええと、違うんです、確かにボクは賞金稼ぎもしてますけど、あなたを捕まえに来たんじゃないんです」

 ティーリスの意外な答えにバルドが眉をひそませていると、彼女は胴着の下から一巻きの羊皮紙を取り出した。

「弟さんからです」


 驚きの表情を浮かべながら、バルドは羊皮紙を受け取った。

「国王への陳情が済んだそうです、僭主のゴルドが隣領との交戦を始めたら、すぐに貴方のお父様のお城を奪い返されますようにって・・。ボクは王城の町で雇われたんです、賞金稼ぎなら領境を越えられますから。それと・・・」


 ティーリスがそこまで言うと、バルドは羊皮紙から目を離し、ティーリスを見てもう一度、月明かりによく照らしながら、羊皮紙をにらんで言った。


「君は報酬を貰う代わりに、私の元で戦いたいだって!?」

「はい」


 にっこり笑って、ティーリスは答えた。それは戦いに志願するものと言うより、ダンスに誘われた娘のような笑顔だった。

「フラドリー領主の子息バルドは、南領の騎士の中でも一、二を競う腕前というのは有名ですよ!、ボク、いい修行になると思ったんです!」

 バルドはまじまじと賞金稼ぎの娘を見つめ、やがて声を出して笑った。


「今日はおかしな日だな、だが共に戦ってくれる仲間は歓迎するよ!、ティーリス」

「はいっ!」

差し出されたバルドの手を握りながら、ティーリスは明るく答えた。

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