第2話 幼馴染と幸せに過ごしていたのに邪魔されました

 俺は変わった。


 命の恩人である、こはるの優しさに報いようと思ったんだ。


 ずっと連絡を取ってなかったこはると頻繁に連絡を取るようになった。こはる曰く、自分から連絡するのは恥ずかしくて出来なかったらしい。


 自分の殻にこもってないで、さっさと連絡をすればよかった。ごめんなこはる……。


 高校はこはると同じところに行こうと約束をした。

 それが俺の支えになり、残り半年のいじめにも耐えられた。


 でも、このままじゃこはるの隣に立つのにふさわしくない。


 だから俺は体を鍛える事にした。駅前に空手の道場があるからそこに通った。

 最初はしんどくて何度も辞めようと思ったけど、こはるが俺を励ましてくれたから頑張れた。


 こはるにずっと頼りきりで情けない。もっと強くならなければ。もうこはるに悲しい顔をさせないために。


 その一心で空手に打ち込んでいたら、痩せて筋肉もついてきた。

 身長も成長期のおかげか、グングン伸びた。


 そんな生活を続けているうちに、俺はついに高校生になった。


 大体が顔見知りばかりの中、こはるとは同じクラスになれたのが嬉しかった。

 西園寺とその彼氏も同じクラスだったが、そんなの気にならないくらい嬉しかった。


 そうそう、空手に通って体を鍛えて自信も少しついたからか、俺に対するいじめは高校に上がる頃には無くなっていた。


 ちょっと行動をすれば苦しみから抜けられたんだな……もっと早くやっていればよかった。でもそれだと、こはるともう一度話す事は無かったか。


「れんくん、同じクラスになれたね!」

「そうだな。クラスは二つしかないとはいえ、バラバラになる可能性もあったもんな。って、ちょっと気になってたんだけど」

「なに?」


 入学式が終わり、後は帰るだけになった頃、帰る準備をしていると、こはるが笑顔で俺に話しかけてきた。


 一緒に下校が出来ると思うと心が弾むけど、その前に気になっている事を聞かないと。


「こはる、眼鏡と髪型どうしたんだ?」

「えへへ、コンタクトにしてみたんだ。あと、美容室で髪をセットしてもらって……れんくんと一緒の学校に通えるって思ったら、私も頑張らなきゃって思って……へん、かな?」


 ちょっと照れくさそうにモジモジとするこはるは、あのダサい眼鏡もしていないし、髪もおさげじゃなくてゆるふわのウェーブがかかった髪を降ろしている。


 正直に言おう。超可愛い。こはるってめっちゃ美少女だったんだな……。


「全然変じゃないよ。良く似合ってる」

「っ! え、えへへへ……」


 素直に思った事を口にしただけなのに、こはるは頬を赤く染めながら喜んでいる。

 超可愛い。あとなんか恥ずかしくなってきた。


「と、とりあえず帰るか」

「う、うん! そうだ、駅前に可愛い小物屋さん見つけたの。一緒に行かない?」

「寄り道なんて、こはるも悪い子に育ったもんだな」

「そんなの誰でもするもん。はやくいこっ」


 俺の手を取って引っ張るこはるに、俺は苦笑いを浮かべながら歩き出す。

 教室を出る途中、西園寺がこっちを睨んでいた気がするけど……きっと気のせいだろう。



 ****



 特にいじめもなく、順風満帆な高校生活を半年ほど過ごした。

 季節は秋になり、最近長袖じゃないと少し肌寒く感じる。


 俺とこはるは、あれからも良い関係を続けられている。周りからはおしどり夫婦とからかわれるくらいだ。


「れんくん、お昼いこっ!」

「おう」

「今日も奥さんの愛妻弁当か。熱いねー!」

「うるせー!」

「お、奥さん……は、恥ずかしぃ……」


 今日もいつもの様にこはるに声をかけてもらい、高校で知り合った空手仲間の友人にからかわれつつ中庭に行く。


 中庭に行くと、俺達と同じように弁当やパンを持ってきて食べている生徒たちがちらほらいる。そんな中、俺達は適当にベンチに腰を下ろした。


「今日のお弁当は自信作なんだ~」

「いつも自信作って言ってないか?」

「えへへ、バレちゃった?」


 こはるは弁当の蓋を開けて俺に差し出す。今日も色とりどりのおかずが入っていて、とても美味そうだ。


 こはるは俺の為に料理を勉強しているようで、お弁当を毎日作ってくれる。

 嬉しいんだけど、毎日は流石に申し訳ない。


 そんな事を思っていると、こはるは卵焼きを箸で掴んで俺に差し出してきた。


「はい、あーん!」

「こはる? 自分で食えるから……」

「……イヤ?」

「イヤな訳じゃ…………あーん」


 俺はこはるのあーんの圧に負け、潔く口を開けると、卵焼きを優しく食べさせてもらった。

 こはるの卵焼きは甘めで優しい味わいでかなり好き――ん!?


「ごほっ、ごほっ! しょっぱ!?」

「え、うそ!? もぐもぐ……ほんとだしょっぱい! ごめんお砂糖とお塩入れ間違えちゃった!」


 な、なるほど……一瞬俺の味覚がおかしくなったのかと思った。

 あとその箸、俺にあーんした奴……か、間接キスじゃん……。


「れんくん、これ食べなくていいからね!」

「こはるが作ったんだろ? なら食べる以外の選択肢はないよ」

「あ……だ、だめだってばー!」


 俺はこはるに悲しい顔はさせない。中学の時にそう誓ったんだ。

 だから俺は、こはるの制止を振り切って弁当を全て平らげた。ちなみに卵焼き以外のおかずの味付けも失敗していた。


 それにしても、こはるがこんなミスをするなんて初めてだ。

 それに、なんで急にあーんなんてしたんだろう……ひょっとして、何かあったのだろうか。


「こはる、何かあったのか?」

「え、何もないよ!」

「俺が言うのもあれだけど、こはるは俺に隠し事をするのか?」

「うっ……」


 俺の言葉に折れたのか、こはるは視線を落としながらぽつぽつと話し始めた。


「私……暁くんに付き合ってくれって言われたの」

「暁……? あのあかつき龍児りゅうじか!?」

「……うん」


 暁龍児——西園寺の彼氏であり、中学の時に俺を虐めていた張本人。

 かなりのイケメンでカースト最上位の男なんだが、裏では弱者を虐めるクソ野郎だ。

 そんな奴がこはるに言い寄ってきたっていうのか!?


「暁には西園寺がいるのに……」

「私も気になったから聞いたらね、西園寺さんは裏表があって嫌いになったって……でも、西園寺さんや周りにバレると色々面倒だから、内緒で付き合おうって」


 西園寺と暁の間に何があったのかは知らないけど、こはるに近づくなんて……どれだけあいつらは俺から幸せを奪えば気が済むんだ!


 いや、落ち着け俺。


 万が一こはるが暁と付き合いたいって思ってたら? 俺の身勝手な考えで、こはるの気持ちを蔑ろにするのだけは避けたい。


「……こはる、もしお前が暁と付き合いたいならそうすればいい」

「そんな訳ないよ! なんでそんな事を言うの!?」


 凄まじい剣幕で怒られてしまった。でも、こはるが暁の所に行く気が無いのがわかって安心した。


「俺は暁の所に行ってほしくない。でも、こはるの幸せは俺の幸せだ。もし暁の所に行くのが幸せなら俺は応援する……それだけだよ」

「そんな訳ない……私にはれんくんだけいればいいもん!」


 俺の手を取るこはるは、涙目で俺の事を見つめてくる。

 こはるを想っての事とは言え、暁と付き合ってもいいなんて無神経だった……。


「ありがとう。ならなるべく一緒にいよう。あと暁には極力近づくな。何をするかわからないからな」

「うん……わかった。ありがとう、れんくん」


 俺の言葉に安心したのか、こはるはニッコリと笑ってくれた。

 くそっ、せっかくこはると幸せに過ごしているってのに……邪魔をするなんて許さない。


 こはるは絶対に俺が守ってみせる!

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