第3話 俺と幼馴染を邪魔するあいつらに仕返しをする事にしました

「れんくん、送ってくれてありがとう」

「気にすんな。何かあったら直ぐにスマホに連絡するんだぞ」


 放課後、俺はこはるを家まで送っていくと、家に入るまでしっかり見送った。


 何事も無ければいいけど……っと、母さんに頼まれていた夕飯の買い物に行くのをすっかり忘れていた。


「えーっと……人参、じゃがいも、玉ねぎ……」

「晩御飯、カレーなのかしら」

「ああ、多分……ん?」


 ごく自然に話しかけられたから普通に答えてしまった。一体誰だ?

 スマホから前方に視線を移すと、そこには制服姿の西園寺の姿があった。


「西園寺……」

「こうやってちゃんと話すのは久しぶりね」


 今更なんで俺の前に来たんだ。もしかして暁のように、俺とこはるの邪魔をするつもりか?


「今更何の用だ」

「最近のアンタ、かっこよくなってきたし、いい感じだから、彼氏にしてもいいと思って、わざわざ来てあげたのよ」


 おいおい、まじで邪魔をしに来たのかよ。半分冗談で思ってたのに、的中とは思ってもみなかった。


「俺をおもちゃとかふざけた事を言ってた奴が、今更何を言ってる。俺にはこはるがいる。もうお前なんか必要ない」

「あんな女の何がいいの? 誰がどう見てもアタシの方が可愛いわ」


 この野郎……! 俺の事を馬鹿にするのは百歩譲って構わないけど、俺を救ってくれたこはるを馬鹿にしやがって。


 きっとこいつの事だから、俺とこはるの仲を引き裂いて楽しもうって魂胆だろう。忌々しい。


「お前、暁の事は良いのかよ」

「龍児? 別にいいわよ。最近なんか飽きてきちゃったし。でも周りにバレるといろいろ面倒だから、高校生の時はこっそり付き合って、大人になったら本格的に付き合いましょ……ね?」


 随分と色っぽい上目使いで俺の事を見つめてくる。制服も胸元を開けているせいで谷間がはっきりと見えていた。

 過去の俺なら誘惑に乗っていただろうけど、今の俺は変わった。この程度へっちゃらだ。


 それにしても……こはるから聞いた暁の気持ちと、西園寺の気持ち。もうこのカップルは本当に互いの事を想ってないんだな。


 まあこいつらがどうなろうが知った事ではないが、うまくやれば西園寺と暁に仕返しが出来るかもしれない。


「……わかった。けどまずは友達からな」

「さすが廉也ね。じゃあラインの交換しておきましょ」


 馴れ馴れしく下の名を呼ぶな気持ち悪い。

 でも今だけは我慢だ。ここで怒ったら作戦が上手くいかなくなる。


 俺は必死に湧きあがる怒りを我慢しながら、西園寺とラインを交換してその場を後にした。



 ****



「……れんくん、それって本当なの?」


 買い物を済ませた俺は、再度こはるの家に行って先程あった事を彼女に話していた。


 それにしても、こはるの部屋とか何年ぶりだろう……なんか凄い緊張する。


「ああ。何の因縁かは知らないけど、あのカップルは同時に俺達に近づいてきたって事だ」

「そんな事あるんだね……」

「しかも二人してカースト上位の人気者だからなのか、周りにバレてその地位を失う事を恐れている」

「今のままだと浮気だもんね。普通バレたくないよね」


 そう、浮気。そこがポイントだ。

 あの二人が正式にキッチリと別れていれば問題ないのに、何故か別れ話を切り出せていない。そこを突く。


「それで、こはるに頼みたい事がある」

「なに? 私に出来る事ならなんでもいって」

「暁とデートをしてもらいたい」

「……ええ!?」


 うん、そりゃ驚くよな。近づくなって言ったの俺だし……。


「もちろん理由はある。よく聞いてくれ――」


 驚くこはるに丁寧に説明をすると、なるほどと頷いてくれた。


「れんくんの言ってる事はわかるけど……上手くいくかな?」

「俺は割と勝率は高いと思ってる。でも、こはるが嫌なら無理にとは言わない。俺はこはるの事が一番だから」

「私は大丈夫! 私だって、れんくんを苦しめた二人が許せないもん!」


 自分の事じゃないのにこはるは凄い怒りながら俺の手を取る。

 本当にこはるは優しいな……。


「ありがとう。こはるが危険な目に合わないように、空手仲間に見張りを頼むつもりだ。だから安心してくれ」

「うん、わかった。私がんばるっ」

「じゃあ作戦の実行は次の土曜日にしよう。頼むな、こはる」


 さあ、上手くいくかはわからないけど……俺のささやかな復讐劇、あいつらにたっぷりと味合わせてやる。



 ****



 運命の土曜日——俺は二つ隣の駅にある大きな公園へとやって来ていた。理由は勿論西園寺とデートするためだ。

 ここなら誰かに見られる可能性は低いから、警戒されにくいと思った故のチョイスだ。


「廉也ー! 待った?」

「いや、待ってないよ」


 公園の入り口でのんびりしていると、西園寺が少し息を切らせながら走ってきた。

 くそ、こんな奴と恋人ごっこみたいな事をしないといけないなんて……虫唾が走る。


「じゃあ行こうか」

「ええ!」


 俺は適当に声をかけてから歩き出すと、西園寺は俺の隣を陣取った。

 その場所はこはるの場所なのに……いちいち腹が立つ。


「今日はどこに行くの?」

「適当に散歩してからどっかに買い物でも行くか」

「無難だけど……まあ最初だし良いわ。行きましょう」


 偉そうにしやがって。けどその余裕たっぷりな態度、今すぐ崩してやる。


 俺は公園の中央にある噴水の元へと進んでいくと、噴水の所には見知った人間が二人立っていた。


「あれ、れんくん!」

「こはる? こんな所で会うなんて奇遇だな」


 俺とこはるはにこやかに挨拶をする一方、西園寺はこはるの隣に立っていた人物を見ると、目を丸くしながら震えていた。


「岡部……? それに愛羅!? なんでそんな男と!?」

「龍児こそ、なんでその女と一緒にいるのよ!?」

「俺、西園寺に付き合ってって言われたから、とりあえずデートしてるんだけど、こはるもか?」

「うん、そうだよ。暁くんに告白されたから、一回くらいは遊んでみてもいいかなって」


 一触即発と言ってもいいくらい、険悪な雰囲気のカースト上位カップルに油を注ぐように、俺とこはるは笑顔で話す。


 こはるにデートをしてくれと頼んだのは、この二人を鉢合わせて喧嘩させる事が目的だ。


 もちろんそれだけじゃない。俺はこはるの護衛を頼んだ空手仲間に、ある事も頼んである。


「そいつと付き合うってどういう事だ愛羅!」

「それはこっちの台詞よ! アンタ浮気してたの!? 信じられない! 最低!」


 お前も浮気してんだよなぁ……底辺同士で争うなよ見苦しい。


「バレないようにってここ選んだのに、ビックリだよ」

「俺も周りにバレないようにって言われてさ。大人になったらちゃんと付き合いたいとか言われたよ」

「へ、変な事言わないで!」

「愛羅! どういう事だ!」

「アンタはちょっと黙ってて!」


 あーあー全く見苦しい……なんで互いに悪いのに、一切謝らずに罵り合ってんだ。


「なんか大変そうだな。邪魔しちゃ悪いし、俺達は行こうか」

「そうだね」

「ちょ、廉也!? どこ行くのよ!!」

「愛羅! ちゃんと説明しろ!」

「うっさいわね! アンタに構ってる暇は無いのよ!!」


 くだらない言い争いをBGMにしながら、俺はこはると共にその場を後にする。

 少し離れると、こはるはぺたんと地面に座り込んでしまった。


「こはる!」

「無事に終わったからかな……疲れちゃった」

「そこのベンチで休もう」


 俺はこはるをベンチまで連れていくと、ゆっくりと座らせた。

 しばらく休んでいると、俺達の元に一人の男がやってきた。俺の空手仲間で、こはるの護衛と、とある事を頼んでおいた相手だ。


「わざわざ悪いな」

「なーに、お前の為ならこれくらい朝飯前よ! 頼まれていたものもばっちりだ!」

「ありがとう。あとで送ってくれ」


 さあ、準備は整った。ここまでは前座だ――あいつらにはさらに地獄を味わわせてやる!

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