冷凍タイムマシン

今日の課題:【冷凍】


人類の冷凍保存技術は完全な物になった。

金さえかければ、どんな人でも肉体を冷凍保存して、好きなタイミングで解凍することができる。

人間の冷凍保存技術は「未来行の片道タイムマシン」として完成した。

不治の病に侵された富豪が人生に絶望することはなくなった。

その病の治療法が確立されるまで冷凍保存し、しかるべき時に解凍すればどんな病でも治すことができる。

寿命とて恐らく例外ではない。

今はまだ人間は寿命を克服できていないが、人類が寿命と言う制限を克服した暁には自身を解凍すると決めて自身を冷凍するものもいる。


人類は冷凍技術を完全にコントロールしつつあり、あとはコストとの闘いである。

富豪だけでなくあまねく患者が治療を待てるようになれば人類は全ての病に打ち勝つことができるに違いない。


* * *


人類はほとんどすべての「病」を克服した。

ほぼすべての過去の病人が現在では解凍されて治療を受けている。

人類は疫病に打ち勝ったのだ。

これにより冷凍施設のスペース問題も改善し、枠が開かれた。

今後新しく生まれる病があったとして、それがパンデミックを引き起こさない限りは治療法の確立までの間、患者を冷凍することができる。

たとえその患者が貧しくとも。

人類はコストの問題に打ち勝ったのだ。

現在では冷凍処理のランニングコストは格段に安くなり、それを代替して支払う資金源も存在する。

今ではあらゆる「病」への対策が打てている。


ただひとつの「病」を除いて…

人はそれを「冷凍病」と呼んでいる。


* * *


冷凍病は正確には病ではなく一種の人災である。

冷凍技術発展途上の時代に冷凍された富豪たち。

彼らは未だに冷たい眠りの中にある。

人類は冷凍保管技術を掌握した。

しかし解凍技術はいまだ完全に確立されていない。

「不適切な冷凍」を施された過去の冷凍人類を後遺症なく解凍する手段はいまだ存在しない。


冷凍病患者。すなわち不完全な技術で冷凍された過去の富豪たち。

彼らの「生前」の資産を託された冷凍技術研究所はその資産の貸付利息でかつての富豪たちの冷凍を維持し続け、その資産運用の余剰分が研究所の維持と現代の冷凍希望貧者の冷凍コストを賄っている。

しかし、肝心の富豪たちを解凍する技術は未だ人類には成しえない神の御業なのだ。

現代医学において冷凍病患者は事実上の死者である。

その解凍を行えば立ちどころに死ぬことはなくとも大きな後遺症を負う。

それは彼らを冷凍した際の契約に反するために、解凍を試みることは許されない。

いつか。いつか彼らを適切に解凍する技術が生まれるまで、彼らは凍結され続ける。


全ての疫病を克服した人類に唯一残された過去からの負債。

貧者すら冷凍できる現代で、いち早く冷凍された過去の亡者を解凍する術はない。

それでもいつか。

いつか後遺症なく解凍する手段が生まれうる。

その希望を持つ限り、永遠に冷凍病患者は解凍されることなくただその未来を待つためだけに眠り続ける。

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