自分教/Myselfism
本日の課題:【宗教】
_ _ _
「自分教?」
「そう。自分教。英語では
「それがあなたの信じる宗教なの?」
「そうだね。もっと正直に言えば…」
「正直に言えば?」
「僕が作った宗教だ」
「宗教を作ったの? 自分で?」
「そうだよ、やっぱりおかしいかな?」
「普通、多くの人は既にある宗教を信じるもの。ちょっと変わってる」
「でも今の時代…いや、いつの時代も新しい宗教が生まれているよ。なら自分で作ったって別に構いやしないだろう?」
「変わってる。でも、そのとおりかもしれないわ」
「信じてるのは僕一人だけどね」
「じゃあ法王様なんだ。ああ、いや法皇様って特定宗教の言い回しだし…あなたの宗教では偉い人のことをなんて名付けたの?」
「さあ、考えたこともなかった。自分一人しかいないから地位や肩書なんていらなかったから」
「すっからかんなのね。そんなハリボテの宗教を作って何がしたかったの?」
「したかったわけじゃない。したくなかったのさ」
「どういうこと?」
「この宗教の教えは基本的に1つ。いや、2つ…3つかな」
「おかしい。何も決まってないのね」
「積極的に人に布教するつもりじゃあなかったからね。整理したことがなかったんだ。今 整理したよ。教えが2つと補足が1つになった」
「ひとつ目の教えは?」
「『あなたはその時あなたがしたくないことをしなくてよい』」
「したくないことをしなくてよい?」
「そう。したくないならしないことを選べる」
「それが教え? 誰でもできるわね、そんなこと」
「そうかな? 案外、みんなができてないことかもしれないよ」
「したくないならしなくていいなんて当たり前でしょ」
「じゃあ全ての人が働きたくて仕事をしてると思うかい?」
「…思わないわね。いやいや働いている人もいると思うわ」
「だろう? だからこそ、この教えには意味がある」
「でも、そう言われたからって仕事を辞められるものかしら?」
「辞めたいないなら辞められるさ。本当に辞めたいならね。お給料はもらえなくなるけど」
「じゃあ意味なんてないじゃない」
「そうかもしれない。結局この教えがあっても辞めない人は、自分教においてはしたくないことをしている状態にあると言えるね」
「それは信仰に反しないの?」
「反しない。『しないことを選べる』だけだから、することを選んでもいい」
「思った以上に空っぽな宗教なのね」
「うん。空っぽだよ。でも宗教だ」
「空っぽの宗教にはどんな意味があるの?」
「言っただろう? したくないことがあったから作った宗教だって」
「言ったわね。」
「つまりね、自分教は宗教で、その教えが『したくないことをしなくてもよい』であることは言い訳のために存在するんだ」
「言い訳のため?」
「例えば何かどうしてもしたくないことがあったとするだろ? もし自分教の信者なら例の決まり文句を使える」
「例の決まり文句?」
「宗教上の理由で、それはできません…」
「それは…最強の断り文句かもしれないわね。デリケートでそれ以上の追及を許さない拒絶の言葉になるわね」
「だろう? この宗教はあらゆるしたくないことを宗教上の理由でことわるためにあるのさ」
「それで、もうひとつの教えは?」
「もう一つの教えは表裏一体で『あなたはあなたに何を課してもいい』というものなんだ」
「課してもいい…? どういう風に使うの?」
「その日は宗教上の理由でどうしてもしなくてはいけないことがあって…とか」
「なるほど、本質的には同じで、言葉尻の話なのね」
「宗教上の理由でどうしてもしなければいけないことを作ることができる。便利だろ?」
「それでそれで? 最後の教え…じゃなくて補足だっけ? 補足はどんな内容なの」
「補足。ルールは宗教に勝つ」
「それはどんな役に立つ教えなのかしら?」
「創始者である僕の責任逃れのためにある。例えば自分教に従って誰かを殺すことを自分に課して捕まえられたくないと逃げることを選んだ人がいるとする」
「とても危険な話ね」
「自分教で許されているんだ!とその殺人犯が言えないようにするために補足がある。殺人は法で禁じられている行為だからね」
「なるほど。理解できたわ」
「入信してみる?」
「ええ。私も自分教を信じることにしたわ」
「そうか。それじゃあ他の人にも布教してみる?」
「残念ながら、それはできないわね。宗教上の理由で」
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